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『第五十一話 初めての依頼⑭』

 俺たちが駆けつけたとき、ビッグシャドウベアーは既に瀕死の状態だった。

 鉄壁の防御を誇る毛皮こそ残っていたが、足の裏など毛皮がない場所は傷だらけである。


「もうすぐ死にそうね。そしてこいつは亜種だったわ」

「亜種って……危険度Sランクのビッグシャドウベアー・ネオですか!?」


 アリアが素っ頓狂な声を上げる。

 ビッグシャドウベアー・ネオは毛皮に【防御力向上】という能力を付与している魔物だ。

 能力を使える三大魔物のうちの一つである。


「そんなのが召喚されるなんて……イルマス教は何を考えているのかしら……」

「火の精霊よ、我の求めに応じて防御を貫け。【煉獄剣】!」


 俺はイリナの呟きを聞きながら、黒い炎が揺らめく剣を取り出した。

 煉獄剣は相手の防御力を無視して攻撃できる剣であるが、一日に一度しか使えない。

 ゆえに俺は今まで温存していたのだ。

 ビッグシャドウベアー・ネオならあれ以上レベルアップするし、判断は間違っていないはず。


「それは……」

「ええ、俺の最終奥義です。何としてもビッグシャドウベアー・ネオをこの場で潰します」


 べネック団長の問いに答えた俺は前を向く。

 ビッグシャドウベアー・ネオは、なおも凶暴な目でこちらを見据えていた。

 俺とビッグシャドウベアー・ネオの視線が交差する。


 その瞬間、ビッグシャドウベアー・ネオが大きく体を震わせたかと思うと、鋭い爪が伸びる。

 伸びた爪は、近くにいたジュリアを襲った。


「ジュリアさん、危ない!」

「ちっ……土の精霊よ、俺の求めに応じて壁を作れ。【土壁】!」


 後ろから焦ったような詠唱が響き、爪は壁に勢いよく刺さったまま動かなくなった。

 ジュリアが後ろを振り向いて固まる。

 土の壁がなかったら自分は死んでいたことに気づいたのであろう。


「ロブル、ありがとう」

「瀕死の獣の前で油断するんじゃねぇ。そいつらは自分が死ぬ間際で強くなるからな」


 杖を突いたロブルが、油断のない目つきでビッグシャドウベアー・ネオを睨む。

 その顔は鬼のように恐怖を想起させた。


「ロブルさんは待機していた方が……傷口が開いてしまいます!」

「そいつは出来ない相談だな。ビッグシャドウベアー・ネオの息の根を止めるのは俺だ」


 自信満々に宣言し、無詠唱で土弾を打ち込むロブルさん。

 しかし、こちらとしても他国の騎士団に手柄を横取りされるわけにはいかない。

 今まで攻撃を続けていたべネック団長がこちらを振り向いて叫ぶ。


「何をしている! さっさと攻撃するぞ!」

「分かっています。【煉獄剣】があれば毛皮も関係ありませんし。俺がこの熊を殺しますよ」


 総指揮官の意地を見せてやる。

 それに誓ったはずだろ?

 俺は隣国で騎士になって成り上がってやるって!


 ヘルシミ王国には俺の名前を知らない人がいないほど強くなって……あいつらを見返す。

 あの我がまま皇帝の顔が楽しみだぜ。

 さて……目標の再確認はこのくらいにしておいて、目の前の熊を張り倒してやりますか。


「煉獄式剣術・再演! レッドス家の血を起動! 【煉獄烈火・真】!」

「何これ……?」


 ジュリアさんが小さく悲鳴を上げる。

 いや、ジュリアさんだけではない。

 何十人という兵士たちが、ビッグシャドウベアー・ネオの体に起こった異変に気づいた。

 もっとも、気づかないはずもないのだが。


「爆裂!」


 俺がキーワードを口にすると、ビッグシャドウベアー・ネオの毛皮が爆音とともに爆ぜた。

 これで残っている体力は恐らく二割ほどのはずだ。

 今の技で驚いた兵士たちも、手ごたえを感じてすぐに殺到するし、少しの間は静観かな。

 そう思った俺は少し後退した。


 すると待ってましたとばかりに騎士たちが魔法を放った。

 作戦の遂行中、ヘイトを稼ぐために魔法を放ったが、あれと比べるのもおこがましいほど大量の魔法がビッグシャドウベアー・ネオに直撃していく。


 ジュリアさんが、ロブルさんが、べネック団長が、ダイマスが、イリナが、アリアが、放つ。

 自分に出せる最大級の魔法を放っていく。

 ビッグシャドウベアー・ネオの目から段々と光が消えていき、完全に消える直前。


「これでっ……終わりだ!」


 俺は手に持っていた煉獄剣を思いっきり突き刺した。

 その瞬間、アマ村中に断末魔の悲鳴が迸り、ビッグシャドウベアー・ネオは力尽きた。


 ラスボスが死んだのだ。


 ビッグシャドウベアー・ネオは光の粒となって消えていき、同時に空が明るみ始める。


 新しい朝だ。


 村人たちにとっても、そして俺たちにとっても新しい朝が来たのだ。

 もう大量の魔物に悩まされることはない。

 みんなの能力を阻害する結界のようなものも、完全に取り払われた感覚がある。


「朝だ……」


 そう呟いたのは誰なのだろうか。

 しかし、朝が来たことでみんなの気持ちも晴れたのだろう。

 朝の訪れを感じていたしみじみとした声は、やがて勝利した歓喜の声に変わっていく。


「よっしゃあああ!」

「あの化け物を俺たちで倒したんだよな!?」

「これでアマ村にも平穏が戻るのね……よかった……」


 みんなが互いの健闘を称え合っている様子を見ていると、第三騎士団のメンバーが来た。


「ティッセ、お疲れ様」

「魔剣を使った戦いはさすがね。でも、みんなに攻撃させて最後だけってのは反則よ!」

「これでアマ村は救われたんですね。皆さん、本当にお疲れ様でした」


 ダイマス、イリナ、アリアが次々と言葉を発しながら、大きな岩に座る俺の隣に並んだ。

 思えば、今回はみんなに助けられたなぁ……。

 冒険者時代は味わえなかった達成感で、正直どうにかなってしまいそうだ。

 初めて酒を飲んで酔っぱらったときがこんな感じだっただろうか。


「はぁ……。何だか実感がわかないや。俺は本当にやりきったんだよな?」

「何なの? 今日は随分としつこいわね。あなたは勝ったの。指揮を執りきったのよ」

「そうですよ。自信を持ってください!」


 イリナが面倒そうに、アリアが励ますように言う。

 ここでようやく肩の荷が下りた感じがして、俺は強張っていた体をほぐすように伸びをした。

 すると村長が俺たちのところに向かってくるのが見えた。


「あれ、村長さん?」

「騎士団の皆さん、アマ村を救っていただきありがとうございました。感謝します」

「いえいえ。それが僕たちの仕事ですので」

「それでも何かお返しをしなければ。というわけでパーティーに参加してくれませんか?」


 村長はそんなことを言って微笑む。

 俺たちは顔を見合わせて、一斉にべネック団長のもとに走りはじめた。


少しでも面白いと思ってくださったら。

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