『第二十三話 王への謁見(Ⅰ)』
デールさんはゆっくりと門を開いて俺たちの前に姿を現した。
しかし彼の視線は俺たちを捉えてはいない。
「ジューン、彼らは国王様が僕を護衛につけるほど守りたかった逸材だ。意味は分かるな」
「なっ……ええ、申し開きはありません」
驚いたように目を見開いたジューンだったが、抵抗しても無駄だと悟ったのだろう。
すぐに自分の罪を認めた。
「国王陛下の客人を害しようとした罪は重い。よってジューン=ホンネスを暴風刑に処す」
「何ですと!?」
ジューンが再び驚いていると、門から黒いローブを着た人物が出てきた。
手には豪華な装飾が施された杖があり、明らかに高位の魔術師といった風貌である。
しかし顔は金の刺繍がされた黒いローブに隠れていて、性別も分からない。
するとその人物を見たデールさんが呆れた表情を見せた。
「リゼ様、宮廷魔術師長たるあなたがどうしてそのような格好をしておられるのですか」
「大事な客人の前。醜い顔を見せるわけにはいかない」
リゼさんはそう言うと、ジューンの前に無詠唱で小さな魔法陣を出した。
宮廷魔術師ならば無詠唱がデフォルトだと聞いたことがあるが……生で見るとすごいな。
詠唱をしていないにもかかわらず、精霊を介した魔力の運搬が実にスムーズだ。
「ジューン=ホンネスは魔法陣の上に立って。デール、強さは五段階中いくつ?」
「四でいこう。大罪人だから五を当ててもいいのだが、町まで転がっていかれると困る」
「分かった」
短く答えたリゼさんが魔力を風の精霊に運ぶ。
戦闘の時に俺が込める魔力量を少し超えたところで、リゼさんが杖を大きく振りかぶる。
その瞬間、ジューンを暴風が襲った……のだろう。
彼は鎧を着たまま地面の上を転がり、石に背中を強打して動かなくなった。
「相変わらずとんでもない制御力だな。僕たちにはそよ風ほどの風も届かなかったよ」
「デールさんさんも負けてない。だから組織の長になれた」
リゼさんの言葉にデールさんが苦い顔をした。
その顔はなぜか現状を後悔しているように感じられたため、俺は首を傾げる。
デールさんの組織のことは分からないが、トップになれたなら嬉しいのではないだろうか。
しかしデールさんは次の瞬間には心配そうな顔でダイマスに近づいていた。
「ダイマスさん、怪我はありませんか?」
「僕は大丈夫だけど……どうしてジューンさんを暴風刑なんかに処したんです?」
「国王からの命令です。これで手打ちにしてやれと」
デールさんも先ほど仄めかしていたが、俺たちを城に招いたのはヘルシミ国王だからな。
いざとなったら誰にも覆せない。
それにしても暴風刑というのは何なのだろうか。
どうやらダイマスは知っているみたいだが、刑罰に詳しくない俺にはさっぱりなんだよな。
「ダイマス、暴風刑って何なの? 聞いたこともないんだけど」
「ヘルシミ王国では一番軽い罰だと言われている。でも風の強さによっては脅威にもなる」
リゼさんが答えながら空中に炎の球を打ち上げた。
ポンという軽い音を立てながら弾けたアレはもしかして連絡用の狼煙もどきかな?
「あとはよろしく。私は戻る」
「ちょっと待て。しっかりと指示に従ったことを証明する必要があるから残っていろ」
「面倒……」
リゼさんが項垂れていると、城の方から黒い執事服を着た初老の男性が近寄ってきた。
いかにも“デキる執事”といった風格を漂わせている。
「第三騎士団の皆さま、ようこそヘルシミ王国王城へ。私は筆頭執事のアランです」
「こちらこそよろしく。団長のべネック=シーランだ」
べネック団長と挨拶を交わしたアランは横に控えていたデールさんとリゼさんを見やる。
それにしても……リゼさんはずっとローブで顔を隠しているな。
「門番に対する暴風刑の執行は終わりましたか?」
「終わりました。問題ありません」
デールさんが横目でジューンを見ながら報告し、リゼさんが隣で小さく頷いた。
「分かりました。それではご案内いたします。罠などもあるので気をつけてくださいね」
「はい。お願いします」
俺が条件反射でそう言うと、アランは一瞬だけ動きを止めて意味深に微笑んだ。
一体何なんだ?
疑問に思う気持ちは、王城の敷地に一歩踏み入れると霧が晴れるように消えていった。
目の前には色とりどりの花が咲いた花壇があり、奥のほうまで続いていた。
やっぱり専属の庭師がいたりするのだろうか。
ちょうど近くにある白い花を眺めながら進んでいると、アランが説明を加えてくれた。
「この辺りの白い花は王香草という草ですね。お茶にして飲むと美味しいんですよ」
「王香草って高級品ですよね。それがこんなに……」
アリアが呆れたような口調で呟きながら花壇を眺めている。
王香草は栽培するのが大変で、通常はここまでたくさんの花が生えていることはない。
王城だからこそ見ることができる光景なんだろうな。
しばらく歩いていると、アランと同じく執事服を着た男性がこちらを見ているのに気づいた。
これだけ聞けばおかしいところはないが、その人物は花壇の真ん中に立っている。
あの人はどうして花壇の真ん中なんかに……。
不思議に思っていると、こちらに気づいたのであろう執事がこちらに向かって走ってきた。
俺の前で停止した執事は丁寧なお辞儀を始める。
ちょっと……みんな気づいてないから俺だけ置いてけぼりになるんだけど!
「失礼いたしました。副筆頭執事のカリスでございます。こちらにリゼ様はいませんか?」
「リゼさん? さっきまでデールさんと門にいたけど……」
あの二人とは門の前で別れちゃったから、俺にも正確な居場所は分からない。
そう付け加えるとカリスは苦い顔をする。
もしかしてリゼさんの仲間とかから探すように頼まれちゃったのかな?
そうだとしたら……宮廷魔術師長を見つけるために王城内を奔走しないといけないのか。
俺は、頭を抱える執事を苦笑しながら見ることしか出来なかった。
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