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『第二十六話 王への謁見(Ⅳ)』

 ヴィル国王の横にいるイザベラが手を三回叩くと、敵兵の一部が陣形を組み始めた。

 なるほど、よく訓練されている。


 言葉ではなく手を叩いた回数によって陣形を変えるため、相手からすれば指示が不明。

 普通の兵士が相手であれば、イザベラたちに大きなアドバンテージとなっただろう。

 ただ俺たち第三騎士団に対しては何の意味もない。


【気配察知】を使えば、敵の人数なんて手に取るように分かっちゃうし。

「べネック団長、敵の兵が正面から二百。左右からそれぞれ百ずつ来ています!」

「私とアリア以外の三人で正面を対応。謁見の間では魔法が使えないから注意しろ」

「どうしてです!? 結界などの気配はありませんが……」


 不穏な言葉が耳に入った途端、俺は思わず叫んでいた。

 もう一度だけ確認するが、俺の戦闘スタイルは魔法と剣を合体させる魔剣士だ。

 魔法が使えない状況になってしまえば、イリナのような訓練中の剣士にも劣るであろう。

 もともと剣技で倒すことを目的としていないのだから。


「【気配察知】でも探れないように、重度の【隠密】を十人掛かりで付与しているからな」

「なるほど。だからアリアを自分のそばに置いたのですか」


 次々と襲いかかってくる兵士を斬り捨てながら答えた。

 アリアは剣こそ構えているが、隣には険しい表情をしたべネック団長が立っている。

 彼女の攻撃を避けながらアリアに攻撃を当てるのは困難だろう。


 しかし……結界が厄介すぎる。


 何なら壊してしまってもいいが、強力な攻撃魔法で王城を壊してしまうのは本意ではない。

 ここは剣だけで迎え撃つべきであろう。

 ダイマスやイリナも同様の考えに至ったのか、あるいは選択肢から除外しているのか。

 剣を巧みに操って兵士を次々と薙ぎ倒していく。


「何だ、この化け物たち!?」

「一人は思い出した。あの真っ赤な髪……リーデン帝国が誇る『緋色の魔剣士』だろ!」

「嘘だろ!? この赤髪の男が本当に『緋色の魔剣士』ならSランク冒険者じゃねぇか!」


 ああ、確かにそんな二つ名で呼ばれていた時期もあったな。

 俺はそんなことを思いながら剣を振るう。

 赤い髪をしていて、メインで扱う魔法も赤い火魔法だったことからついた二つ名がそれだ。

 今は魔法が使えないから“魔剣士”らしい戦いはしていないし、冒険者でもないが。


「だからあんなに強いのか……」

「イザベラ団長、すでに百人近くが戦闘不能状態に陥っています! 新たな指示を!」


 半数まであと百人か。

 俺は兵士たちを殺さないように手加減しながら、急所を突いて意識だけを刈っていく。

 すると焦ったようなイザベラの声が響いてきた。


「ルイザ、状況分析はそこまでにして戦闘に参加しなさい。兵士たちはイリナを攻撃!」

「僕が援護に回る。ティッセとイリナは戦い続けていて」

「分かった。俺は正面を相手しよう」

「お願い。えっと……邪魔だから道を開けてくれるかな?」


 壁際で戦っていたダイマスが、敵兵を次々と倒しながらイリナに向かって進んでいく。

 一方、イリナも敵兵を一気に五人ほど戦闘不能にしていた。

「おい、あの女はヤベぇぞ! 剣を一回振っただけで五人もやりやがった!」

「アイツは『緑の剣姫』か……。べネックの奴、二つ名持ちを何人連れてきてやがる……」


 後ろに控えていた大男がブツブツと呟きながら動き出した。

 背中に大剣が背負われており、イリナやダイマスが受け止めるには厳しいように思える。

 彼が状況分析担当のルイザなのだろうか。


 それにしても『緑の剣姫』は冒険者時代に何度も聞いた名前だ。

 わずか十五歳の女性だったにもかかわらず、大人の男性も出場している大会で優勝。

 ヒーローインタビューでは緑の仮面を被っていた謎の女傑である。


 二つ名の『緑の剣姫』も、仮面が緑色だったことやスタイルが良かったことからつけられた。

 まさか、彼女の正体がイリナだったなんて。


「あら、敵の兵士たちが一気に戦意を喪失しちゃったみたいね。まあ好都合だけど」

「――イリナ、危ない!」


 奇襲攻撃に気づいたダイマスが剣を突き出したが、動き出すタイミングが遅すぎた。

 冷たく微笑むイリナの肩をルイザの大剣が砕く。


「痛いっ!? ああぁぁぁ!」


 床を転がって悶絶するイリナを見たとき、俺の中で何かが弾けた。

 自身の魔力を限界まで込めた剣を勢いよく振り、とてつもなく邪魔な結界を破壊する。

 謁見の間にガラスを割ったような音が響き渡った。


「なっ……結界を壊した!?」

「十人が協力して張った結界をたった一振りで……」


 イザベラとルイザが呆気に取られるのを横目で睨みながら、俺は火の精霊を呼び出した。

 もう遠慮なんてしない。

 強力な技を放つのを躊躇して仲間を失うくらいなら、放ってから後悔したほうがいいだろう。

 過去と同じ過ちは繰り返さない。


「俺の仲間を……しかも女性を傷つけた代償は高いぞ。二人まとめて燃やしてやるから」

「総員警戒態勢! 兵士たちはルイザを守りなさい!」


 イザベラが慌てて指示を出すと、兵士たちが防御の態勢を取ったままルイザを囲む。

 こうして俺とルイザたちの戦いが始まった。


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