表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/151

『第五十八話 教会へ』

 翌日、アマ村を出発した俺たちは、この近くにあるという教会へ向かっていた。

 俺たちが感づかなかっただけで、近くに教会はあったらしい。


 アマ村に行く途中で教会のものらしき服を着ていた人たちを見たが、彼らが今から行く教会の職員なのではないか、と話を聞いたべネック団長は推測した。

 俺たちは朝を待って、その教会に向かうことになったのだが。


「許しませんから」

「本当にすまなかった。あの時は酒を嗜んでいたからな。私も酔ってしまっていたらしい」

「ねえ……いつまでやってんの?」


 頭を深々と下げるべネック団長を見ながら、アリアが呆れたような声を出した。

 事の発端は、昨晩の空き家で起こった一件である。


 ダイマスがアリアに片思いをしているという事実を、べネック団長が漏らしてしまったのだ。

 怒ったダイマスはべネック団長に対する徹底的な無視を断行。

 俺とアリアが協力してイリナを看病していることもあり、べネック団長は話し相手を失った。


 暇を持て余したべネック団長は、話し相手を手に入れるべくダイマスに謝罪しているが、「許しませんから」の一言しか受け取れていない。

 そりゃ、下心満載の謝罪なんて誰も受け入れないだろ。


「べネック、無駄なお喋りはその辺にしときな。もうすぐ教会に着くぞ」

「分かっている! 馬車の窓で現在地くらい確認しているわ!」

「それならいい」


 御者のシルさんだけは、相変わらずべネック団長と軽いテンポで会話を重ねていた。

 時々、幼馴染みって強いよな……と思うことがある。


 俺はリーデン十二家という上級貴族の生まれであり、魔法が満足に使えなかったことも重なって、深い付き合いの友達なんて一人もいなかった。

 模擬戦などでボコボコにやられた俺を助けてくれた女子ならば幼馴染みにあたるだろうが、レッバロン家に引き取られてからは疎遠になってしまったからな。

 果たして彼女のことを幼馴染みというのかどうか……。


 昔のことを思い返していると、馬車がゆっくりと速度を落としていき、完全に停車した。

 ただし、深い森の中で。


「ちょっとシルさん!? 森の中じゃない! 魔獣でも出てきたらどうするのよ!」


 アリアがヒステリックに叫んだ。

 彼女は自分がアンナ=パールだと分かってからも、アリア呼びをみんなに要求した。


 曰く、「まだ確証は持てないし、みんなと会えたときの名前だから」だそうだ。

 しかし、周囲に丁寧な印象を与えていた敬語は取れてしまっている。

 こちらが彼女本来の話し方だろうし、男友達を相手にしているようで付き合いやすいが。


「魔獣は出てこない。少しばかり厄介なもので隠されているが、ここは教会なんだから」

「まさか……偽装結界……?」


 偽装結界というのは、簡単にいえばワープ装置のような役割を持つ結界のことを言う。

 通常の結界は中に入ろうとすれば後方に弾かれるのに対し、偽装結界は結界の終着点までワープさせて守るのだ。


 例えば十メートル先に結界の終着点があれば、偽装結界の中に入ると同時に十メートル先までワープするといった感じに。

 さらに正確な視覚を阻害する効果もあり、肉眼では結界の中にあるものは見えない。

 本当に厄介な結界だ。


 しかし、狭い場所ではすぐにバレてしまうため、あまり使われなくなったと聞いていたが。

 広大な森の中で、偽装結界に気づく者などいまい。

 もしかしたら少しばかり森を抜けるのが早くなるかもしれないが、大抵の人は誤差だと思ってスルーしてしまうはずだ。

 まさか偽装結界が張られているとは考えもしないだろう。


「それで、どうやって壊すの?」

「ティッセの魔剣なら簡単に壊れるはずよ。ここの結界はそんなに強くないし」

「すまん、無理」


 俺が首を横に振ると、アリア以外の全員が揃って目を見開く。

 ダイマスがハッとしたような表情で詰め寄ってきた。


「まさか昨日の金色に輝く魔法はティッセの魔法? しばらくその場で立ち竦んだよ」

「ああ、そういえばみんなには言っていなかったな。俺は元々レッドス家の人間なんだ」

「何だって?」


 ダイマスの声が強張り、ズボンのポケットから一通の手紙を取り出した。

 恐らくあれがヒナタ=パールからの手紙だろう。

 その手紙の中に合体魔法のことが書いてあったから、俺たちは試しに使ってみたのだ。


「合体魔法か……」

「そうだ。そうすればアリアの正体が確信に近いところまで持っていけるだろ?」

「まさか結界を壊すなんて予想していなかったし!」


 アリアが悲痛な叫び声を上げる。

 俺と彼女の二人が魔法を使えない状態だとすれば、一番頼りになるのは……。

 全員の視線がべネック団長に注がれる。


「いや、私も無理だ。教会内で戦闘にならないという保証がないからな」

「おい、べネック……」


 シルさんが何かを言いかけたが、べネック団長の殺気がこもった視線に口を噤む。

 イリナは未だにボーっとしていて廃人みたいな状態だし、打つ手がないと思われたとき。

 一人の少年がありえない言葉を発した。


「【支配者の分析】発動……結界強度は七百七十一だから……“あれ”で一発だな」


 ダイマスはそう言うと、蜂蜜色の髪を揺らして、妙なポーズを取った。

 そう……まるで剣を抜く直前のような……。

 ダイマスはその姿勢のまましばらく静止していたが、やがて自分の腰から少しばかり離れた場所を掴み、剣を振るようにスライドさせた。


「リーデン皇室式剣術の二、【真空剣・抜刀】」


 静かな呟きとともに、目の前に広がっていた森の一部が消え、白亜の建物が姿を現した。

 屋根は尖っており、壁の一部にはステンドグラスが輝いている。

 正真正銘、イルマス教の教会だった。


 ヘルシミ王国の王都が占領されるまで、あと二日と十二時間。

 ついにメンバーを治療できる場所まで辿り着き……また新事実が明かされていく。


少しでも面白いと思ってくださったら。

また、連載頑張れ!と思ってくださったら、ぜひ感想や評価をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