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『第五十三話 とある公爵令嬢の話(べネック視点)』

あと一話閑話を挟んで、第三章は終了です!

次回の第四章は……ついに奴らが!

 私はティッセの言葉に、目の前が真っ暗になるような感覚を覚えた。

 どうしてティッセが昔の名前を知っている?

 まだ未熟で……愚かな公爵令嬢でしかなかったころの忌々しい名前を!


「どうしてお前が知っているのだ! 昔からの相棒たるデールだって知らんのに!」

「初めて寮に入った時、第二騎士団の面々から聞きました。第三騎士団は前団長の死によって一旦は閉鎖されたと。そして前団長の意思を継ごうとしている者がいるとも」

「なるほど。私がお前たちをスカウトして第三騎士団を復活させたのだから、意思を継ぐ者というのは自動的に私となるわけか」


 私は思わず苦笑した。

 第二騎士団の面々は口が軽い奴が多いから、ティッセの言っていることは真実だろう。

 まったく……余計なことをしてくれる。

 おかげで私は事実確認を含めて、色々と手続きを済ませなければならない。


「それで? どうして昔の名前を知っているんだ?」

「教会の人が来たんですよ。ほら、ダイマスの能力を確認しに行った時のシスターです」

「あ、あいつ!」


 私はイルマス教本部のシスター長であるエイミーと犬猿の仲にある。

 原因は私がエイミーの勧誘を煙たがり、イルマス教に入らなかったからなのだが。

 あいつがチクったのか。


「それであいつは何を言っていたんだ?」

「確か、“あのべネックとかいう女はリーデン帝国から来たのよ。ロマナ家っていう公爵家から。帝国では今でも捜索命令が継続して出ているらしいから、通報してやれば? リーデン帝国での権威も復活するわよ?”って言っていましたね」


 私の質問に答えたのは、いつの間にかティッセの横に立っていたイリナだった。

 彼女の目はひどく冷静で、感情がないように思える。


「もちろん断って追い返しましたよ。私をあの国から救ってくれた恩人を売れるわけがない」

「俺のところにも来たぜ。あまりにも失礼だったから、思わず魔剣を突きつけちまった」


 ティッセが怒りを声に滲ませながらそう言った。

 二人のところに来ているということは、当然残りの二人のところにも行っているのだろう。

 エイミ―……次は教会との戦争だろうか。

 今回の魔物が氾濫した事件にも、教会が関わっているとティッセから聞いたしな。


 そんなことを考えていると、パーティーが行われている広場が騒がしくなってきた。

 段々大きくなる喧騒に気づいたのか、ティッセとイリナも訝しげに広場の方を振り返る。


「ティッセ、魔物か?」

「違います。広場の中心部で肉が焼かれているのですが、女子と男子が一人ずつ肉の前で言い争いをしているようです。何を言っているのかまでは聞き取れませんが」

「“その肉は私が先に取るのよ!”という風に聞こえました。恐らく騒動の原因は女子です」


 イリナがそう言って広場を見やる。

 剣士は距離をとる魔術師から身を守るため、耳を訓練すると聞いたことがあるが。

『緑の剣姫』ことイリナも例に漏れず耳がいいようだ。


 部下の思いがけない能力を頼りに思いながら広場に戻ると、争う二人の姿が見えてくる。

 騒動の原因とイリナが言った女子は十歳くらいで、淡い桃色のドレスを着ていた。

 恐らくはお忍びで来ていた貴族令嬢だろう。

 見渡せる限りでは両親の姿はない。

 村長の姿も見えないし、上層部同士の会合でもしているのだろうか。

 それにしても……あの女子は数年前の私を思い出すな。


 まだべネック=ロマナだった頃の私は甘やかされて育ったため、傲慢で我がまま放題。

 よく近所の子供たちを泣かせたものだ。

 そんな私を両親は根気強く説得しようとしてくれていたが、私は聞く耳を持たなかった。

 だからライバルの公爵家によって私の悪事が明るみに出て、没落してしまったのだが。


 この令嬢には私と同じ道を辿ってほしくない。

 自分のせいで親戚全員に迷惑をかけるなんて、みんな望んでいないはすだしね。


「そこで言い争っている二人、ちょっといいか?」

「何よ?」


 私が声をかけると、件の令嬢が険しい表情でこちらを見やった。

 突然の来襲に驚いている少年の方は、礼服を着ている様子がないので村人だろう。


「ヘルシミ王国第三騎士団長のべネック=シーランだ。そこで何を騒いでいる?」

「この男、私が食べようとしていた肉を横取りしようとしたので叱っているのですわ」

「嘘をつくな! お前が割り込んできたんだろう!?」


 額に青筋を浮かべて怒る少年に、令嬢は冷たい視線を向けた。

 ああ……昔の私がいる……。


「大体、男爵令嬢たる私に平民が気を遣うのは当然でしょう? 肉を取る順番も私が先!」

「この村では関係ないね。そもそも男爵って何だよ。偉そうな女のことか?」

「はぁ!?」


 バカにされた男爵令嬢が、目を吊り上げて飄々とした少年を睨む。

 私は男爵令嬢に近づいて視線を合わせた。


「まずは君の名前を教えてくれるか?」

「騎士団長って言ってたわね……。私の名前はエマ=ローガスです。よろしくですわ」

「そうか。おい、この肉を私にくれ!」


 名前を聞いたのはあくまで社交辞令だという雰囲気を出しながら、私は肉を指で示した。

 途端にエマの表情が曇る。

 しかし騎士団長という名乗りが聞いているのか、こちらを弱々しく睨むだけに留めていた。

 これはもう一押し必要だな。


「切り分ける部分はここにしてくれ。他の部位はいらん」

「ちょっと待ってください! そこは私が予約していた部分です!」

「私は一応シーラン公爵家の令嬢だ。男爵令嬢であるエマよりも先なのは当然だろう?」


 そう言ってやると、エマの顔色が一気に悪くなった。

 そして気まずそうな顔で横に立っていた少年を見やると、意を決した表情で頭を下げる。


「数々の無礼を謝罪しますわ。本当にごめんなさい。肉は二人で分け合いましょう?」

「ああ。俺もすまな……すみませんでした。貴族様だとは知らずに無礼なことを……」

「そんなのはいいのよ。べネック様……貰っても?」


 絶対に私が譲ると思っているところはまだまだ我がまま令嬢だが、今はこれで十分か。

 そう思った私は頷き、切り分けられた肉をエマに渡した。


「ありがとうございます!」

「べネック団長、いつもありがとう!」


 肉を受け取ったエマと、隣にいた少年――村長の息子のランドル=アマも快活に笑った。

 今まで陰で分からなかったが、火に近づいてきたことで明らかになったのだ。

 彼は血の気が多いところがあるから、是非ともその欠点を直してほしいところだな。


 肉を仲良く頬張る二人を眺めていると、腰に括り付けていた連絡用の石が震えた。

 これは一対で使う道具で、通信石という名前を持つ。

 その名の通り、離れた場所で連絡を取り合える石なのだが、これが使われたということは王都で緊急事態が発生したということだ。

 私は嫌な予感を覚えながら通信石を耳に当てると、宰相から恐るべき事態が伝えられた。


 曰く、リーデン帝国軍二万が門を強行突破して侵略してきたと。


少しでも面白いと思ってくださったら。

また、連載頑張れ!と思ってくださったら、ぜひ感想や評価をお願いします!

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