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『第六十一話 教会の闇(Ⅲ)』

 それにしても……脂ぎっていて、本当にオークのような人物だ。

 ようやく解放されたアリアなどは不快感を露わにしている。


「それで……お話とは何ですか?」

「くだらない前置きはいいわ。私が話したいのは報酬についてよ。交渉担当が私なの」

「ほう……報酬がどうかしましたかな?」


 自分のウィークポイントであろう本題に入ったのにも関わらず、表情を変えた様子はない。

 マスナン司教って意外と強敵なんじゃないか?


「とある噂を聞いたから、独自に調べさせてもらったの」

「なるほど……」

「その結果、イルマス教国が明らかに多額の報酬を受け取っていることが分かったわ」


 皇妃が畳みかけた途端にマスナン司教の顔が一瞬だけ曇った。

 質問の答えに窮しているのか?


「そうだったのですか。しかし……報酬については相手の合意もちゃんと得ていますよ」

「そうなんですか。しかし……ローザン共和国についてはどうですかねー?」


 ダイマスが微笑を浮かべて問いかける。

 しかし目はまったくと言っていいほど笑っておらず、恐怖を与える類の微笑ではあったが。


「そ、それは……」

「僕はリーデン帝国の元宰相にして第二王子でしてね。外交担当だったんですよ」

「ヒッ!?」


 マスナン司教が怯えたような表情で悲鳴を上げる。

 ダイマスはゆっくりとマスナン司教に近づき、胸元から金色のペンダントを出した。


「リーデン帝国第二王子として要求します。司教室に案内してください」

「第十五代皇帝の正妃、マース=リーデンとしても要求するわ。私たちを案内なさい」


 皇妃も首からかけていたネックレスを突きつけた。

 ダイマスも皇妃もただのアクセサリーなんか見せて……何になるんだろう?


「何してんの……?」

「あれはアクセサリーじゃなくて、魔力が含まれた魔道具よ。随分とレア物のはず」


 横から聞こえてきた声に、俺は急いで振り返る。

 そこには、呆れたようにダイマスたちを見下ろすアリアがいた。


「ア、アリア……?」

「ダイマス、皇妃様……私たちの目的は義姉の治療ですので、そっちが先です」


 アリアは冷たい声で言い放つと、ダイマスが持っていたペンダントを横から奪い取った。

 鎖がジャラリと音を立てる。

 ダイマスが静止する間もなく、アリアは居丈高に言い放った。


「義姉のイリナ=グリードの治療を今すぐにして。その後に司教室に案内しなさい」

「かしこまりました」


 マスナン司教は魔道具の効果か、小さく頷いた後にイリナの状態を観察しはじめた。

 しかし、それを邪魔したのが皇妃だ。


「ちょっと! 騎士ごときが皇妃である私を邪魔しないでよ! どんな魔力量なの!?」

「あっ……横から命令を割り込ませないでください!」


 アリアと皇妃が言い合っている中、べネック団長が苦々しい顔でダイマスに問う。

 その瞳は疲れ切っているように見えた。


「ダイマス、何なのだ、あの魔道具は」

「魔力を使って相手を従わせる魔道具です。皇家に秘蔵されていて使い捨てなんですよ」

「使い捨て……? でもアリアは使えてたよね。ダイマスが使った後なのに」


 一番最初に命令したのがダイマスだったはずだ。

 その後、皇妃が再び同様の命令を下し、アリアがダイマスの魔道具で命令を上書きした。

 つまり、ダイマスの魔道具は二回使われているのだ。

 疑問に思った俺が尋ねてみると、その質問に答えたのはイリナに付き添うアリアだった。


「リーデン十二家の面々は命令を上書きできるんです。皇帝が暴走したときの保険です」

「なるほど。例えば、病気の皇帝が下した無茶な命令を上書きできるようにってことか」


 べネック団長が納得したように頷く。

 十分ほど経ったところで、突然マスナン司教が応接室を出て行ってしまった。


「ちょっとどこ行くんです!?」

「私の施術が終わったからじゃないかしら? 皆さん、本当に申し訳ありません!」


 今まで空気だったイリナがゆっくりと立ち上がり、呆然とする俺たちに頭を下げた。

 真っ先に反応したのはアリアだ。


「お姉ちゃん……やっと治ったのね! 心配したんだよぉ……」


 イリナに抱き着いて涙を流している。

 べネック団長も、俺たちとともにその光景を見ていたが、ふと応接室を見て顔を歪めた。


「皇妃はどこに行った!?」

「そういえば私も疑問に思ったことが一つあります。皇妃の護衛がいませんでしたよね」


 アリアの言葉に、俺たちは頷く。

 皇妃は教会に入ってきたときも一人だったし、その後もずっとアリアを捕縛していた。

 護衛がいた様子はない。


「とりあえず司教室に行くぞ。私の予想が正しければマスナン司教が危ない!」

「まさか……」


 べネック団長と同じ考えに至った俺は、即座に応接室を飛び出した。

【気配察知】で皇妃の気配を探ると、なんと地下に気配がある。

 彼女の気配の隣にはマスナン司教の気配もあるが、動いている様子はない。

 皇妃の検分に立ち会っているだけならいいが……。


「ティッセ、皇妃はどこだ?」

「地下に気配があります! マスナン司教の気配も隣にありますが、動いていません!」

「くそっ……遅かったか!?」


 べネック団長が唇を噛んでいると、腰の剣に手をかけたイリナが応接室から出てきた。

 その後ろにはダイマスとアリアもいる。


「とにかく地下に行く階段を手分けして探すぞ。見つけたら大声を出して知らせろ」

「「「「分かりました!」」」」


 ヘルシミ王国の王都が占領されるまで、あと二日と七時間。

 第三騎士団は、ついにフルメンバーでの活動を再開し、教会を走り回るのだった。


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