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成り上がれ、最強の魔剣士〜失墜した冒険者は騎士としてリスタートします〜  作者: 銀雪
第六章 辛いことも、理不尽なことも乗り越えて その三 ハルック・リリー編
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『第百三十七話 激戦、母子の一騎打ち(後)』

 私は剣を構えなおし、母の様子を伺う。

 母は防御するように巨大なハサミを胸の前で交差させ、こちらを睨みつけていた。


「必ずあなたを倒してみせる! 【剣術強化】」


 剣術に関しては厳しかった父が認めてくれた能力をまだ使っていなかった。

 これであのハサミを斬ることができないだろうか。


「ヘルシミ式剣術の弐、【九夏三伏】」

「無駄よっ!」


 能力で威力が上がっているはずの技でも、硬いハサミは斬ることができない。

 母は余裕の笑みを見せている。

 私は斬ることができないと感じ取った瞬間、再び風魔法を駆使して走り出す。


 うーん……このままだと持久戦だな。

 同じところに攻撃を叩き込めばいけると思うが、何回叩き込めば壊せるのか。


「ヘルシミ式剣術の参、【一碧万頃】」

「グ……グフッ!?」


 私の攻撃を受け流そうとした母は、私の生み出した大波に飲まれて後退した。

 能力のおかげで威力が上がっているから、母は大波から逃れることができない。

 よし、このまま倒していこう。


「ヘルシミ式剣術の参、【春寒料峭】」


 続いて、水属性の派生魔法である氷魔法の魔力を込めた剣術を放つ。

 母を氷漬けにすることはできないが、ハサミの切れ味を鈍らせることはできる。

 ハサミとかが凍れば重くなるからな。


 そのとき、大波から顔だけを出した母が何かを呟こうとしていたので、先手を打って潰しておく。


「ヘルシミ式剣術の弐、【桃水柳緑】」


 地面から生えた蔦が母の口を塞ぐ。

 剣を魔力を使って、変幻自在に変えて戦うヘルシミ式剣術は母には未知の剣術だ。

 そして私の能力である【剣術強化】。

 

