『第三十一話 寮での一悶着』
ヴィル国王は意味深な笑みを浮かべてべネック団長を見やる。
「べネックも変わったな。前であれば地図だけ渡して放置だったであろう」
「ちょっ……メンバーが聞いているんですから、黒歴史を話すのは勘弁してください!」
慌てるべネック団長を見ていると、ルナ王妃は咳払いをしてからこちらを振り向いた。
その目は真剣で、俺たちは思わず息を呑む。
しかしルナ王妃の口から出たのは、慈愛に満ちた聖母のような優しい声だった。
「べネック団長は不器用ですが優しい人物です。必ず皆さんの力になってくれるはずよ」
「……そうなんですか。頼りにしてみます」
呆気に取られたような顔をしたイリナがたどたどしく返事をした。
「コホン、それでは寮に案内するぞ。ついてこい」
「はい、分かりました。国王様、王妃様、王太子様も付き合わせてしまってすみません」
ダイマスが頭を下げた。
三人は一瞬だけ呆然としていたが、すぐに我に返ると無言で手を振ってくれる。
ミックザム第一王子は何やら照れているようで、顔が真っ赤だ。
それを見た俺とダイマスは揃って微笑を浮かべた。
案内役のべネック団長に続いて歩いていると、空に多くの星が煌めいていることに気づく。
ギルドにいた時は星なんて見る暇なんてなかったのに。
ギルドマスターの命令で、あちらこちらに休みなしで飛び回っていた記憶しかない。
この選択、成功だったかもな。
厳しいのは変わらないだろうが、今までと違ってゆっくり過ごすことも出来そうだ。
そんなことを考えながら歩き続けることしばらく。
目の前に、数の違う剣と盾のシンボルが取り付けられた白い建物が見えて来た。
とても分かりやすい寮だな。
「ここが君たちに住んでもらう寮だ。剣の数が三本の建物の二階だな」
「なるほど。剣の数で建物の違いを現しているのは面白いですね。分かりやすいです」
「騎士団の数が剣の数ですね。僕たちは第三騎士団だから剣が三本の建物って感じで」
イリナとダイマスが感心したように呟いた。
ちなみにヘルシミ王国には、第一騎士団から第四騎士団まで四つの騎士団が存在する。
それに加えて近衛騎士団もあるのだが、今は関係ないので割愛。
ベネック団長は魔物討伐を主とする第三騎士団の指揮官で、俺たちもそこの所属だ。
「それじゃ、鍵を渡すから今日は各自で休め」
「えっ、べネック団長もこの寮に泊まるんじゃないんですか?」
イリナが疑問を投げかけると、べネック団長は黙って一番端っこの建物を指で示した。
その建物には剣が五本書かれていた。
「昔は第五騎士団もあったんだが、今は廃止されてな。団長はあそこに泊まるのだ」
「そうなんですか。今日はお疲れ様でした!」
鍵を受け取った俺が一礼すると、全員が俺に追随するように頭を下げはじめる。
やっぱり最後はしっかりとした挨拶で締めないとな。
「お前ら……。こちらこそお疲れ様と言っておこう。馬車の旅で疲れているだろうし休め」
「はい! 失礼します!」
アリアが屈託のない笑顔で頷いてから寮に入っていく。
俺たちもアリアに続いて建物に入ると、目の前に現れたのはひたすら並ぶドアだった。
「えっと……意外と広いんだな」
「ええ。一体、何部屋あるんでしょうね。見た感じは二十部屋くらいでしょうか?」
アリアがズラッと並ぶドアを見て唸る。
そういえば、第三騎士団のメンバーって今のところ俺たちしかいない。
戦果を上げたりするとメンバーが増えたりするのだろうか。
「僕たちは好きな部屋に泊まれるね。後からメンバーが増えたら空いている部屋かな?」
「こんな広い寮に私たち四人だけって……もったいないわね」
イリナが辺りを見回して呟く。
確かにこんなに広いと、二階に上がる階段を探すのも苦労するだろう。
長い廊下をゆっくりと歩いていると、ちょうど奥の部屋から誰かが出てくるところだった。
俺たちは立ち止まって首を傾げる。
「あれ? さっきまでの話と矛盾するわね。どうしてこの寮に人がいるのかしら?」
「聞いてみるしかないか」
俺はそう言うと、部屋から出てきた男性が鍵を閉めようとしている隙に近寄った。
今がチャンスだ! 聞くなら今しかない!
俺は怖がらせないように出来るだけ優しく声を掛けた。
「すみません。ここって誰の寮でしょうか?」
「えっ、第二騎士団の寮じゃないのか? 団長から第三騎士団が解散したって聞いたし」
「第三騎士団が解散した?」
目の前の人物が何を言っているのかが分からず、俺は問い返す。
俺たちが所属しているのは第三騎士団のはずだが。
「ああ、第三騎士団長だったレル=ブラスという人物が戦死してな。そういえば……第三騎士団長の片腕だったっていう人物が第三騎士団を継ごうとしていたな」
男が虚空に視線を彷徨わせながら言う。
第三騎士団長の片腕だった人ってもしかして……。
「とりあえず今日のところは空き部屋に泊まりましょう。第二騎士団が関わっていますし」
「そうだな。もう一つだけ聞きたいのですが、空いている部屋はどこですか?」
「んっ? お前ら第二騎士団の新入り兵か。鍵にも書いてあると思うが二〇一の辺りだな」
「あっ……」
男に言われて鍵をよく見てみると、部屋番号がしっかりと刻まれている。
どうやら聞く必要のないことを聞いてしまったみたいだな。
俺は咄嗟に苦笑いを浮かべるしかなかった。
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