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『第六十五話 ダンジョン攻略戦in教会(Ⅳ)~べネックsaid 前編~』

 他のメンバーと別れたべネックは、右側の通路をゆっくりと歩き始める。

 先ほどまでと同じように松明が並べられており、明らかに出現する頻度が増えていた。

 そのため、通路は非常に明るい。


 通路の幅は一人で歩くには十分すぎるくらいあり、その分だけモンスターと遭遇する。

 ゆえにべネックは何度も立ち止まって、モンスターを倒していく必要があった。


「なんだ、このモンスターの量……。明らかにおかしいな」


 べネックは一人で呟きながら、こちらに向かってくるゴブリンを一閃する。

 胸を斬られたゴブリンは地に伏して消滅した。


 しばらく歩くと、煉瓦造りだった通路が、石造りの遺跡のような風貌に変わっていく。

 目の前には扉があり、左右にはドラゴンの石像が配置されていた。

 二体の石像は揃って扉の方を向いており、まるで扉を守護しているようにも見える。

 べネックはドラゴンの像を観察し、罠がないことを確認したあと、ゆっくりと扉を開けた。


「――っ!?」


 扉の向こうに広がっている光景を見たべネックは、思わず息を呑む。

 そこには全身が骨になったドラゴンが鎮座していた。

 今のところは動く気配はないが、少しでも近づいたら動き出しそうな雰囲気を出している。

 べネックだけで倒すとすれば、明らかに苦戦する相手だろう。


「これは……戻った方がいいだろうな」


 そう考えたべネックは部屋を出て、戦いを優位に進められるアイテムを探すことにした。

 幸いにもここはダンジョンだ。

 詳しく調べれば、隠し部屋の一つや二つはすぐに見つかるだろう。


 べネックは自身に【防御】をかけながら、遺跡の壁をゆっくりと調べていく。

 五分ほど調べたところで、ガコッという音とともに、右のドラゴン像が地面の底に沈んだ。


「あれが隠し通路か?」


 右のドラゴン像が沈んだことによって出来た通路を慎重に覗き込んでみる。

 残念ながら階段のようなものは見つけられなかったが、棒のようなものが配置されていた。

 これを掴んで降りろということなのだろう。


「棒には異常なしっと……」


 ヘルシミ王国に逃げ込んだべネックは、公爵令嬢ではなく、軍人として生きてきた。

 ゆえに公爵令嬢だったころの面影はなく、一本の棒だけで下に降りることなど造作もない。

 実にしなやかな動きで降っていく。

 地面に足をついたべネックは辺りを見回し、前方三十メートルのところに宝箱を発見した。


 しかし、ダンジョンはそう簡単に宝箱を開けさせたりしない。

 宝箱の前には、まるで守護神のようにハープをもった女が立っていた。

 肩まで流れる銀髪はサラサラで、わずかに吹き込んでくる風で揺れている。

 背には青い翼が生えており、ライトブルーを基調とした露出が多い服を着こんでいた。


「あらぁ……ここに客人なんて珍しいわねぇ……」

「人の言葉を話せて、なおかつハープを持っている女……。もしやセイレーンか!?」

「そうよぉ。私の名前を知っていてくれて嬉しいわぁ」


 セイレーンは、基本的には海に出ると言われている魔物だ。

 魅惑的な歌声で船の乗組員を惑わせ、遭難させてしまうと言われている。

 危険度はSSS級で、人の言葉を操れるほどの知能を持つこと。

 そして、彼女と遭遇して無事だった船は一隻もないことから、最大級のランクとなった。

 船の乗組員が巨大なイカ型の魔物、クラーケン以上に恐れる魔物でもある。


「なんでお前が陸上にいるんだ?」

「私はダンジョンに生み出されたんですよぉ。だからこんなものがついていますのぉ」


 セイレーンは自分の足を指で示す。

 確かにセイレーンの下半身は鳥の姿だと言われているが、目の前のセイレーンはどう考えても人間にしか見えない。

 背中に生えている、大きな青い翼がなければの話だが。


「なるほど。つまりお前を倒しても問題はないわけだ」

「ふふっ……そういう好戦的な人間は嫌いじゃないわよぉ。でも……私は負けない!」


 突然ハキハキとした喋り方になったセイレーンが、ハープを激しく鳴らす。

 美しくも激しい音色が奏でられるたびに、翼から様々な魔法が弾幕のように飛んでくる。


「うぉっ!?」


 べネックは咄嗟に転がることによって回避し、【防御】の能力をワンランクアップ。

 そのまま匍匐前進の要領で近づき、セイレーンの足を一閃した。


「きゃ!」


 セイレーンは突然の攻撃にバランスを崩した……ように見せかけて、鋭い蹴りを放つ。

 蹴りはべネックの腕に命中し、剣が手から離れてしまった。


「ちっ……闇の精霊よ、私の求めに応じて矢を放て。【ダーク・アロ―・レイン】!」

「させませんわ」


 武器を失ったべネックは魔法主体の攻撃にチェンジし、闇の矢を大量に発生させる。

 セイレーンは小さく何かを呟いたかと思うと、その場で歌いはじめた。


「…………」


 魅惑的な歌声が小部屋を包み、べネックの目の焦点が曖昧になっていく。

 変化はそれだけに留まらず、闇の矢も徐々に対象を変えていった。


「死になさい!」


 セイレーンが歌を切り上げて叫ぶと、大量の闇の矢が、一斉にべネックに向けて進む。

 正気を取り戻したべネックが気づいたときには矢が目前に迫っていた。


「うおぉ!?」


 べネックは【防御】のランクを最大まで上げて、手や足を使って大量の矢を捌いていく。

 しかし厄介なのはここからだ。

 この矢は破壊すると麻痺毒を撒き散らすように設計されている。

 セイレーンに効くかどうかは分からないうえに、自分は確実に麻痺してしまうだろう。

【防御】は毒などの状態異常までは防いでくれないのだから。


 ヘルシミ王国の王都が占領されるまで、あと二日と五時間。

 べネックは、セイレーンによって絶体絶命のピンチに追い込まれていたのだった。


少しでも面白いと思ってくださったら。

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