『第四十四話 初めての依頼⑦』
首を傾げていると、ダイマスが呆れたような表情をした。
「総指揮官が何を言っているんだ。ティッセは村長の家にでも行って大人しくしてなよ」
「えっ、指揮官も戦わなきゃいけないんじゃないのか?」
「だからギルドマスターがおかしいの! あんたが戦ってたら誰がすぐに指示を出すのよ」
「確かにそう言われると……」
ギルドマスターがあの時以外はどうして後方で指示を出しているだけだったのか。
それは戦場を俯瞰するためだ。
俺はそんな簡単なことも分からないほど、ギルドマスターに毒されていたのか。
全く自覚がないだけに、段々と恐ろしくなってきた。
自分が知っている知識のうち、どこまでが真実で、どこまでが嘘なのかすら分からない。
一人で戦慄していると、後ろから村人らしき人物が話しかけてきた。
「すみませーん」
「うわっ!? いきなり後ろから声を掛けてこないでよ!」
「皆さんのお話を聞いてしまったので。必要であれば村長の家にご案内しますが……」
「それはありがたいけど。後ろから声を掛けないで。ビックリするから」
しかも俺の文句を一回スルーしたよね。
少し釈然としないが、村長の家に案内してくれるというのだから大人しく従っておくか。
ダイマスたちにホワイトバード・シャドウの討伐を依頼すると、俺は村長の家に向かう。
道すがら、村人たちが転がっている姿をよく目にする。
ジュリアは魔物が赤い目をしていることに気づき、“人為的な魔物溜まり”と称していた。
あの言葉の意味は分からない。
俺には、人為的に魔力溜まりを作れるかどうかすら分からない。
でも……魔力溜まりから現れた大量のモンスターのせいで、多数の死者が出ている。
何の罪もない村人たちの。
第三騎士団のみんなが言う通り、俺にビック・ボアを倒せる指揮能力があるのだとしたら。
少しでも死者を減らすことが出来るのだろうか。
そんなことを考えていると、村の中でも一際大きい建物の前で村人が止まった。
ここが村長の家か。
確かに、雰囲気はモンスターと戦うときにギルドマスターが留まる天幕である。
その証拠に、建物を観察している間にも、多くの村人らしき人物が何人も出入りしていた。
彼らの多くが伝令であり、村人だけで構成された部隊の壊滅を知らせるものなのだろう。
みんな悔しそうな顔をしている。
挑んだ相手に返り討ちにされ、大切な仲間を失い、それでも報告しなければならない。
それを恥じている顔。
俺も悠長にしている場合じゃないな。
包帯を巻いた伝令に続いて家の敷地に入ると、多くの人物の喧騒が耳に入ってくる。
そして俺は、聞こえてきた会話の一つに耳を疑った。
曰く、第二王子が魔法を無差別に打ちまくっているので村人が巻き込まれているという。
幸いにも死者は出ていないようだが……王族の姿としては非常識なわけで。
俺は舌打ちをしてから家の中に足を踏み入れた。
もう遠慮はしない。
村人たちを死から守るのが騎士団の仕事であり、総指揮官を任された俺の仕事だ!
俺は大きく息を吸って、叫ぶ。
「皆のもの、ここからはティッセ=レッバロン第三騎士団長代行たる俺が指揮を執ろう!」
すると、その場にいた人たちがギョッとしたような顔でこちらを振り返った。
しかし、一番年上だろう初老の男性だけはこちらを見ようともしないで指示を出している。
彼がアマ村の村長かな?
「まずは西にいる村人たちを全員避難させてください。第二王子だけで戦力は十分です」
「待て。貴様は何者だ?」
「フルフス王国第三騎士団長から魔物討伐の総指揮官を任された『緋色の魔剣士』です」
俺は笑顔を浮かべながら言う。
こちらの素性が分かった瞬間、村長らしき老人がピタリと固まった。
「まさか『緋色の魔剣士』がアマ村に来るとは……それだけこの村を心配して……」
「国王陛下はアマ村を大切に思われていますよ。現に二つ名持ちが村に四人いますから」
もちろん第三騎士団のメンバーだ。
そう伝えると、村長らしき老人は感極まったように涙を流して自身の机を明け渡した。
「ティッセ殿、この村をお救いください」
「もちろん、そのために俺が来たんですから。元Sランク冒険者を舐めないでください」
俺は不敵に笑ってみせる。
本当は今も自信なんてなかったが、こういうのはハッタリが大事だって言うじゃないか。
大丈夫、きっと何とかなる。
自分を鼓舞した俺は、伝令の報告を聞きながら指示を出していく。
「ティッセ様、シル殿から見渡す限り、魔物が一体になったと連絡が入りました」
「そうか。それなら一旦戻ってくるように伝えて。馬車をこの場所に駐留させておきたい」
「分かりました」
危なくなったら村長だけでも連れて、さっさと逃げてもらう。
その際の移動手段は、卓越した運転や戦闘が出来るシルさんに頼むのが一番安全だ。
「ティッセ様、ダイマス殿からホワイトバード・シャドウを壊滅させたと連絡が」
「そうしたら……北側に向かわせて。難癖おじさんだけじゃあの数の魔物はキツイでしょ」
戦力は出来るだけ西側には向かわせない。
魔法を乱射する第二王子や、戦闘の達人であるべネック団長に頑張ってもらおう。
こうして俺は指揮に没頭していくことになるのだが、そのせいで危険に気付けなかった。
俺が開けたドアから入り込み、今までずっと背後に潜んでいた白い魔鳥に。
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