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『第百三十九話 レイラの正体』

 俺の目の前にいるのは、やっぱり妹のハル=レッバロンだろう。

 初めて会ったときは魔力を完璧に制御していたのか、気づくことができなかった。

 いくら外套で隠されているといっても妹の魔力を間違えるはずがない。

 聖都イルマから帰ってきたとき、父の魔力を感じ取れたように。


「ハルとはどなたですか? 私は知りませんわ」

「誤魔化そうとしても無駄だ。【邪神の加護】はかなり特殊な能力だからね」


 レイラを真っすぐに見つめる。

 外套のフードに隠れて顔は見えないが、向こうもまたこちらを見ているのだろう。

 痛いほどの視線を感じる。


「まず、魔力器官の件だ。レイラ、お前は魔力器官を何回増強している?」

「……五回よ。死ぬかと思ったけど、夢を掴むためならどうってことない!」

「夢……はひとまず置いておいて。今の発言は不用心だったな」


 ニヤリと笑って見せる。

 今の発言で、俺はレイラの正体がハルだという確信をさらに深めることになった。


「どういうことですか!?」

「魔力器官は四回しか増強できないんだ。どんなに精神力が強くともな」


 俺の代わりに父上が答える。

 一部の人しか知らないらしいが、魔力器官を五回も増強させるのは不可能らしい。

 五回目の増強に及んだ時点で神経が強い魔力に侵され、死んでしまう。


「だけど、たった一つだけ例外がある」

「それが【邪神の加護】。つまりお前は【邪神の加護】持ちだと認めたわけだ」


 父上が上手くサポートしてくれる。

 ハルは昔から強情だったから、こうやって少しづつ追い詰めていくしかない。


「それでも、【邪神の加護】を持っているのがハルだけとは限らないんじゃない?」

「いいや、この能力を持つ人の年は必ず【神の加護】持ちと同い年になるんだ」


 俺も初めて知ったときは驚いた。

 勇者と魔王のように、【神の加護】と【邪神の加護】持ちは必ず同い年になる。

 そして、代々【邪神の加護】持ちを救ってきたのが【神の加護】を持つ者だった。


「【神の加護】を持っているのはヘルシミ王国の第二王子、アレッサ殿下だった」

「年齢は十四。そういえばハル……お前も十四になったんだったな」


 俺が十五歳で、ハルは一歳年下の妹。

 つまりハルは十四歳で、同時にアレッサ殿下と同い年ということだ。


「そして【神の加護】は十万人に一人と言われている能力だが、実は仕掛けがある」

「誰かが【神の加護】を習得すると、同い年の人間は【神の加護】を得られない」


 つまり大陸中の同い年の中でたった一人しか習得できないということだ。

 これが【神の加護】がレア能力と呼ばれる所以である。


「まさか……」

「ようやく気づいたみたいだな。【神の加護】持ちは大陸中の同い年の中で一人」

「つまり、対になる【邪神の加護】も同様の特徴を持つということだ」


 アレッサ殿下が【神の加護】を得たため、残りの十四歳は漏れなく別の能力だ。

 同様に【邪神の加護】持ちがいれば、残りの十四歳は全員が別の能力になる。


「だから俺は一計を案じた」

「どうやらコイツはハリーという元騎士団長を、帝国の城に潜入させたらしい」


 父上が呆れたような表情をする。

 シーマと戦う前に、ハリーに頼んだのが帝国中の十四歳の能力を調べること。

 能力発現の儀を受けた人たちの記録は、城の資料室に保存されているはずだから。


「今年で十四歳になる人の能力だけ調べればいい。そう時間はかからなかった」

「運がよかったんでしょうね。リーデン帝国に【邪神の加護】持ちがいました」


 最悪の場合は、大陸中にある国の資料室を全て調べなければならなかった。

 実に運が良かったと言えるだろう。


「【邪神の加護】を持っていた十四歳の名前はハル=レッバロンだった」

