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成り上がれ、最強の魔剣士〜失墜した冒険者は騎士としてリスタートします〜  作者: 銀雪
第六章 辛いことも、理不尽なことも乗り越えて その三 ハルック・リリー編
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『第百二十八話 魔法迎撃と聞き込み(イリナ視点)』

 空中に浮かんでいる大きな岩は、四つの陣営を一瞬にして大混乱に陥れた。

 本来は敵であるはずの僧兵たちや帝国の第二騎士団も、呆気にとられている。

 落下地点にいる第四騎士団の面々が盾を構えるが、何も起こらない。


「んっ……」

「落ちてこないぞ?」

「急に外が暗くなったが、何があった!? ――って何だこの大岩は!?」


 ノートン団長が本陣から出てくる。

 岩を視界に入れたノートン団長は剣を構え、閉じられている門を睨みつけた。


「落ち着け、敵襲ではない」

「食料庫の魔術がかかっているか確かめようとしたら、あれが現れて……」

「すまない、お前の仕事を増やしてしまった」


 私が説明する横で、苦い顔をしたべネック団長が頭を下げる。

 ノートン団長はため息と同時に、浮かんでいる岩に向けてナイフを投擲した。

 ナイフが岩に刺さったところで何かが割れる音が響く。


 全員が一斉に音が鳴った方を向くと、食料庫から九十九本の茶色い線が岩に向かって伸びていた。


「これは……」

「魔法を解除するためのギミックでしょう。あと七分以内にあの線を壊さないと!」

「あの岩に潰されてしまうんですね」


 弓を構えたエルス副団長が真剣な表情で頷く。

【ビッグ・ロック・クロック・シャドウ】の三語目にある、【クロック】が鍵だ。

 この言葉は、決められた時間が経たないと魔法が発動しないという特徴を持つ。


 リーデン帝国では「遅延魔法」と呼ばれており、主に奇襲するときなどに使われる言葉である。


「多分、あの岩に攻撃すると線が壊れるんだと思います!」

「第四騎士団の諸君、全員で岩を攻撃しろ! 早くしないと押しつぶされるぞ!」

「おお!」


 威勢のいい掛け声とともに、様々な攻撃が岩に打ち上げられる。

 最初は百本あったのだろう線は二分後に六十三本、四分後には四十二本に減った。

 しかし、ここで異変が起こる。

 今まで動かなかった岩が徐々に下降してきて、線が二十本追加されたのだ。


「もう落ちてくるのか!?」

「【クロック】で留められるのは最大で十分と言われています」

「つまり残り五分で六十二本を壊さないといけないのか!? ちょっと厳しいぞ!」


 シーマの言葉にべネック団長が悲鳴を上げる。

 私たちは一分に約十本のペースで壊しているので、五分で壊せるのは約五十本か。


「火力不足ですね。攻撃した私が責任を取ります。水遁式剣術の弐、【波留】!」

「団員の責任は団長が取る。火焔式剣術の壱、【バーニング・スラッシュ】!」


 久しぶりに属性剣を使った気がする。

 私の水属性の技と、べネック団長が放った火属性の技が二十本を消し飛ばした。


「第三騎士団ばかりに良い思いをさせるな! お前たちも二人に続け!」

「おらおら、どけ!」

「俺も行くぜ! 火焔式剣術の壱、【バーニング・スラッシュ】!」


 ジャンとバルバスも二人で十五本を消し飛ばし、二分後には残り十七本に減った。

 岩は下降を続けており、今は私たちの頭上四メートルくらいだろうか。

 今までは不可能だったが、もうすぐ岩に触れられそうだ。


 そして、ついにその時が来る。

 シーマの魔法が残り三本だった線を消し、岩は閃光を放ちながら砕け散った。


「ノートン、お前が勝鬨をあげろ」

「そうだな。――聞け、皆の者! 見ての通り、あの岩は砕けた。我々の勝利だ!」


 怒号が響き渡る。

 十分にも満たない時間での戦いだったものの、疲労と達成感がすごい。


「それで、あなたたちはどうして食料庫に攻撃を?」

「詳しい話は本陣で話す。お前とて、勝利に沸き立つ団員を邪魔したくないだろう」

