『第二十八話 王への謁見(Ⅵ)』
このまま戦いを始めてもいいのだが、俺たちにとっては周りの兵士たちが邪魔だ。
恐らく半分の兵士を倒したところで模擬戦は終わるだろうし、そうなるとルイザを倒せない。
だから兵士たちには黙って見ていてほしいのだが。
そんな俺たちの思いを汲み取ったわけではないだろうが、ルイザが兵士たちに叫ぶ。
「お前らは邪魔をするなよ! この小娘の要望通り、最終決戦といこうじゃないか!」
「随分と余裕ですね。それならサクッとお姉ちゃんの仇を取ってあげましょう」
額に青筋を浮かべたアリアが詠唱をしている間、俺とべネック団長が剣術で攻める。
しかし大剣のパワーに押されてなかなか攻撃が通らない。
「精霊よ、私の求めに応じて無数の氷の矢を放て。【アイス・アロー・レイン】」
「魔法をいくら放っても私には効かないから無駄だぞ」
アリアが援護として放った氷魔法は、ルイザが着ている鎧に当たった途端に消滅していく。
あの鎧、何らかの効果が付与されているな。
「多分、【魔法耐性・強】だね。つまり結界がなくても剣だけで戦うしかないってわけか」
「ダイマス!?」
ルイザの背後から、伏兵のようになっていたダイマスが剣を振るう。
予想していなかったであろう奇襲攻撃を喰らい、ルイザの表情が少しだけ険しくなった。
「最大レベルの技だったのに鎧が少し歪んだだけ。随分と硬い鎧だね」
「ほう、我としたことが少し油断しすぎたか。ここからは本気で行かせてもらおう」
「は、早い!?」
本気を出したルイザが、瞬きをしたわずかな時間を使ってアリアに肉薄した。
至近距離では対抗できないと感じ取ったアリアは、咄嗟の判断で床に転がって退避。
ルイザが振り下ろした大剣は誰もいない空間を斬り裂いた。
「危ない。イリナお姉ちゃんの肩を砕いたときと同じ動作だったからギリギリ回避できたわ」
「チッ……よく見ている」
ルイザが悔しそうに舌打ちをした。
ここまでの戦況は一進一退と言った感じで、どちらも決定打を欠いている状態だ。
しかし一つの声が戦況を大きく動かすことになる。
「あれ……そういえば近衛騎士団長って……そうか、近衛騎士団の作戦が分かったよ」
「何だと?」
宰相としてヘルシミ王国にも来たことがあるであろうダイマスが敵の作戦を看破したのだ。
それにルイザが怪訝そうに反応する。
次の瞬間、ダイマスは普通ならばあり得ない提案をしてみせた。
「ルイザさん、ちょっと攻撃を控えていただけませんか。作戦会議をしたいんです」
「分かった。どうせ模擬戦だしな。どこまで我らの作戦を看破したのか共有してみるといい」
いや、あっさりと許すのかよ。
ルイザさんから出た許可に全員が呆れた表情を見せる。
そしてダイマスから告げられた真実は、予想もしていなかったことであった。
確かに戦いの最中からそれらしき予兆はあったが。
やがて作戦会議が終わった俺たちは、戦闘開始の合図をヴィル国王に出してもらう。
「それでは戦闘開始!」
すると合図が出されたと同時に、べネック団長の足が大剣の餌食となった。
しかし、ルイザはその場から動いた様子はない。
攻撃された本人も予想外だったのか、驚きの声を上げるしかない。
「何っ!? あの状態からどうやって私の足を攻撃したのだ!?」
「魔力を剣に込めたんですかね。結界を壊したので相手も魔法が使えるはずですし」
「なるほどな。厄介な剣術を使う」
この国に来たことのあるダイマスも知らない剣術を、ルイザは完璧に使いこなしている。
今まで戦ってきた相手の中でも厄介な部類だが戦うしかない。
「俺が責任を持って戦います。精霊よ、我の求めに応じて剣に宿れ。【炎獄剣】」
俺は火の魔剣を作ってルイザさんと剣戟を繰り広げる。
しかし圧倒的な力量差のせいか、どんどんと防戦一方になっていくのが分かった。
自分が優位に立っているのを悟ったルイザさんはニヤリと嗤う。
「お前の剣術はその程度か? 『緋色の魔剣士』ことティッセ=レッバロン!」
「クッ……燃えよ、【焔】」
本来は詠唱をしたほうが威力が上がるのだが、今はルイザの剣技を防ぐのが最優先だ。
瞬間の火力が強い技で距離を取る。
「距離を取るとは……遠距離から放つ技でこの私を殺せるとでも?」
「思っていないよ。だからこうするのさ!」
「何っ!?」
俺は火魔法を足元で爆発させ、その威力を利用して距離を一気に詰めたのである。
これで俺のターンだ。
鎧で守りきれていない首に拳を叩きつけて転倒させ、火の魔剣を寸止めで振るった。
「これで終わりだ。ヘルシミ王国近衛騎士団長、ルイザ=シランス」
「完全に私の負けだ……。まさかここまでとは」
ここからの逆転が不可能だと察すると、ルイザは仕方がないといった感じで負けを認めた。
軍師のイザベラは近衛騎士団の敗北を見届けると膝から崩れ落ちる。
そう、彼らは作戦立案を担当する軍師を近衛騎士団長に見せかけて戦ったのだ。
俺たちもダイマスがいなければ分からなかっただろう。
すると今回の事態を引き起こした元凶であるヴィル国王が大きく手を叩いた。
「べネック=シーラン、よい試合であった。このヴィル=ヘルシミが第三騎士団を認めよう」
「はっ、ありがたき幸せ」
こうして、俺たちは近衛騎士団との戦いに勝利して第三騎士団として認められたのだった。
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