 この二つを駆使すれば、禁術に手を出してしまった母も倒すことができるだろう。


「あとはハサミなんだよなぁ……」


 蔦を噛みちぎろうと悪戦苦闘している母を見つつ、私は思案する。


 既に最大の武器は封じた。

 禁術、【大暑の巨蟹】の最大の武器は、属性に関係なく技を発動できるところだ。

 異国の文字二字で表すことができれば発動させることができる。


 幼いころに学ばされていた東国の言葉がこのようなところで役に立つとはね。

 そこだけは母に感謝しないといけないところだな。


「さて、どうやって技を解除するんですかね?」

「……分からん」


 すでに母の足は完全に凍り付いている。

 剣術での戦いの場合は、基本的に相手を行動不能に陥らせれば勝ちとされている。

 ゆえに今回の一騎打ちは私の勝利と判断し、櫓の上の観戦者たちに問いかけた。


 ところが、帰ってきた言葉は分からないというもの。

 誰も使ったことのない技だったらしいし、解除方法が分からないのも当然か。


「早く解決方法を探らないと、また動き出しますよ?」


 私はそう言ってから、母に近づく。

 母は獰猛な瞳でこちらを見ていたが、ハサミが凍り付いてしまって動けない。

 軽くすることも口を塞がれていて出来ないしね。


 私は母の服のポケットからスイッチを取り出し、王都の安全を確保しておく。

 これを押されると王都が大変な目に遭うからね。

 しっかりと処分しておかなければ。


「分かっている。すでに朝のようだし、ノートンに調査を依頼しようじゃないか」

「そうですね。第四騎士団なら安全でしょう」


 リーデン帝国のそれと同じように、第四騎士団は情報収集の専門家の集団だ。

 特にノートン団長の腕は一級品らしい。

 私は見たことがないが、魔道具を一目見ただけで用途を当てた実績もある。

 任せても大丈夫だろう。


「うーん、これは難解な呪いがかかっているね。まずはこっちを解かないとー」


 その後、【大暑の巨蟹】を見たノートン団長の一言目がこれだ。

 レイラがかけた【眷属化】の複雑な術式に隠されていて、判別できないという。


「でも、私でも解呪できないわよ。相当強い魔力がかけられているわね」

「薬を開発すれば確実でしょうが、時間も予算も場所もありません」


 ノートン団長と一緒に来たエルス副団長も顔を歪めた。


 母の動きを封じている氷と技の発動を阻止している蔦はそう長くはもたない。

 次にリーデン帝国に襲われた場所の復興にお金をかけねばならず、予算もない。

 極めつけに王城を占拠されている状態なので、研究する場所さえない。


 分析のスペシャリストであるエルス副団長でもお手上げの呪いか。

 本当に厄介だな。

 母をどうするのが良いのか話し合おうとしたところで、突然母が苦しみだした。


「グァッ!? アアアアアアアアアァァ!?」

「どうしたんですか!?」

「さっきの複雑な術式が反応しています! このままだと一分もしないうちに!」

「【眷属化】か! アリア、無駄だとは思うが【解呪】の魔法を当ててやれ!」


 全員が慌ただしく動き出す。


 ノートン団長とアリアが協力して【眷属化】に対抗し、エルス副団長が薬を調合。

 私とべネック団長はレイラたちの襲撃に備えて部隊の編制。

 シーマたち冒険者組は、いつの間にかいなくなっていたマルティークの捜索だ。


 今回は東門よりも外で戦う。

 レイラたちの部隊を一歩でも王都に入れるわけにはいかない。


 ハリーが鍛え上げた部隊は、ひとたび見失えば二度と見つかることはない。

 自分から見つかろうと思わなければ。

 油断なく辺りを見回す私を嘲笑うかのように、あの無機質な声が響き渡った。


「もう少し頑張ってくれると思っていましたが、まさか一人にやられるとは」

「……………」

「しかも自分の娘に負けたんですよ? 見ているこちらまで恥ずかしくなりました」


 気づかなかった。

 母の履いている靴についていた宝石の一つが、あろうことか通信石だったのだ。

 みんなにレイラの無機質な声が響き渡る。


「あと、解呪しようとしても無駄ですよ。【眷属化】は絶対に解けない」

「せいぜい無駄な努力をしてください。魔力も大事な戦力のうちですからね」


 オロバス枢機卿の声も聞こえてきた。

 あの二人は完全に組んだと考えていいだろう。


「うるさい! そうやって安全圏から見ているだけのくせに!」


 アリアが叫ぶ。

 彼女の額には汗が浮かんでおり、素人が見ても魔力が減っているのが分かる。

 レイラも自信満々だったし、相当強い呪いなのだろう。


「ふふっ、そちらこそ随分と威勢がいいではありませんか。いいでしょう。出ます」

「はっ」


 最後の言葉はオロバス枢機卿に言ったのか。

 そして二人が生きていて、なおかつヘルシミ王国にまで来ているということは。

 負けてしまったのか。


 エリーナ騎士団長はいい人ではなかったが、少なくとも私は嫌いじゃなかった。

 途中から協力してくれたし。

 敵の傘下に入っていたとはいえ、奴隷契約で従わされていただけだったし。


 そんな彼女を殺した二人を私は許さない。


「べネック団長、部隊を進行させましょう。このままだとアリアが攻撃の的です」

「分かった。それに敵がどこから来るかは分からないからな」

「ええ。母の周囲を囲むように部隊を展開しましょう」


 このとき、私たちは見誤っていた。

 リーデン帝国第四騎士団長、レイラ=モーズという女の実力を。

少しでも面白いと思ってくださったら。

また、連載頑張れ!と思ってくださったら、ぜひ感想や評価をお願いします!

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