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『第四十五話 初めての依頼⑧』

 一時間ほど指揮を執っていると、大体の状況が分かってきた。


 難癖おじさんが担当している北側はダイマスたちの援護もあって優勢で戦えている。

 ジュリアさんが担当している東側は全ての魔物の討伐が終了。

 彼女たちは、そのままの流れで手つかずとなっていた南側を担当しているところだろう。


 西側はべネック団長たちの力で魔物はほぼ倒せているようだし、もうすぐ全滅するはずだ。

 あれから村人の避難も進んでおり、俺が指揮を執り始めてからは一人も死んでいない。

 俺は細かく指示を出しながらも、一抹の違和感を抱いていた。


 "あまりにも上手く行き過ぎている"。


 数時間前にジュリアが人為的なものだと言っていたが、その誰かがこの状況を見たら。

 何の手も打って来ないのは異常なのだ。

 魔力溜まりを濃くするだとか、最終兵器を投入するとか、策はいくらでもあるはずなのに。

 どうして何もしてこない?


 俺の不安はこの一点に直結する。

 相手が何もしてこないのは、この状況を覆す伏線を仕込み終わっているからではないか。

 そのような思いがずっと頭の片隅に燻っているのだ。


「ジュリア様から報告で、南側の魔物は残り十体だそうです」

「分かった。北側の方は何か来てない?」

「ロブル様からの報告で、魔物は残り三体ほどなので全て倒した後の指示を乞いたいと」

「本来ならこっちに帰ってきてほしいけど……ボスの存在が気になるな」


 俺はしばし思考の海に沈む。

 魔力溜まりによる魔力の大量発生は、ボスを討伐することによって完全に終了する。

 しかしボスを見たという情報が一つもないことが問題なのだ。

 目撃情報があれば部隊をピンポイントで動かすことが出来るが、この状況では不可能。

 したがって警戒させておくしか方法はない。


「難癖おじさん――ロブルに、そのまま北側に留まってボスを捜索してと伝えてくれる?」

「分かりました」


 伝令が部屋を出るのを見届けたとき、ついにそれが動きだした。

 ボス戦の際に第二王子をどう制御するか考えていると、背中に強烈な痛みが走った。


「グッ!?」

「ティッセ様、どうしましたか?」

「俺に近寄るな! 全員ゆっくりと後退してこの部屋を出ろ。早く!」


 違和感の正体はこれか。

 ボスを投入する前に、総指揮官を務めている俺を排除する狙いだったのだろう。

 やっぱり種は巻き終わっていたのだ。


「理由を説明してくだされ。アマ村の村長として総指揮官殿を見捨てるわけには……」

「ホワイトバード・シャドウが潜んでいたんだよ!」

「あの白い悪魔ですか。分かりました。私は邪魔だと思うので撤退させていただきましょう」


 やっぱり村長は頭が回る。

 自分がこの部屋にいても、護衛対象にしかならないということを咄嗟に理解したか。

 そして護衛対象というのは俺の足枷になるということまで。


 村長が撤退して一人になったところで、俺は椅子から立ち上がって虚空を睨む。

 ここからは俺のターンだ。

 俺の背中を切り裂いた度胸は褒めるに値するが……もちろん見逃すはずもない。


「火の精霊よ、我の求めに応じて剣に宿れ。【獄炎剣】!」


 いつも通り、魔剣を作って振るう。

 しばらく手ごたえがなかったが、五回ほど振ったところで何かを斬った感覚があった。


「GYAAAAA!?」

「やっと姿を現したな、ホワイトバード・シャドウさんよ。俺が直々に討伐してやる!」


 そう言って剣を構える俺を見て、ホワイトバード・シャドウは後退していく。

 今さら逃げようとしても遅いって。


「一気に決着をつけちゃおうか。火焔式剣術の伍、【獄炎地獄の舞・花】」

「GYAAAAA!」


 いきなり最強クラスの技を繰り出した俺だったが、素早い身のこなしで避けられていく。

 するとお返しとばかりに【ホーリー・ライト】が飛んできた。


「危なっ……」

「元Sランク冒険者がわざわざ相手しているのね。私の従魔に随分なご挨拶じゃない?」

「誰だ!?」


 背後から声が聞こえてきたので振り返ると、ジュリアが黒い笑みを浮かべていた。

 そうか、【気配察知】を切っていたんだった。

 多くの人の気配を感じて気持ち悪いため、一時的に【気配察知】を切っていたのだ。

 だからホワイトバード・シャドウやジュリアに気づかなかったんだな。

 まあ、両方とも俺の【気配察知】に引っかからなかったことがあるから言い切れないが。


「何であんたが……」

「言っておくけど、本人ではないわよ。ジュリア騎士団長の姿を一時的に借りているだけ」


 さらに衝撃的なことを口にするジュリアの姿をした女。

 だから【隠密】を使うことが出来るんだな。

 恐らくこの女の能力は【模倣】という、人の姿と能力を借りることが出来るものだろう。

 厄介なことこの上ない。


「指揮官といえば大抵は参謀とかと一緒にいるものだけど……まさか一人だけとは」

「撤退させただけだぜ。あんたもコイツも、この『緋色の魔剣士』一人で十分だからな!」

「女神の使徒たる私に剣を向けるとは愚かね……」


 その言葉を合図にして、彼女はシスターよりも少し豪華な服を着た女子に変化した。

 年は俺の妹と同じくらいか。

 肩まで伸びた銀髪が夕焼けの光を受けて輝いており、胸には金色のロザリオがある。

 明らかに高位のシスターといった風貌だ。


「自己紹介をさせていただきますわ。私はイルマス教の大司教、ローザン=ピックです」

「ヘルシミ王国の第三騎士団所属、『緋色の魔剣士』ことティッセ=レッバロンだ」


 自己紹介を終えた俺たちは、お互いにゆっくりと一礼した。



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