『第三十六話 第三騎士団の訓練~後編~』
「最後はティッセに来てもらおうか」
「分かりました。俺のスタイルは魔剣士なので魔法と剣の併用も大丈夫ですよね?」
「ああ、許可する」
べネック団長のお許しを得た俺は剣を構えつつ、後方に精霊を数体待機させた。
出来れば勝ちたいけどなぁ……。
「それでは僕が審判を引き受けましょう。両者構えて……始め!」
「能力発動、【防御】!」
「火の精霊よ、我の求めに応じて剣に宿れ。【獄炎剣】!」
ダイマスの叫び声とともにべネック団長が防御の能力を発動し、防御力を上げる。
俺は火の精霊を剣に宿らせることで剣術を強化。
攻撃力をアップさせた俺と、防御力をアップさせたべネック団長が剣を交えた。
「はああああ!」
「お前の攻撃力アップはそんなものか? それじゃ私の能力は貫けないぞ!」
ほぼ最大出力だというのに、鍔迫り合いになっているべネック団長の剣は動かない。
これ……下手すればAランク冒険者のマッデンよりも強いんじゃないか?
あの時は精霊の力で技を発動したが、今回は返せるビジョンが思い浮かばないぞ。
「火焔式剣術の伍、【獄炎地獄の舞・花】」
「クッ!?」
俺は門の前で放ったものより数段階上の技を放つことで強引に押し返し、距離を取る。
魔剣士の強みは近接戦闘も遠距離戦闘も隙なく出来ることだ。
相手がべネック団長のような剣士タイプならば、とにかく距離を取ってしまうのが有効だ。
「火焔式剣術の肆、【飛翔の焔】」
「私に斬撃が効くと思っているのか!?」
べネック団長が叫ぶが、放った俺も斬撃が有効打になるとは微塵も思っていない。
だからこそ放った斬撃の後ろにピタリとくっつく形で前進し、視界外から奇襲攻撃を放つ。
俺の数少ない得意技の一つだ。
しかし、べネック団長は全てを見切ったとでも言いたげな表情をして――消えた。
「あれ……団長はどこに行ったの?」
「闇魔法って本当に有効なのね。私も闇の精霊を使役して、無詠唱を極めようかしら」
グリード姉妹の会話が聞こえてくる中、俺は気配察知の能力をフル回転させる。
どこだ? どこに潜んでいる?
恐らくべネック団長が使ったのは闇魔法の【隠密】という技だろう。
影であればどこにでも隠れられるという、非常に厄介な性質を持つ闇魔法である。
「チッ……全く気配を感じないだと!?」
「最終兵器だからな。ティッセは誇っていいぞ。この技を私に使わせたのは二人目だ」
「初めてじゃなかったんですね!」
どこからか聞こえる得意げな声に投げやりな返事をしながら、必死で頭を働かせる。
もし俺が【隠密】を持っていたらどこに隠れる?
このように周囲を警戒している時に、一番死角になりやすい場所といえば……。
「火の精霊よ、我の求めに応じて火の弾を作れ。【ファイヤー・ボール】」
完成したファイヤー・ボールを、俺は自分の影に向かって放った。
予想が的中し、ファイヤー・ボ―ルが影に着弾するより先にべネック団長が出て来た。
「素晴らしい。よく私の居場所が分かったな」
「ええ。先ほどのような状況で一番警戒するべきは背後からの急襲ですからね」
俺は何でもないことのように答えながらも、魔法の準備をしておく。
というのも、相手はまだ【隠密】の効果が残っているはずだ。
影が豊富なところで戦おうものなら、すぐに潜られて気配察知が使えなくなってしまう。
ゆえに俺は光が当たるところで戦いたい。
しかし、当然ながら相手は影が広がるところで戦おうとするに決まっている。
それならば――先手を打って影を潰してしまえばいいのだ。
「火の精霊よ。我の求めに応じて最大級の火力で燃やせ。【インフェルノ・ネオ】」
「な、何をする気だ?」
警戒したように能力のレベルを上げたべネック団長だが、俺の目的は攻撃じゃない。
フェンスなどの影に着弾した炎は、激しい音を立てて燃え上がった。
「なるほど。影を潰したということか」
「そうですよ。これであなたが隠れたら背後に出来ている影に隠れているということだ」
さっきと同じ場所ならば対処も容易い。
これでべネック団長は、最後の切り札である【隠密】を失ったわけだ。
「もう一回行きますか。火焔式剣術の肆、【飛翔の焔】」
「この私が大分追い詰められているな」
苦笑いしたべネック団長が斬撃を払ったところで、横からファイヤー・ボールを出した。
彼女は自分の死角から放たれた攻撃に動揺し、数十本の闇の矢を放ってくる。
「いつの間に火の弾を……【ダーク・アロー】!」
「数が多いと厄介ですね。火焔式剣術の壱、【火炎車】!」
闇の矢を剣で潰した俺は再び距離を縮めようとしたが、そこで致命的な違和感に気づく。
体が……思うように動かない!?
足を動かそうと精一杯力を込めるものの、さらに苦しくなった俺は地面に崩れ落ちる。
「な、何をしたんです!?」
戦いの途中に呪いを喰らったことなど、これまで一度としてなかったのに。
どうやって呪いを掛けたんだ!?
こちらに余裕の表情で近づいてくるべネック団長は地面に刺さった黒い矢を拾う。
あれは……狙いが外れていたから放置していた矢か。
「今回の矢は特別製でな。攻撃すると麻痺の効果を持った小さい闇が散らばる仕組みだ」
「俺はそいつを吸いこんじまったってことですか」
両手を上げて降参の意を示した俺の喉元に木剣が軽く当てられ、負けが宣言された。
「そこまで。審判であるダイマスの名のもとに宣言する! 勝者はべネック団長!」
「ティッセ、私が思っていた以上に強かったぞ。良い勝負だった」
べネック団長は俺に優雅な一礼をすると、木陰で休んでいたアリアの隣に腰を下ろした。
俺は頭を掻きながら同じく木陰に戻る。
「お疲れ様。ティッセって本当に強いのね。元々Sランク冒険者だったのも納得だわ」
「もう少し持つと思ったんだけどな。まさか闇の矢でやられるとは」
「確かにあれは厄介だね。どうにかして対策を考えないと」
ダイマスが意地悪そうな笑みを浮かべて、べネック団長の方を見つめていた。
おいおい、何をする気だ?
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