『第四十六話 初めての依頼⑨~ダイマス視点~』
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ホワイトバード・シャドウを倒しきった僕たちは、ティッセの指示で北側へ向かう。
そこでは、ジュリアさんの部下が率いる軍勢が戦っていた。
「失礼します。ティッセの指示で加勢に来ました。指揮をよろしくお願いします。えっと……」
「俺の名前はロブルだ。フルシミ王国の第三騎士団で副騎士団長を務めている」
「わざわざすみません。僕はヘルシミ王国の第三騎士団に所属しているダイマスです」
「それじゃダイマス殿、あちらの畑にいる敵を倒してくれないか?」
ロブルさんが示す場所を見てみると、Aランク相当の魔物であるホワイトバードがいた。
先ほどまで戦っていたホワイトバード・シャドウの下位版である。
「分かりました。お心遣い、感謝します」
「俺は何も考えてねぇよ。ただ、俺の軍は魔術師が少ないから討伐が難しいだけだ」
ロブルさんはそう言うと、僕たちに背を向けた。
それと同時に、傷を回復したり、魔力を回復させる効果があるボーションが運ばれてくる。
恐らくはティッセの指示だろう。
このポーションは村長の家に貯めてあったものかな。
「こんなに大量のポーションを運ぶなんて……ティッセさんはどこまで先を見据えているのでしょう?」
「指揮をやってみろって言ったのは私たちだけど……予想以上の才能ね」
イリナとアリアが呆然としている。
僕も、まさかティッセ=レッバロンにここまで指揮の才能があったとは思わなかった。
正直に言って、用心深い皇帝が危険視するのも頷けるというものだ。
その後は難なくホワイトバードを倒して、北側の魔物をほぼ全滅まで追い込んだ。
木の剣で戦っていたはずの村人が一人もいなかったが、ティッセが避難させたのか?
「ロブルさん、北側での戦いはもうすぐで終わりそうですね」
「ああ。だが、少しおかしいこともある。総指揮官のもとに向かわせた伝令が帰ってこねぇ」
「伝令が帰ってこない?」
今まで、ティッセはあり得ないくらいの早さで伝令を戻らせていた。
ところが、ロブルの話によれば、最後に伝令を送ったのは三十分も前だという。
「もうすぐ終わるぞって連絡を送ったんだが……もう魔物が全滅しちまったじゃねぇか」
「確かに。今までとは差異がありますね」
「ちょっと待って! 村長の家の辺りから変な魔力を感じるわよ!?」
「何ですって!?」
イリナの言葉に、ロブルさんと僕が慌てて村長の家がある方角を見やる。
すると、確かに妙な魔力が吹き荒れているのが感じられた。
「何だあれは?」
「【分析】が出した答えは、強力な聖属性の魔術です。しかし、あれだけの魔力なら……」
上位の司祭か、最悪の場合は大司教という可能性だってある。
【分析】によると、イルマス教というヘルシミ王国で広く信じられている宗教の魔力だ。
だとしたら、なお悪い。
イルマス教の大司教はローザン=ピックという女性で、【模倣】という能力持ちだ。
またホワイトバード・シャドウを従魔として飼っており、そいつ自身も強力な魔術を使う。
はっきり言って、ギルドマスターでも相手になるかどうかというレベルの相手である。
危険度はもちろんSS級。
ホワイトバード・シャドウがS級のため、合わせるとSSS級となってしまうかもしれない。
まさに格が違う相手というやつだろう。
「もしかして総指揮官は一人で戦っているんじゃないか? みんなを傷つけないようにと」
「だから伝令が指示を仰ぐことが出来ないと言うのですか!?」
そうだとしたら、いくら何でも無茶だ。
ヘルシミ王国をほぼ掌握している宗教団体の第三席となんて、互角に戦えるはずがない。
相手が手加減してくれなければ、本気で死んでしまう!
「ロブルさん、急いで行きましょう。ティッセが死んでしまいます!」
「落ち着け。それは無理な相談ってやつだな」
てっきり一緒に行ってくれるものだと思っていただけに、僕は愕然とするしかなかった。
コイツはティッセが死んでもいいと言うのか!?
「どうして……」
「魔力溜まりのボスが出てきたからだよ。お前も聞こえるだろ? 不快な鳴き声が……」
「この鳴き声は……ビッグホワイトベアー!?」
僕は急いで辺りを見回すが、幸いにもビッグホワイトベアーの姿は見えなかった。
ビッグホワイトベアーは、二階建ての建物とほぼ同じ大きさがある熊の魔物だ。
その巨体からは信じられないほどの早さで拳などを繰り出してくる、厄介な魔物でもある。
危険度はS級だが、最近ではSS級への昇格も検討されていると聞いた。
どうしてこんな時に、そんな厄介な魔物が……。
「もうすぐ夜だからな。それまでに出てこなければこちらのターンだろう」
「そうか、今までの傾向からして聖属性の魔物ですものね」
「ああ。聖属性の魔物は毛皮が光る性質があるからな。むしろ夜のほうが狩りやすい」
ロブルは表情を変えずに呟いた。
その目には一抹の悔しさが滲んでいたから、彼もまたティッセを助けたかったのであろう。
でも僕たちが離れるわけにはいかなかった。
僕たちは騎士なのだから、村人たちの暮らしを守る責任がある。
それが非常にもどかしい。
僕たちは無言のまま、村長の家で渦巻く魔力を眺めていた。
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