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成り上がれ、最強の魔剣士〜失墜した冒険者は騎士としてリスタートします〜  作者: 銀雪
第六章 辛いことも、理不尽なことも乗り越えて その三 ハルック・リリー編
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『第百三十八話 邪神を味方にした女』

第六章最後の話です。

 なおも苦しむ母の周囲に部隊を展開させた私たちは、辺りを油断なく見回す。

 どこからレイラが来るか分からないからね。

 ノートン団長が必死に眷属化を解呪しようと頑張っているが、時間的に厳しいか。


「やれやれ、そこまでしますか」


 呆れたようなレイラの声が聞こえた直後、視界が闇に包まれる。

 わずか十秒ほどの出来事だったが、それだけで兵たちは全員が昏倒してしまった。

 本当に意味が分からない。

 油断なく周囲を見回していて、私の視界にはレイラらしき影も見えなかったのに。


「ちっ、【透明化】のしわざね」

「ご名答。これだけの兵を倒すのは骨が折れますね。長い間姿を晒しました」


 姿は見えないのに、声だけが聞こえる。

 ここにティッセがいたならば、どんな反応をするのだろうか。

 もはや現実逃避でそんなことを考えたが、レイラの本気は察知できていなかった。


 本能が警鐘を鳴らしている。

 こんな人間かどうかも疑わしい怪物と、私は一人で対決しなければならないのか?


「うぅ……何だ、今のは?」

「べネック団長、大丈夫ですか?」


 レイラの圧倒的な力に気を取られていて気づかなかったが、べネック団長がいた。

 どうやら足元で昏倒させられていたらしい。

 チラリと母たちの姿を確認すると、みんな眠っているようだった。


 全員、命は無事みたいね。


 ホッと胸を撫で下ろしたとき、あの圧倒的な魔力の気配を感じて振り返る。

 すると、ちょうどレイラが姿を現したところだった。


「よっと。久しぶりと言ったほうがいいですかね? イリナさん、べネックさん?」

「レイラ……」

「はいはい、レイラ=モーズです。前々から二人とは話したいと思っていたんです」


 この期に及んでも外套をきちんと着ているのか。

 相変わらず不気味な見た目で私たちの前に現れたレイラは、そんなことを言った。


「どうしてだ?」

「私はよく分かりませんけど、べネック団長は彼女に操られていますからねー……」

「なるほど。私に恨みがある可能性が高いか」


 あの時は焦ったな。

 べネック団長が暴走しちゃって、私たちで協力して正気に戻そうと努力したのだ。

 そうしたら紫の蛇が出てきちゃって。

 今になって思えば、あそこからエリーナ団長が私たちに協力的になった気がする。


「うーん……まあ、恨みがあるのは事実か。それよりも気になっただけですね」

「気になった?」

「はい。操ったのは本音を話してもらうためです。どうせ誤魔化そうとしますしね」


 この女の目論見が読めないのが何とも不気味だ。

 時間を稼ごうとしているのか?

 いや、味方のマルティークはシーマたちの冒険者部隊から逃げ続けているんだぞ。

 すぐ倒した方が都合がいいはずだ。


「目的は何だ?」

「だーからー、お話をするためですって。新しい第三騎士団の創設者さんとね?」


 レイラは静かに笑う。

 対照的に、新しい第三騎士団の創設者――べネック団長は表情を強張らせた。

 何をするつもりなのか。

 気づいているかどうかは分からないが、やや前傾姿勢になって身構えている。


「そう身構えなくてもいいじゃないですか。一つだけ質問があるんですよ」

「何だ?」

「ティッセ=レッバロンを返してほしいと私が言ったら……あなたはどうします?」


 レイラがそう言った途端、凄まじい殺気が私たちを襲った。

 少しでも動いた瞬間に斬られそうな気配に慄いていると、べネック団長が笑った。

 ただし顔色は悪い。

 魔力酔いになりやすい体質であるべネック団長は、レイラとの相性が最悪だ。


「断固拒否だな。私が直々にスカウトした逸材を、怪しい奴に渡せるか!」

「ふふっ、だったら力づくで奪うまでですね」


 レイラが指を鳴らすと、今まで寝ていたはずの兵士たちが復活した。

 これは……私たちが幻覚を見せられていたのか。

 母は相変わらず苦しんでいるし、【眷属化】の解呪もほとんど進んでいない。


「げっ、帰ってきちゃった」

「こっちはどんな感じだ?」

「はっきり言うと、あまり進んでいない。このままだと三十分持てばいい方かしら」


 アリアは冷静に言うと、私の背後を指で示す。

 わざわざ振り返らなくても、レイラ率いる聖騎士たちが攻めてきたと分かる。


「ここは私たちでどうにかするから、まずはあいつらを追い払ってよ」

「了解、頼んだよ」

「それはこっちのセリフよ。あいつらに殺されるのなんかごめんよ」


 アリアは苦笑する。

 母の共闘相手に負けるのは、母に負けるのと同じことだから絶対に負けない。


「分かった」


 私は大きく頷くと、部隊ごとに細かく指示を出しているべネック団長に近づく。

 戦う前にやっておくことがあるからね。


「べネック団長、少しだけ部隊をお願いします。あっちに救援要請をしますから」

「もう終わっていたのか。分かった、よろしく頼む」


 べネック団長が険しい表情で聖騎士たちに対峙し、私は通信石に魔力を込めた。

 普段の二倍の魔力を込めれば、たとえ会話中でも割り込める。


『どうしたんだ!? 割り込み機能を使うなんて!』

「オロバス枢機卿とレイラがこっちに来たの! 私たちだけじゃ勝てないのよ!」

『分かった。すぐに向かう』


 ティッセの声が強張っていた。

 オロバス枢機卿とレイラは二人でいることで効果を発揮するところが嫌らしい。


「お待たせしました。指揮に戻ります」

「正直に言えばこれは負け戦だな。敵の数があまりにも多すぎる」

「分かっています。防御重視でいきましょう」


 私たちの仕事はティッセたちが救援に来るまで、戦線を維持することだ。

 無駄なことは考えずに防御重視でいいだろう。

 そうして戦うこと五分。

 ティッセと赤髪のおじさんが二人で空中から現れ、私たちの隣に降り立った。


「イリナ、無事か?」

「私たちは大丈夫よ。戦況は見ての通り。敵の数があまりにも多すぎて勝てないわ」

「大丈夫だ、私たちに任せておけ」


 赤髪のおじさんはそんなことを言いながら、風魔法を恐ろしい威力で発動させた。

 聖騎士たちが遠くに吹き飛んでいく。

 魔力の操作が本当に精密で、味方の兵士は誰一人として吹き飛んでいない。


「もう、今度は誰が現れたんですか!?」

「久しぶりだな」


 赤髪の男の姿を認めたレイラは、分かりやすいほど動揺しているように見えた。

 今まで完璧に制御されていた魔力が揺らぐ。


「どうしてここに……」

「それはこっちのセリフだ。お前は魔法大学に通っていたんじゃなかったのか?」


 ティッセがわざとらしく首を傾げる。

 その瞬間、今まで分かりやすく慌てていたレイラがピタリと静止した。


「……………」

「どうしてお前がここにいるか、じっくりと聞かせてもらおう。なあ、ハル!」


少しでも面白いと思ってくださったら。

また、連載頑張れ!と思ってくださったら、ぜひ感想や評価をお願いします!

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