『第百三十一話 戦局を打開せよ』
作戦開始から一時間二分後。
副将を務めていたバルバスに部隊を率いてもらって、第四騎士団に合流させる。
人数で劣っている私たちは、一つの戦場に集中しなければ勝ち目などない。
ゆえにどちらかの敵を全滅させる必要がある。
東門側の戦場には門や壁があるからね。
大通りの突き当たりで待つしかない王都側に比べて、戦う人数は少なくてすむ。
つまり全滅させるのも楽だということだ。
戦闘を長引かせば長引かせるほど、こちらが不利になっていくのは目に見えているので、人海戦術で押し切ってしまいたい。
「すみません、遅くなりました」
「悪いわね、シーマ。戻ってきてもらって」
「イリナさんが狙われる方が大変ですからね。指揮もオーランなら大丈夫です」
「分かったわ」
一人で指揮をするのは不安なので、バルバスと引き換えにシーマを戻している。
ここで現在の状況を整理しておこう。
まずはべネック団長の部隊。
王都側に配置されており、残りの兵数は約五百。
そのうち、アリアが率いる後衛が二百。
第四騎士団の半数がここに編成されており、母に操られた第二騎士団と戦闘中。
ノートン団長の部隊。
東門側に配置されており、残りの兵数は約二百。
そのうち、アリアが率いる後衛が百。
先ほどまでジャックの部隊と戦っていたせいか、やや消耗が激しい。
帝国の冒険者と戦闘中。
エルス副団長の部隊。
遊撃隊として準備しておいた舞台だったが、現在は王都側で戦ってもらっている。
残りの兵数は約五十で、帝国の冒険者と戦闘中。
オーランの部隊。
もともとはシーマが指揮していた遊撃隊で、残りの兵数は約四十。
路地裏を突破してきたAランクからCランクまでの冒険者で占められている。
東門側で冒険者たちと戦闘中。
最後にバルバスの部隊。
もともとは私が指揮していた遊撃隊で、残りの兵数は約三十五。
東門側で帝国の冒険者たちと戦闘中。
王都側に約五百五十、東門側に約二百七十五。
合計すると約八百二十五が私たちヘルシミ王国側の残存兵力だ。
一方、相手の兵力はどうだろう。
まずはレイラが率いる第二騎士団長。
残りの兵数は約九百だが、今も洗脳が解けた兵士たちが次々と寝返っている。
前衛が多いからか、防御重視の戦法を取っている私たちを倒せていない。
王都側の冒険者部隊。
残りの兵数は約百であり、主に魔法使いや弓隊などの後衛で編成されている。
第二騎士団は後衛にやや乏しいから、もともと第二騎士団との共闘狙いだろう。
最後に東門側の冒険者部隊。
残りの兵数は約三百で、こちら側は剣士や重戦士などの前衛が中心となっている。
アリアが率いる後衛部隊が確実に葬っているから、こちらも問題はない。
王都側に約九百、東門側に約三百。
合計すると約千二百が相手であるリーデン帝国側の残存兵力となる。
問題はべネック団長の部隊だろう。
防御重視の戦法を取ることで凌いではいるものの、相手の兵数は依然として多い。
人数の面から見ても、五百対九百と四百の差がある。
しかし、すでに投入することができる部隊は全て投入しているので、耐えてもらうしかないな。
作戦開始から一時間十分が経過した。
東門側の戦場ではなおもこちら側が押しており、ついに残存兵力でも逆転した。
こちらの残りは約二百五十、相手の残りは約百五十。
相手は前衛が中心で魔法に対抗する手段に乏しく、後衛部隊に倒されている。
このままのペースでいけば、あと十分ほどで全滅させられるに違いない。
「降伏に応じないかとも思ったんだけど……」
「まさか、あそこまでハンルさんへの忠誠心が強いとは思いませんでした」
シーマがため息をついた。
私はリーデン帝国で冒険者だったシーマを使者に送り、降伏を促したのである。
しかし相手は取りつく島もなかった。
ハンルが敵視しているヘルシミ王国に下るくらいなら、この場所で死ぬと言い切ったのである。
「それよりも、問題はべネックさんの方でしょう」
「……ちょっと待ってて」
順調な東門側とは対照的に、王都側の戦場はなおも不利な戦いを強いられていた。
冒険者のうち、数が少ない前衛が率先して前に出てくるようになったのだ。
第二騎士団の兵と違い、冒険者は気絶させてもこちら側の兵数が増えない。
ゆえに殺すしか道はなく、殺そうと前に出たら敵の後衛に撃ち抜かれる。
もはや八方塞がりの様相を呈していた。
ここは私が出るしかないと判断し、とある人物を前線から呼び寄せる。
「お前が俺を呼んだのか?」
「ええ。シーマの手伝いをしてあげて。私はこれからべネック団長の救援に行くわ」
「任せとけ。報酬は弾んでくれよ!」
私が呼んだのはAランク冒険者のマッデン=エスラー。
素行不良でヘルシミ王国に左遷された男だが、報酬を増額すれば問題なし。
マッデンに副将を依頼して、私は単身で前線に向かう。
べネック団長を襲おうとしている冒険者を袈裟斬りにして、横に蹴りとばした。
「大丈夫ですか、べネック団長!?」
「イリナか。あまり大丈夫ではないな。なにせ次から次へと敵が襲い掛かってくる」
「後衛の冒険者たちが厄介ですね」
こちらの後衛は第二騎士団の後衛を抑えるので精一杯で、手が回らない。
だけど、もうすぐのはずなのだ。
不意をつけるのはリーデン帝国だけではないということを、相手に教えてやる。
「グリード式剣術の壱、【琥珀の舞】」
近くにいたBランク冒険者三人を土属性の剣で斬り、Cランク冒険者を斬る。
Cランク冒険者を盾にしていたAランク冒険者も首を刎ねる。
剣についた血を振り落とし、背後から飛んでくる魔法を地面で転がって避ける。
立ち上がる勢いを利用して別のBランク冒険者も縦に斬った。
「イリナ、向こうから別の部隊が近づいてくるぞ!」
「おいおい、また別の敵かよ!」
「もう勘弁してくれよ!」
べネック団長の言葉を皮ぎりに、部隊のいたるところからブーイングが上がる。
作戦開始から一時間二十二分後。
こちらに近づいてきた部隊は第二騎士団の中心部を突破し、私のもとまで来た。
「お待たせ、遅くなって悪かったわね」
「いえいえ、厳しかったので助かります。ありがとうございます、ヒナタさん」
先ほど、私が通信を繋げたのはヒナタさん。
アリアの実の姉であり、リーデン帝国の第三騎士団長だった女騎士の大先輩だ。
「数が必要だって話だから、とりあえず僧兵を四百連れてきたわ」
「十分です! ありがとうございます!」
べネック団長の部隊とエルス副団長の部隊を合わせた兵数が、約四百七十。
ヒナタさんの部隊四百を合わせると、約八百七十になる。
相手の兵数が残り八百くらいだから、ようやく同数かややこちらが上回ったくらいになった。
「さあ、私の大切な妹たちを殺そうとした不届き者を成敗するわよ!」
そう言ったヒナタさんは、とても頼もしかった。
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