「これで十四歳の能力持ち二人が確定したことになるな」


 ずっと教えてもらえなかったハルのレア能力。

 能力の話になると口を閉ざすので不思議に思っていたが、それは俺だけではない。


「ティッセ、レイラが十四歳だと分かった理由を教えてやれ」

「魔法大学に在籍している生徒の中で、能力が不明なのがたった一人だったからだ」


 ハルは通っている魔法大学にも自身の名前と能力を伏せていた。

 圧倒的な魔力で首席を取り、能力を伏せることをギリギリで認めさせていたのだ。


「決め手になったのはダイマスの言葉だったっけ」


 魔法大学の授業の跡がある。

 ダイマスが必死にレイラと戦ったことで得られたその情報が、真実に近づけた。


「まあ、俺はついさっきまで諸々の情報を知らなかったんだけどな」


 だから魔法大学に「魔力器官を五回も強化した人はいます?」と尋ねてしまった。

 そんな人がいるわけがないんだよ。

 五回も強化するためには【邪神の加護】を持ってなきゃいけないんだから。


「大学では、魔法盤という情報を読み取れる機械で生徒の特性を把握するらしいな」

「魔法盤を誤魔化したところまでは良かったけど、年齢をいじるのを忘れたね?」

「今年の一年生の首席の名はアリス=レミア。年齢は十四歳だそうだ」


 レイラが小さいため息をつく。

 どこかイラついているようで、どこか呆れているような真意の読めないため息だ。


「年齢も詐称しているのでは? 誰かが罪をなすりつけようとしているとか」

「それもないな。なぜなら強い光魔法を当てれば偽装を見破れるからだ」


 ハリーはその情報を得てすぐに教会に駆け込み、光魔法を放ってもらったらしい。

 すると年齢以外の全てが偽りのステータスだと分かった。

 魔力が強すぎて真のステータスを晒すところまではいかなかったが、十分だ。


 年齢が偽りではないという、それだけが重要だったのだから。


「どうだ? まだ反論があるなら聞くぞ?」

「はぁ……私の知らないことばかり。情報収集を怠ったかしら。我ながら情けない」

「――っ!」


 レイラは深いため息をつきながら、無造作に外套のフードを取る。

 露わになった素顔は間違いない。

 肩まで伸びた髪の色こそ赤色から橙色に変わってはいるものの、妹のハルだった。


「久しぶりね、お兄ちゃん?」

「やっぱりハルだったのか……。お前がどうしてこんなことを……?」


 どうしても分からなかった。

 家を出る前は応援してくれたハルが、どうして俺を戻そうとするのか。

 国のトップたる皇帝までもを操ったその動機が。


「どうして? お兄ちゃんは昔から本当に用心というか……確認が足りないのよ!」

「確認……?」

「まあ、それはお兄ちゃんだけじゃなくてギルドマスターとかいう奴もなんだけど」


 ハルは静かにため息をついた。

 俺とハンルさんの確認が足りないってどういうことだ?


「今の推理はおかしいところがあるけど、お兄ちゃんはどこだか分かるかしら?」

「えっ……?」

「なぜ私が偽名で通せたのかということよ。だってお母様がいたらバレるでしょう」


 ハルの言いたいことが分かった。

 お母様の家名は当然レッバロンだが、ハルの偽名は家名がレミアになっていた。

 この矛盾に誰かが気づくんじゃないかということだよな。


「確かにおかしいな」

「本当に何も知らないのね。おめでたいお兄ちゃん。お母様はとっくに死んだのよ」

「何だって!?」


 俺が冒険者として活動している間に何があったのか。

 ついにハルの口から語られる。


3月最後の更新です。

4月は奇数日の投稿となりますので、よろしくお願いします。


少しでも面白いと思ってくださったら。

また、連載頑張れ!と思ってくださったら、ぜひ感想や評価をお願いします!

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