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『第三十話 王への謁見(Ⅷ)』

申し訳ありません! 予約投稿が出来ていませんでした!

 あれから判明したことだが、ルナさんは王妃で、ミックザム少年は第一王子だそうだ。

 この二人は俺たちより先に馬車に乗っていたのだが、外からでも空気の悪さが分かる。

 お互いがそれぞれ反対側の隅に座って、顔も見ようとしない。


 俺たちは何ともいえない気持ちになりながら馬車に乗り込むしかなかった。

 そして剣を一本磨けるくらいの時間で教会に到着。

 馬車を止めた庭の奥に小さい木が植えてあるが、あれが神樹だろうか。

 べネック団長も小さな木に気づいたのか、怪訝な表情をしてそれを見つめている。


「あれは神樹か? あんなに小さかったら結界としての役割を果たせないと思うのだが」

「そうですね。何か事情があるのかもしれません」


 神樹は結界の役割を果たす珍しい木で、よく貴族の庭などに植えられているはずだ。

 教会も重要施設のため、国王直々に神樹が植えられたと馬車の中で聞いたが……。


「こんな小さな木で、大きな教会は守れなくないですか?」

「そうだな。この教会は呪いでもかかっているのか、神樹が大きく育たんのだ」


 ヴィル国王は諦めたように首を横に振った。

 ルナ王妃とミックザム第一王子も同意する。

 すると、べネック団長が眉をひそめて問いかけた。


「第二王子であるアレッサ様のお力を借りてもですか?」

「ああ、十万人に一人と言われているレアな能力でも育たんのだからお手上げじゃ」

「まさか【神の加護】ですか!? それはまた随分なレアスキルを……」


 イリナが愕然としたように叫んだ。

【神の加護】は、所有者が持つ全ての能力を等しくアップさせる能力である。

 かなり珍しい能力で、十万人に一人しか得られない能力だと伝えられているほどだ。


「あの……今日はダイマスさんの能力を確認しに来たのですよね?」


 アリアの言葉で全員が我に返った。

 俺たちは、不敵な笑みを浮かべながら仁王立ちをしているダイマスの方向を向く。


「ダイマスの力で神樹を助けられるのか?」

「うーん……僕の能力で調べたら“聖水不足”って出てきたけど」


 首を傾げたダイマスが呟いたとき、教会の扉が開いて一人のシスターが飛び出してきた。

 今にも噛みつかんとばかりにべネック団長を睨んでいる。


「神聖なる教会本部に何の用ですか?」

「騎士団の者が能力の披露をしたいというから連れて来たのだ。お前こそ暇なのか?」

「そっちこそ。わざわざ能力確認のためだけに教会に来るなんて!」


 皮肉をたっぷりと込めたやり取りを始める二人。

 注意が自分たちに向いていない隙を狙って、隅に植えられている神樹に近付いていく。

 やがて神樹に触れたダイマスが不敵な笑みを浮かべてヴィル国王を見据えた。


「国王様。今から目を疑うような奇跡が起こるはずです」

「何を……ってその氷は何じゃ!?」


 神樹の根元に氷を置いたダイマスは、悪戯っ子のような笑みを浮かべて俺を手招きした。

 俺が近づくと、ダイマスは自分が置いた氷を指さす。


「氷を融かしてくれない? 僕は火の精霊と契約をしていないから無理なんだよね」

「分かった。火の精霊よ、氷を融かせ。【ファイヤー・ボール】」


 小さめに調整した火の球を浮かべ、氷に触れるギリギリの高さで制止させ続ける。

 融けた氷が神樹が植えられた地面に吸い込まれていった。


「危ないから、少し離れた方がいいかもよ。皆さんに見せたい奇跡はこれからです」

「了解した――ってあれは!?」


 国王の叫び声に振り返ると、さっきまで小さかった神樹に大きな変化が起こっていた。

 葉が青々と茂り、幹は大木のように太くなっていく。

 ダイマスが力を与える前までの弱々しい神樹の面影は、もうどこにもない。


「これが僕の能力です。名前は【分析】。物事の状態や性質などを把握できる能力ですね」

「カラーズに支給されている分析の魔道具に似た効果でしょう」


 横からべネック団長が補足説明を加える。

 俺はカラーズとやらが気になるが、国王様がいるせいで聞くに聞けないんだよな。


「能力はよく分かった。それで……どうして神樹が成長できたんじゃ?」

「まず一つ聞きたいことがあります。神樹には特別な水などを与えていましたか?」


 ダイマスが尋ねると、代わりにミックザムが口を開いた。

 その視線は教会のシンボルであろうステンドグラスを見つめている。


「聖水を与えるように申し付けたはずだが……。まさか聖水不足で小さな神樹に?」


 なかなか鋭いな、ミックザム第一王子。

 すると悔しそうな顔をしたルナ王妃が負けじと意見を述べる。


「それなら全ての事象に説明がつきますわね。さっきの氷は聖水の氷ということですか」

「さすが王族の皆様。完全正解ですよ」


 ダイマスは優しく微笑んだかと思うと、次の瞬間には氷点下の微笑を浮かべた。

 顔は笑っているが、目は全く笑っていない。


「問題はどうして聖水不足なんて事態が起こったかですが……今はいいでしょう」

「そうだな。この件は調査を得意とする第四騎士団に回しておく」


 ヴィル国王もそう言って頷いた。

 すると、ルナ王妃が夕焼けに染まっていく空を見上げながらヴィル国王に進言する。


「もう遅いですし、寮に案内するよう言われては?」


 えっ……寮だって?

 俺たちは目を丸くしながら、それぞれがべネック団長に視線を向けた。

 みんなに視線を向けられたべネック団長は、優しい笑顔を浮かべて膝をつく。


「そうですね。私が案内いたします」


 そう言ったべネック団長にも何やら暗い影があるように思えて、俺は密かに首を傾げる。

 この国の中心部には……何かがある。


 外国から来た俺たちには話せない秘密を、この場にいるみんなが抱えているはずだ。

 べネック団長も、ミックザム第一王子も、ルナ王妃も、そしてヴィル国王も。

 けれど“それ”が何なのかは、今の俺には全く分からなかった。


少しでも面白いと思ってくださったら。

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