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『第二十一話 王城の襲撃者』

 数日間ほどヘルシミ王国を進んでいると、ある日思い出したようにイリナが声を上げた。

 彼女の視線の先ではアリアが氷の精霊を自分の肩に乗せている。

 これ、精霊との対話ということで意外と重要なんだよね。


「何も考えずに馬車に乗り込んだけど……あんたが馬車に乗ってちゃマズいんじゃ?」

「どうしてよ。私も正式に騎士団にスカウトされたんだからね!」


 アリアが心外だというように頬を膨らませる。

 彼女の発言をべネック団長は肯定しながらも、複雑な表情を浮かべていた。


「確かにスカウトしたのは事実だ。だけど……まさか本当に来るとは思わなかったぞ」

「改心したところをお母さんに見られてみなよ。今度は私が虐げられるじゃん」

「あり得ないとは言えないわね」


 アリアの言い分にも一理あると感じたのだろう。

 ガックリと項垂れたイリナを、隣に座っていたダイマスが冷静な瞳で見つめていた。


「ダイマス、どうしたんだ。怖い顔をして」

「いや……イリナとアリアって似てないなって思ってたんだ」

「えっ、そうか?」


 俺は改めて目の前にいる二人を観察してみる。

 しかし俺が分かったのは髪の色と瞳の色が明らかに違うことくらい。

 イリナはどちらも薄い緑色をしているのに対し、アリアは金髪に水色の瞳をしている。

 そこが似ていないと感じる原因だろうか。


「そうか? 俺はよく分からないや」

「髪の色とかもそうなんだけど……僕が明らかに違うと思うのは魔力なんだよね」


 ダイマスはなおも首を捻る。

 すると俺の向かいに座っていたイリナがジト目でこちらを睨みつけているのに気づいた。


「えっと……どうしたんだ?」

「二人で何をコソコソと話しているのよ。私たちに言えない話でもしているわけ?」


 明らかに不機嫌そうなイリナ。

 このまま黙っていると面倒な事態が起こると察した俺は、不本意ながらも口を開く。


「ダイマスがイリナとアリアは似てないって言うんだよ」

「どうしてかは分からないんだけどね。なぜか二人を見ていると姉妹じゃないみたいだ」


 ダイマスがそう言うと、イリナの表情が明らかに変わった。

 先ほどまでの不機嫌そうな表情を引っ込ませ、必死に動揺を悟られまいとしている。

 一方のアリアはこちらをチラッと見ただけで特に動揺したりはしない。


「あれ……何か反応違くね?」

「確かに。イリナは明らかに何か隠しているだろうね。でもアリアは特に反応していない」


 ダイマスと一緒に首を捻る。

 姉妹の齟齬に違和感を感じていると、デールさんが王城への到着を知らせてくれた。

 馬車から降りると、五回建てで赤い瓦屋根を持つ立派な城が目の前に現れた。


 壁は白く、窓枠や一階にある太い柱などは落ち着いた深みのある橙色に塗られていた。

 構造は台形で、上階に行くに連れて徐々に小さくなっている。

 リーデン帝国のシンボルたる帝国城とは、全く雰囲気が違っていて面白いな。

 そしてひょっとしたら、サイズ的には大きい帝国城よりもお金がかかっているのでは?


「すっごく大きくて綺麗……」

「瓦や壁に少しだけど金が使われているみたいだね。警備もかなり厳重そうだし……」


 アリアとダイマスも呆気に取られている。

 馬車を止めた場所の脇には小さな壁が続いており、壁の上には結界の気配があった。

 なるほど、確かに警備は厳重そうだ。


「僕は馬車を止めてきます。皆さんはこの場所で待機していてください」

「分かった。頼む」


 デールさんが去っていくと、べネック団長は目の前にある門に近づいた。

 二人いる門番のうち一人と何かを話している間、もう一人が顔を上げてこちらを見やる。


「ヒッ!?」


 こちらに向けられた視線に気づいたのだろう。

 門番を見たアリアが小さな悲鳴を上げて、近くにいたダイマスの服の裾を掴んだ。

 まあ、アリアがそうなるのも無理はない。

 彼の目はどす黒い憎しみに満ちていて、一瞥しただけで歓迎されていないのが分かる。


「何だ、アイツのあの目。まるで親の仇を見ているようだ」

「確かに。どうして……」


 思わず漏れた呟きにイリナが反応する。

 彼女はさすが剣士というべきか、剣の柄に手をかけてすぐに抜剣できるようにしていた。

 数秒の睨み合いの後、口を開いたのは門番だった。


「お前はどこの者だ? 見たところヘルシミ王国の者ではないようだが」

「リーデン帝国から来ました。僕は元宰相のダイマ……」


 ダイマスの自己紹介が途中で途切れる。

 門番が恐ろしい速さでダイマスの後方に回ったのか、彼の首筋に剣が当てられたのだ。

 しかも鞘は外され、銀色の刃が露わになっている。

 ゆえにダイマスは引きつった表情で口を閉ざすしか選択肢はない。


「お、おい貴様。我が騎士団の団員に何をする!」

「動くな。リーデン帝国などという野蛮な国の民が我が国の騎士になるなど認めない!」


 事態の深刻さに気づいたべネック団長が慌てて引きはがそうとするが、時すでに遅し。

 逆に門番を刺激する結果に終わってしまった。


「どうします? 私の制御力ならダイマスさんを凍らせずに魔法で対処できますけど……」

「今は止めておこう。どうしてリーデン帝国との関係が悪化しているのか突き止めないと」


 ダイマスを囮にするという残酷な作戦ではあるが、今後を考える上では重要な事項だ。

 下手をすればこの国にも居場所はないかもしれない。


「イリナ、上手く奴を誘導して情報を引き出してくれないか? 駆け引きは苦手でな……」

「分かったわ。任せておきなさい」


 こうして、イリナと門番による心理戦が始まろうとしていた。


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