『第六十四話 ダンジョン攻略戦in教会(Ⅲ)~イリナ・アリアsaid 前編~』
他のメンバーと別れたイリナとアリアは、真ん中の通路をゆっくりと歩き始める。
先ほどと同じように松明はあるものの、明らかに出現する頻度は減っていた。
そのため、通路は非常に薄暗い。
通路の幅は十分すぎるくらいあるが、その分だけモンスターも多い。
ゆえにイリナたちは何度も立ち止まって、モンスターを倒していく必要があった。
「もうっ! 雑魚モンスターばっかり! 邪魔なのよ!」
「久しぶりにアリアの本性を見たわね……。確かに鬱陶しいけども!」
二人はイライラしながら進んでいたが、今までとは明らかに格が違う相手の気配を捉える。
イリナは剣をしっかりと握り直し、アリアはその場で杖を構えた。
戦闘態勢を整えた二人のもとに現れたのは、Aランク級のモンスター、スケルトンだ。
人型の骸骨で、左手には禍々しい気配を放つ弓を持っている。
弓の狙いが正確で、なかなか近づけないという点でAランク級に認定されている魔物だ。
スケルトンは小手調べといった感じで、二本の矢を放つ。
しかしイリナたちに当たるはずもなく、一本は剣で弾かれ、もう一方は魔法で撃墜された。
「スケルトンね。私が先行するからアリアは援護を頼むわ」
「分かった。気をつけて」
ペアとしては明らかに短い作戦会議だが、イリナたちは共に育ってきた義姉妹である。
ゆえに、これだけで完璧な連携を取ることが出来るのだ。
イリナが小さく頷いてから走り出し、持っていた剣を前に突き出す。
スケルトンも負けじと矢を放っていくが、アリアの魔法に阻まれ、矢を当てられない。
劣勢を感じ取ったスケルトンは徐々に後退していくが、アリアの方が一枚上手であった。
土魔法で壁を作り出し、スケルトンの退路を断ったのである。
追い詰められたスケルトンは骨をカタカタと鳴らし、矢が雨のように降り注ぐ魔法を放つ。
【ダーク・アロー・レイン】
第三騎士団が行った最初の訓練で、べネック第三騎士団長が使った技である。
その時はティッセに向かって放たれ、彼を麻痺に追い込んでリタイヤさせた技でもあった。
そのため、矢を打ち落とすのは危険だと思ったイリナは風魔法を選択。
黒い矢を一つ残らず散らした。
「覚悟しなさい! グリード式剣術の肆、【流星刺突】」
イリナが狙ったのは肋骨の間にある心臓である。
スケルトンは心臓が弱点で、完全に破壊されると息絶えるため、刺突が有効なのだ。
骨を完全に吹き飛ばすくらいの魔法を放ってもいいのだが。
イリナに心臓を貫かれたスケルトンは息絶え、骨をダンジョンの地面にバラまいた。
「ちょっ!? 痛いっ!」
勢いがついていた骨はアリアの腕を的確に撃ち抜き、持っていた杖が床に落ちる。
杖は床を転がり、なぜか壁をすり抜けていった。
「はぁ!?」
「壁をすり抜けていった……? つまり、この壁は何らかの形で作られた幻覚ってこと?」
イリナがポツリと呟く。
幻覚を作り出す魔法にもいくつか種類があるため、ここでは確定させることはできない。
しかし、アリアの杖が壁の奥に転がっていたのならば。
この奥に何らかの仕掛けが施されている可能性があるということだろう。
「お姉ちゃん、入るよ。あの杖はオーダーメイドで作ってもらった一級品なの。失くすわけにはいかないわ」
「壁の向こうに何があるか気になるし……行きましょうか」
二人の利害が一致したことで、イリナとアリアは壁の向こう側に足を踏み入れた。
壁の先は小部屋になっており、真ん中に宝箱が置かれている。
アリアは足元に転がっていた杖を回収したかと思うと、宝箱に向けて魔法を放った。
宝箱は氷に包まれただけで、特に反応はない。
罠はないと踏んだ二人は、氷に包まれた宝箱をゆっくりと火魔法で溶かしていく。
「あれ……この宝箱……」
「レア宝箱だね。噂には聞いたことがあるけど……まさか私たちが遭遇するなんて」
アリアが目を輝かせる。
レア宝箱とは、普通では手に入らない豪華な装備が入っている宝箱のことだ。
新しい能力を習得できるアイテムが入っている場合もあり、その価値は非常に高い。
冒険者がダンジョンに潜る理由の一つが、レア宝箱であると言われている逸品である。
「ねーねー、開けてみない?」
「そうね。この後にボス戦がないとは限らないし……開けちゃいましょうか!」
実に気が合う義姉妹である。
イリナたちは宝箱を持ち上げて元の通路に運ぶと、ゆっくりとレア宝箱を開いた。
「あ?」
「えっ……何よ、これ?」
中から出てきたのは、一冊の本である。
茶色に金の刺繍が施された本は高級感が漂っており、高価だと一目で分かる。
二人が不思議がっているのは、本の上に置いてある一本の骨だ。
先ほどアリアの肩を撃ち抜いた骨と同じくらいの大きさで、肋骨に当たるのだろうか。
骨の先端はやや尖っている。
「レア宝箱から出てきたんだし……何かに使えるのかしら」
「とりあえず持っていこうよ。こんなところで時間を使っちゃって……って私のせいか」
アリアが項垂れる。
彼女が杖を落としてしまったことで、頭を悩ませるような事態に陥ってしまったのだ。
しかし、イリナは快活に笑った。
「アリアが気に病む必要はないって。それよりさっさと進み……」
イリナの言葉が不自然に途切れる。
つられてアリアも前方を見ると、数十メートル先に、今まではなかった扉が出現していた。
扉には複雑な模様が彫られており、豪華さを演出している。
まさにボス戦に続く扉といった佇まいだ。
「もしかして宝箱がスイッチになっていたのかしら……」
「本来なら探索しなきゃいけなかったものが、杖のおかげでショートカットできたってこと?」
二人は静かに呟き、どちらからともなく扉に近づく。
イリナが扉を開けると、暗かった室内が照らされ、部屋の様子が分かるようになった。
「えっ……」
ヘルシミ王国の王都が占領されるまで、あと二日と五時間。
イリナとアリアは、部屋の中にいる“あるもの”に驚いていたのだった。
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