『第百四十五話 辻褄が合わない(ハル視点)』
王都にある冒険者ギルド。
腕に覚えのある優秀な冒険者が多く集まっている、冒険者ギルドの総本山だ。
そして冒険者たちにとってはここに所属することが大きな目標となる。
「いらっしゃいませ。ご依頼を出されますか?」
「いいえ。会いたい人がいるの」
さすが冒険者ギルドの総本山だけあって、受付嬢の質もかなりいい。
あまりの可愛さに思わず嫉妬心が出そうになって、慌てて表情を取り繕う。
「会いたい人……でございますか」
「ええ。ティッセ=レッバロンという冒険者をご存じかしら?」
「『緋色の魔剣士』を呼び捨てって……失礼ですがどんな関係なんですか!?」
私が兄の名前を出した途端、ギルド内がざわめく。
何だ、この感じ。
「えっと、妹なんですけど……」
「分かりました。確認を取ってまいりますので少々お待ちください」
受付嬢は一礼してから奥に消えていった。
しばらく待っていると、先ほどの受付嬢とともに一人の男性が出てきた。
恐ろしいほどの威圧感。
能力によるものではなく、殺気の扱いに手慣れているというべきだろうか。
とにかく歴戦の猛者といった風貌だ。
「お前がティッセの妹か?」
「そうですけど……。失礼ですがどなたですか? 私は兄に会いに来たんですけど」
嫌味を少し混ぜる。
こんな筋骨隆々のむさくるしい男なんかに用はないのだ。
「これは申し訳ない。私は当ギルドのギルドマスターをしておりますハンルです」
「ギルドマスターだったんですね。こちらこそ失礼いたしました」
私は慌てて頭を下げる。
それなりの地位の人だとは思っていたけど、まさかギルドマスターだったなんて!
あの受付嬢、いきなり飛ばし過ぎじゃない?
普通は副ギルドマスターとか、事務長とかを連れてくるもんでしょう。
「それで……兄はどちらに?」
「あいにくティッセは依頼を受けて出かけておりまして。ご用件は何でしょうか?」
「契約の確認をしに来たのよ」
私が不機嫌になったのを察したのだろう。
ハンルが険しい顔で「こちらへ」と言いつつ、二階の応接室へと誘導された。
「契約とはどのようなものでしょうか」
「仕送りをしてもらうことになってました。うちは父が死んで、母も病気ですから」
私にも夢があったしね。
だけどティッセはその約束を守らないどころか、連絡すら寄こさなかった。
「なるほど。ティッセの部屋でも見てみます?」
「そうですね」
泥棒みたいで気が引けるが、もともとティッセが約束を破ったのが悪いのだ。
お金があったら回収させてもらうとしよう。
ギルドマスターに案内してもらった兄の部屋は意外と綺麗に整頓されていた。
ふと机の上を見てみると、書きかけの手紙のようなものが。
何気なく目を通し、私は目を剥いた。
『親愛なる妹ハルへ。どうして返事をくれないの? 今日もお金を送』
“今月もお金を送るね”とでも書こうとしたのだろう。
ただ、返事がない?
一回も手紙を送ってきたことがないのに、返事もなにもないだろう。
それに私は催促の手紙を何枚も送っている。
ティッセの手紙と私が置かれている状況の辻褄が合わない。
「まさか……」
私は入り口で心配そうにこちらを見ているギルドマスターに視線を向けた。
あいつが何か関連しているのか。
ティッセは適当だから手紙をあいつに預けて……とかいう事態も十分にあり得る。
調べてみましょうか。
「邪神さん、ちょっと力を貸してくれるかしら」
『リョウカイ』
今回はまだ操りはしない。
この冒険者ギルドの中に魔力の流れに敏感な奴がいるかもしれないからな。
そいつに見つかったら私の能力がバレて、最悪の場合は討伐対象だ。
私はまだ死にたくない。
「少しの間、安らかに眠っていなさい。【スリープ】」
邪神の助けもあって、ギルドマスターはその場に寝息を立てながら崩れ落ちた。
この人、相当経験を積んでるのね。
常人の三倍はあるであろう私の魔力量でも二割ほど持っていかれた。
「さあ、探しましょう」
ティッセが私たちのために送ってくれていたお金がどこに消えたのか。
夢のためにもしっかりと白日の下に晒してあげる。
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