『第百四十四話 夢の沙汰も金次第(ハル視点)』
ロバン公爵たちを洗脳した私は無罪放免となり爵位剥奪を免れた。
一方で私を嵌めようとしたマルク公爵は身分降格となり、今はマルク伯爵である。
こうして入学金を貯めた私は魔法大学の試験に挑戦。
無事に合格して、ついに夢への第一歩を踏み出したのである。
しかし事態はそう上手くは運ばない。
入学式まであと三日というところで、義母が病で息を引き取ってしまったのだ。
これはかなりマズい。
母の死を悲しむより先に自分の身を心配するなんて、我ながら薄情なものである。
しかし、母の死はこれまでの工作が全て泡になりかねない事態であった。
もう一度だけ言うが、魔法大学は貴族の子息子女しか通うことができない大学だ。
貴族の子息子女しか通えない。
つまり貴族の当主になってしまった場合、通うことができないのだ。
現在のレッバロン子爵家を顧みると、前々当主は殺害され、前当主は病で死亡。
家督相続権第一位の兄は未だに王都で冒険者をやっていて、音沙汰がない。
連絡を取ろうとしても冒険者ギルドに拒否されてしまう。
死んだ二人の実の子供はレッドス公爵家の跡取り息子ということになっている。
親戚に頼ろうにも、前々当主の兄弟はレッドス公爵ともう一人だけ。
レッドス公爵の子供は兄と私だけで、もう一人には子供はいない。
前当主は一人っ子で、実家は養子を取ることで何とか家を存続させている状態。
子供は一人で、その家の次期当主に内定済みときた。
はい、詰んでるね。
現段階でレッバロン子爵家を継ぐことが出来るのは私しかいない。
ところが、当主になってしまえば魔法大学に通うことができなくなってしまう。
本当にタイミングが悪い!
入学してからだったらどうにかなったのに。
まだ入学していないのだから、合格通知を取り消されて終わりだ。
母の葬式を終え、真っ暗になった屋敷の中で私が苦悶していると声が聞こえた。
『マタツカウカ? オレノノウリョクヲ』
脳の中に直接響いてくる低い声。
私の魔力を喰らうことで邪神はパワーアップしたらしい。
前は言いたいことが分かる程度だったが、最近では脳内に語り掛けてくる。
「それもいいかもしれないわね」
『フフッ』
「だって私は邪神に魅入られた女だもの。そうでしょう、邪神さん?」
合格通知ももらっていて、貯めていたお金もあるのだから足りないのは地位だけ。
そんなの、邪神の力を借りればどうにだってなる。
『アア。エンリョセズツカエバイイ。アンタハオレノオンナ。チカラヲカス』
「ありがとう。だったら……」
私は亡くなった前々当主――義父の力を借りることにした。
義父はレミア公爵家という家の長男だった。
しかし、義母のことが諦められずに駆け落ちしたらしい。
高位貴族の子女ならある程度の融通は聞かせてもらえるからな。
地位を借りておいて損はない。
「ふふっ、夢を叶えるための作戦を開始しましょう」
『アア』
さっそく母の葬式に来ていたラミア公爵を別室に呼び出し、【精神汚染】を発動。
その場で魔法大学への推薦状を書いてもらった。
もちろん夫人への口止めも忘れない。
こういうのは秘密を知っている人数を必要最低限に絞っておいた方がいいからね。
手に入れた推薦状によって、私は晴れて魔法大学に入学することができた。
簡単な試験はあったが、私はもともと一般試験で合格している。
楽勝としか言いようのないものであった。
これでレッバロン子爵の名を残せて、魔法大学にも通える。
実に最高じゃないか。
子爵領の運営も優秀な奴に【精神汚染】を使って任せればいいしね。
それにしても。
最高位貴族の娘かつ首席だから、みんなが私の顔色を伺っているのが面白い。
そして気持ちいい。
今まで散々見下される人生を送ってきたからか、ちょっと慣れないけれど。
あるいは魔力量に怯えているのか?
能力の影響で魔力は多いから、魔力の少ない人は魔力酔いを起こしてしまう。
だから移動には細心の注意を払っているんだけど。
「アリスさん、こんにちは!」
「ええ、こんにちは」
ハルという名前は使えないため、ここではアリスという名前を使っている。
この名前で呼ばれることに、最近ようやく慣れてきたところだ。
「ふふっ、楽しい」
充実した学生生活を送っていた私だったが、夏休み直前のある日。
私の身にさらなる苦難が降りかかる。
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