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『幕間2 リーデン帝国三役会議(Ⅰ)』

2020.12.30 加筆しました!

 その報告が届いたのは、ティッセたちが皇都を出てから一週間後のことだった。

 曰く、“第一騎士団長敗北”

 さらに第一騎士団長のハルックを皇弟が論破したというから、なお悪い。


「あいつは何をやっているんだ!? そして奴らはまだ捕縛できぬのか!」

「申し訳ありません。まさかここまでとは……」


 騎士団をまとめる騎士総長――ダン=シエールが唇を噛む。

 前々から騎士団の能力不足は問題視されており、会議でも大いに揉めていた。

 案の定、ダンの右から嘲笑するような声がかかる。


「相変わらず騎士団は軟弱なことで。やれやれ、先が思いやられますな」

「ふん、皇城から奴らを逃した近衛騎士団が何を言う」

「門の前は貴様らの担当だっただろうが! 責任を押し付けるでない!」


 近衛騎士団長――オール=マイズが顔を真っ赤にして叫ぶ。

 それを止めたのは皇帝だった。


「貴様ら、少し落ち着け。今は奴らをどう捕縛するかが問題だろう?」

「はっ、申し訳ありません」

「話を戻しましょう。奴らは皇弟殿下の領地にいるということですよね?」


 ダンが問いかけると、皇帝は苦々しげに頷く。

 幼いころから皇位を争ってきた二人の仲は、あまり好ましいものではない。

 むしろ仲が悪いといってもいいだろう。


 加えて、皇位争奪戦に負けた弟はヘルシミ王国との国境付近に飛ばされている。

 一応は重要地なのだが、戦争になったら真っ先に被害を受ける土地だ。 

 皇弟にしてみれば面白くないだろう。


「そして未だに捕縛の報がないということは、皇弟殿下は奴らに味方……」

「ありえない」


 ダンの推測を一刀両断したのはオールである。

 彼は皇弟と仲が良く、皇位争奪戦が行われていたときは皇弟派にいた人物だ。

 よって皇弟の性格は知り尽くしている。


 ちなみに元々敵派閥だったオールを近衛騎士団長に据えたのは、近衛副騎士団長が過激な皇帝派であることに由来するのだが、今は関係ない。


「恐らくは“救済”を悪用されたのでしょうな」

「不当な扱いをされている国民を連れ帰ることが出来るというやつか」


 皇帝は眉をひそめた。

 あれには一週間前から自国の国民でないといけないという制約がついて……。

 そこまで考えたとき、今日の日付を思い出す。


「ありえるな! 今日は奴らが逃げ出してからちょうど一週間後だ」

「なんて間の悪い……昨日のうちに襲撃できていたら……」


 ダンが呻く。

 襲撃が一日早かったとしたら、ティッセたちは皇弟に捕まっていただろう。

 第三騎士団にとってはラッキーだった。


 しかし、皇帝たちにとってはアンラッキーに他ならない。

 オールが手元の資料を繰った。


「現在、第二騎士団が捜索中。そして門の前に迎撃戦力を配置しています」

「冒険者ギルドの戦力か」

「ギルドマスター自ら動いているようですし……恐らくは大丈夫でしょう」


 ダンが窓の外を見ながら言う。

 早く捕まえないとと焦っている三人とは裏腹に、雲はゆっくりと流れる。

 皇都は今日も晴れていた。


「仮に逃げられたとしても、ヘルシミ王国内にフーナがいます」

「新宰相だな。あの女なら安心だろう」

「ちょっと待ってください。フーナはともかく第三、第四騎士団はどこに?」


 オールが尋ねる。

 騎士団は四つあって、今まで話に出てきたのは第一、第二騎士団だけ。

 第三、第四騎士団については全く触れられていなかった。


「役に立たないであろう。第三は魔物討伐専門、第四は情報収集専門だ」

「つまり動いても動かなくてもいいということですか?」

「そういうことだ」


 皇帝は満足げに頷く。

 元々第三、第四騎士団は捕縛戦力に入れていない。

 動いてくれるならそれに越したことはないし、動かなくても問題はない。


「申し訳ありません。話を戻しましょう。フーナの話でしたね」

「あいつには時間を稼ぐように言いつけてある」

「フーナ宰相は食えない女性だからな……。何かやらかすかもしれん」


 オールが祈るような姿勢でヘルシミ王国の方角を見つめた。

 普通なら何も起こらないことを祈るだろうが、オールの場合はまるで逆。

 何かを起こすことを願うのだ。


 ――それは両国の関係に起因する。


 建国当時から両国の仲は悪く、国境付近では何度も小競り合いがあった。

 ところが最近のヘルシミ王国は連戦連敗で国力が低下している。

 リーデン帝国としては、今のうちに決着をつけておきたいのだ。


 しかし理由もないのに攻めるわけにもいかず、膠着状態に陥っていたところにティッセたちが関わってきたのだ。


 この機会を逃すわけにはいかないので、フーナには何らかのアクションを起こしてもらって、攻める理由にしたいのである。


「言葉と表情が一致していないぞ。そんな楽しそうな表情をしやがって」

「ダン殿も一緒であろう? フーナには期待している」

「まあ同じだけどな。俺としてはフーナ宰相に頼る前に捕縛したいんだ」


 騎士団の力を見せつけるためにも、とダンは続けた。

 オールはもはや興味を失ったかのように、窓の外を眺め続けている。


 この二日後、三人のもとに“ヘルシミ王国への脱出成功”という報告が入り、ダンが発狂することになるのであった。

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