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成り上がれ、最強の魔剣士〜失墜した冒険者は騎士としてリスタートします〜  作者: 銀雪
第六章 辛いことも、理不尽なことも乗り越えて その三 ハルック・リリー編
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『第百二十六話 孤立(イリナ視点)』

 時間を少し戻す。

 ハルックから逃げ出した私たちは、東門に向かって激走していた。


「イリナお姉ちゃん、前から五人来る!」

「本当にウザったいわね! グリード式剣術の肆、【覇王撃】!」


 衝撃波を与える技で教会の僧兵を吹き飛ばし、アリアの魔法による追撃を当てる。

 ヒナタさんは教会勢力の制圧に動いているが、なにせ数が多い。

 突破していない門が東門だけということもあって、そこに敵が集中しているのだ。


「ええい、嫌だけど……魅了の精霊よ、私の求めに応じて魅了せよ。【チャーム】」

「ぐほっ!?」

「ああっ……」

「アリア様、何でもお申し付けください。その顔つき、神の生まれ変わりだ」


 次に現れた僧兵三人にアリアが魅了を使うと、全員が堕ちる。

 アリアは引き攣った笑みを浮かべると、次の瞬間には凛々しい表情でこう言った。


「ああ。それでは私たちの前を歩き、邪魔者に天罰を与えなさい」

「「「はっ!」」」


 三人が同時に返事して、身長ほどもある槍を構えながら先頭を走り抜けていく。

 戦闘訓練でもしていたのだろうか。

 鍛え抜かれた肉体で、道を塞ごうとする僧兵たちを串刺しにしては脇に放る。


「邪魔だ!」

「神の生まれ変わりの少女に手を出すなど言語道断!」

「我らが天罰を与えてやる!」

「その調子よ。東門を防衛するのが私の使命。もちろん付き合ってくれるわね」


 アリアも覚悟を決めたのか、ここぞとばかりに命令を出している。

 私も僧兵たちの邪魔にならない程度に敵を刈っていく。

 十分ほどそれを繰り返し、ヘルシミ王国の王都の最後の要。

 東門の前に辿り着いた。


「第三騎士団所属のイリナだ。救援に来た。ノートン団長はどこだ!」

「こちらです!」


 近くにいた騎士が案内する先には天幕があり、目の下にクマを作った女性がいた。

 この人がノートン=レッカ。

 今年で二十二歳になる新米騎士ながら騎士団長に任命された秀才か。


「第三騎士団所属、イリナ=グリード。べネック団長の指示で救援に来ました!」

「同じく第三騎士団所属、アリア=グリードです」


 さすがに共闘相手の大将の前に、敵だった僧兵を連れてくるわけにはいかない。

 三人の僧兵たちはアリアの手によって門の真ん前に配置させられている。


「救援に感謝します。東門の防衛担当、第四騎士団長のノートン=レッカです」

「任務ご苦労様です。戦況はいかがでしょうか」

「敵軍の士気が低いせいか門を突破される気配はありませんが、攻撃が酷くて……」


 ノートン団長によると、ジャック率いる敵軍は夜になると門を叩きにくるらしい。

 門は金属製であり、強く叩けば当然のように大きな音が鳴る。

 第四騎士団は騒音に悩まされているが、門の近くから動くわけにもいかない。

 その結果、全員が睡眠不足になっているという。


「なるほど……」

「我々も火矢で応戦するなど反撃の意思は見せていますが……効果がないんです」

「【天空防御】持ちがいる可能性がありますね」


 アリアが顔を歪める。

 門の向こう側にいる敵を攻撃するためには、門を超える攻撃でなければならない。

【天空防御】持ちが一人でもいれば、ほぼ全ての攻撃を無効化できるから厄介だ。


「どうします?」

「様子を見るしかないでしょう。敵の様子が見渡せるところはありますか?」

「案内しますね」


 ノートン団長が案内してくれたのは、東門の上に用意された櫓だった。

 本格的な戦闘のときは、ここから矢を放ったりするのだろう。


「あれが敵のキャンプですかね」

「まず間違いないかと」


 三十メートルほど先に小高い丘があり、その上に小屋のようなものが見える。

 これ、ジャックは長期戦を狙っているな。

 現在進行形で敵の術中にはまっているといってもいい。


「ふう……状況はよく分かりました。夜になったら部隊を門の前に集めてください」

「いいですけど、何をする気ですか?」

「短期決戦で一気に決着をつけます。敵の大将の狙いは恐らく長期戦ですから」


 ジャックの狙いは、ここに一部隊を釘付けにしておくこと。

 そして、ここに来るときに何回もぶつかった僧兵も役割を果たしていたのだ。


「ノートン団長、一つ質問をします。王城が敵軍に占領されたのをご存じですか?」

「何だと!? すぐに王城に戻らなければ!」

 

 やっぱり知らなかったか。

 ダイマスに何回も負けているとはいえ、ジャックも騎士団長に選ばれる身。

 なかなか狡猾な作戦を考える。


「落ち着いてください。ここで王城に引き返せば、敵の思う壺です」

「そんなことを言っている場合では!」

「だから落ち着いてください。すでに同僚が王城奪還に動いていますから」

 

 この一言がきっかけとなって、ノートン団長は落ち着いてきたようだ。

 さて、ここで敵の作戦を説明していこう。


 まずは東門に攻撃を続けることで防衛部隊をここに釘付けにしておく。

 防衛部隊というのは第四騎士団のことだな。

 すると王都を守る部隊が手薄になり、残りの三つの門は簡単に突破できる。


 三つの門を突破した敵の部隊は王都や王城を占領して、教会の軍と合流。

 第四騎士団を包囲し、孤立させた。


「孤立というのは部隊のことだけでなく、情報という観点でもです」

「だから王城が占拠されたという情報を私たちは知らなかったのか」

「ええ。伝令は来なかったのではなく、来ることができなかったんですね」


 この作戦の本番はここからだ。

 情報を完全に遮断された第四騎士団に「王城が占領された」という情報を与える。

 もちろん、これは敵のタイミングでだ。

 情報を受け取った第四騎士団は先ほどのように、すぐ王城に向かおうとする。


 すると、どうなるか。


 もちろん王都側で第四騎士団を包囲していた僧兵たちとの戦闘になるだろう。

 そして、門を破ってきたジャック率いる第二騎士団が背後から来ることになる。


「ちょっと待ってください。敵は門を破れないんじゃなく……」

「あえて破らないんですよ」


 いざというとき、第四騎士団を確実に挟み撃ちにするために。

 ちなみに門を鳴らしに来るのも、敵から反撃があるかどうか確かめるためだろう。

 何もしてこなかったら罠にかかったという合図。

 すぐにでも門を破ってジャックたちが突入してくるに違いない。


「まさか……」

「はい。今回はこれを使って、敵を逆に罠にはめます」


 今夜はあえて反撃しない。

 気がすむまで門を鳴らさせてあげようじゃないか。


「分かりました。団員に伝えます。作戦開始は門が鳴らされてからでいいですか?」

「はい、大丈夫です。乱戦が予想されるので、きちんと準備を整えてくださいね」

「分かっています。今夜中に決着をつけましょう!」


 ノートン団長が去ると、今まで黙っていたアリアが近づいてくる。

 言いたいことは分かっている。


「お姉ちゃん、私には今回の作戦が成功するとは思えないんだけど」

「………そうね」


 私は、敵の手のひらの上で踊っているような言いようのない悪寒に囚われていた。

 この嫌な予感の正体は、何?


少しでも面白いと思ってくださったら。

また、連載頑張れ!と思ってくださったら、ぜひ感想や評価をお願いします!

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