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『第四十話 初めての依頼③』

 王都を出発してから三日後、俺たちはヘルシミ王国で最も西にあるアマ村に到着した。

 ここまで特に邪魔されることはなかったため、宿で見た教会の人は俺の勘違いだろう。

 この辺りに教会なんて存在しないしな。

 そんなことを考えていると、窓から外の景色を眺めていたアリアがポツリと呟く。


「酷いですね。魔物の被害が相当深いように見えます」

「そうだな。魔物の氾濫が起きると、貧しい村は甚大な被害を受けることも多いから……」


 俺は外の景色を眺めながら呟いた。

 村の周りを覆っていたであろう木の柵は壊され、畑の中でも戦闘が起こったのであろう。

 根元から折れた作物が赤黒く染まっていた。

 剣戟や魔法の着弾音が聞こえてくるから、今も村のどこかで戦闘が行われているのか。


「あっ! あの狼は綺麗ですね。誰かの使い魔でしょうか」


 アリアが馬車の進行方向を指さして呟く。

【魔物使い】という能力ならば、魔物を使役して一緒に戦うことが出来るから、その類か?

 好奇心からアリアが示す方向を見た俺たちは、思わず悲鳴を上げそうになった。

 そこでは、雪のように白い毛並みを持つ狼が自分を囲む村人と睨み合っていたのである。


 狼の気配はべネック団長に匹敵するくらい強いし、恐らくはBランク以上。

 革の鎧に木の剣しか持っていない村人たちが戦うには危険すぎる!

 俺が冒険者時代の知識から危ないと判断したとき、ダイマスも悲鳴に近い声を上げた。


「あいつはホワイトウルフ。聖属性でAランクの魔物だよ!」

「村人たちが危険だな。私は援護に向かうから、お前たちは馬車が止まったら来い!」

「分かりました。ってええ!?」


 俺の返事を待たずして、べネック団長が疾走する馬車から飛び降りた。

 しかし地面に叩きつけられることはなく、華麗な身のこなしでホワイトウルフに斬りかかる。


「シルさん、早く馬車を止めましょう」

「そうは言うがな……どこも魔物だらけで安全に止まられる場所がないんだ」


 シルさんの言葉に辺りを見回すと、そこら中を白い毛並みの魔物がうろついていた。

 村人たちが総出で抑え込んでいるものの、軒並み苦戦状態にある。


「それじゃ、出来るだけスピードを落としてください。俺たちも飛び降りますから」

「ティッセとアリアは魔法の準備をして。スピードを落としたら魔物たちが寄ってくるわよ」


 イリナが剣を構えながら叫ぶ。

 確かに今の段階で魔物が襲ってこないのは、返り討ちにできるほどの勢いがあるからだ。

 勢いが弱まったらこちらにも来る!


「分かったわ。氷の精霊よ、私の求めに応じて氷の矢を準備せよ。【アイス・アロー】」

「火の精霊よ、我の求めに応じて剣に宿れ。【炎獄剣】!」


 俺とアリアが精霊を待機させたのを確認したシルさんが徐々にスピードを落としていく。

 しかし、予想に反して魔物たちは馬車に見向きもしなかった。

 そのまま失速した馬車は空き地で静止したため、俺たちは勢いよく飛び出すしかない。


「【アイス・アロー】発射!」

「火焔式剣術の参、【獄炎演舞・飛翔型】!」


 まずは俺とアリアが準備していた魔法を放ち、遠距離から援護を行う。

 先制攻撃によって魔物たちは毛皮が燃え、冷たい氷が貼りついて動きが鈍くなっていた。

 そこに、剣を構えたイリナとダイマスが突っ込んでいく。


「グリード式剣術の弐、【円心斬】!」

「はっきり言って目障りです。さっさと消えてくれませんかねぇ!」


 魔法の攻撃に怯んでいた敵が二体、強力な剣術によって反撃の余地なく沈んでいった。


「よし、まずは二体を仕留められたわね」

「でも……まだまだたくさんいるな。今回の魔力溜まりはどんだけ規模が大きいんだよ」


 実を言うと、アマ村の光景を目にするまでは別の可能性も考えていた。

 しかし、これだけの魔物が発生しているとなれば原因は魔力溜まり以外に考えられない。

 ざっと見積もっただけでも、あと百体くらいはいるだろう。

 俺たちが先の見えない戦いにウンザリしていると、西の方の魔物がなぜか狼狽し始めた。

【気配察知】を使って見てみると、魔物の先に明らかに強い気配を持つ存在がいる。


 これは……人なのか?

 もし純粋な人だとしたら、べネック団長どころかギルドマスターよりも強いだろう。

 それほど気配が強く、精錬されているように感じられた。


 俺が得体のしれない気配に戦慄していると、

「私たちは東の魔物を担当しましょう。西から妙に強力な気配を感じるわ」

「ああ。【分析】を使った結果、完全な敵ではなさそうだけど……気配の出し方が異常だよ」

 イリナとダイマスも圧倒的な気配に気づいたのか、東の魔物の討伐を提案してきた。


 これは俺にとっても好都合な展開だといえるだろう。


【気配察知】は相手に微小な違和感を与えるので、相手の感覚が鋭かった場合は戦闘になる前からこちらの手の内を晒してしまう恐れがある。

 ゆえに俺はイリナの提案に乗ることにした。


「俺もそれがいいと思う。あれだけの気配を出せるのなら、西はアイツ一人で十分だろう」

「私は皆さんの決定に従います」


 最後にアリアがそう言ったことにより、俺たちは東の魔物を担当することが決まった。

 そして東を向いたとき、今まで存在を無視していた人物が戦っているのが目に入る。


「シルさん!? 戦えるんですか?」

「当たり前でしょう。自分の身は自分で守るのが御者の鉄則です!」


 得意げに叫んだシルさんが、純白の毛を持つ大きな虎を一太刀で屍に変化させた。

 これ……俺たちいらなくない?


少しでも面白いと思ってくださったら。

また、連載頑張れ!と思ってくださったら、ぜひ感想や評価をお願いします!

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