「ええ、そうですね」


 私たちは歓喜の輪から外れ、ノートン団長の執務室でもある本陣へと向かう。

 ちなみに本陣は宿屋に変更したらしい。

 最近は雨が降っていなかったが、私たちが櫓の上にいるときに降ったようだ。

 なぜか三分にも満たない時間だったらしいが。


「さて、どうしてわざわざ罠があると分かっていながら建物を攻撃したんだ?」

「その質問に答えるためには、こっちの質問に答えてもらわないといけませんね」

「ノートンはあの建物にしまってある食料の数を把握しているか?」


 シーマが小さく頷くと、べネック団長が問いを投げかけた。

 ノートン団長の答えによっては、目的を隠さなければいけないかもしれない。


「ああ。エルス副団長から報告を受けているが……そうか、だから確認したのか」

「そういうことだ」

「一言でまとめましょう。エルス副団長は敵と内通している可能性があります」


 アリアが指を一本立てる。

 現状で食料庫に入れるのはエルス副団長だけで、その時期から食料が減っている。

 出される食料の量も減っているし、内通している可能性が高い。


「エルス副団長は詳しい作戦を知ることができますし、戦闘時は大体、本陣にいる」

「あまりこんなことを言いたくはないですが、暗殺も安易なんです」


 私の言葉を聞いたノートン団長が顔を伏せる。

 実は、ノートン団長とエルス副団長は同い年かつ家が隣同士だったらしい。

 いわゆる幼馴染みというやつだ。


 幼馴染みが敵と内通していたり、あまつさえ自分を殺害する可能性があるとは思いたくないよね。


「ノートン団長、ここにいましたか。ジャンが呼んでいましたよ?」

「えっ!? あ、ああ。すぐ向かう」


 べネック団長が口を開きかけたところで、エルス副団長が入ってきた。

 私たちは宿屋の一階部分の酒場で話していたから、宿屋に入れば会えてしまう。

 個室で話をするべきだっただろうか。

 

 ノートン団長はどこか焦ったように宿屋を出ていき、エルス副団長が残された。

 どこか気まずい空気が流れる。


「あなたたちはどうしてここに?」

「岩を出してしまった件について叱られていた。それよりも一つ質問がある」

「……何でしょう?」


 いつになくべネック団長が強引だ。

 夜戦が始まるまであと三時間くらいだから、内通者がいるなら早く特定しないと。

 きっと、こんなことを思っているんだろうな。


「ノートンが倒れたときの様子を教えろ。『一番最初に見つけたのは誰か』とかな」

「分かりました。えっと……」


 エルス副団長の説明は以下の通りだ。

 

 一週間前、団員の訓練を見ていたエルス副団長のもとにバルバスが走ってきた。

 事情を聞くと、ノートン団長が倒れていたらしい。

 慌てて駆けつけてみると、本陣でノートン団長が赤い顔をして倒れていたという。


「つまり、第一発見者はバルバスということか?」

「正確には二人です。ジャンとバルバスが二手に分かれて私を探していたそうです」


 ジャンとバルバスはノートン団長が倒れた原因を毒だと思った。

 自分たちが処置すると症状が悪化すると考え、エルス副団長を探したらしい。


「父が王立研究所で毒の研究をしていましてね。私もよく資料を見ていました」

「毒の研究とだけ聞くと危ない感じがしますが、対処法を知るために必要ですよね」


 特定のものと一緒に摂取したときだけ効果が出る毒もある。

 ヘルシミ王国の王立研究所では、そういうことを研究していると聞いた。


「それで調べた結果、ノートンは風邪でした。原因は疲労と寝不足でしょう」

「だからエルス副団長が食料庫の管理――兵站を担当することになったんですよね」

「ああ、そうだ」

「それじゃ、あと二つほど質問をしますね?」


 私は優しく微笑んだ。

少しでも面白いと思ってくださったら。

また、連載頑張れ!と思ってくださったら、ぜひ感想や評価をお願いします!

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