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成り上がれ、最強の魔剣士〜失墜した冒険者は騎士としてリスタートします〜  作者: 銀雪
第六章 辛いことも、理不尽なことも乗り越えて その三 ハルック・リリー編
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『第百二十五話 復讐完了……?』

 武器を構える私たちだが、蠍は体を赤くしたまま動かない。

 これは何だ?

 試しにいくつか魔法を放ってみたが、分厚い甲羅に阻まれて攻撃が通らない。


 うーん……光魔法は通ると思うんだけど、私は光属性を持っていない。

 さて、どうするべきか。


「リムル式弓術、【ホーリー・ライト・レイン】」


 私が考えていると、シーマが光属性が付与された弓を放つ。

 しかし、透明の壁に阻まれて弓でも傷を与えることはできなかった。


「これは無理ですね」

「強化が終わるまで待てということか。禁忌の技だからだろうが、釈然としないな」


 納得はしていないが、現状では傷を与えられる攻撃はない。

 私たちは大人しく待つことにした。

 それに、待っても大丈夫だという根拠もしっかりとある。


 確かに巨大な蠍は脅威には違いないが、最大の優位性は既に失われている。

 もう幻惑は破っているからな。


「そういえばべネックさん、どうやって幻惑を突破したんですか?」

「んっ?」


 弓を構えたシーマが、私に問いかけてきた。

 最下位とはいえ禁忌に指定される技の切り札だけあって、幻惑はよくできていた。

 あれでは現実と混同してもおかしくないだろう。

 ただ、術者の観察力に左右されてしまうのが制約ということなのだろうか。


「幻惑の世界のシーマの弓は短弓だったんだ。お前が持っているのは長弓だからな」

「なるほど」


 ハルックは弓に詳しくなくて、弓といえば短弓というイメージだったのだろう。

 結果、幻惑の世界と現実の世界に差異ができてしまった。


「そういうシーマはどうだったんだ。見たところ私より早く突破していたようだが」

「ああー、えっと……」


 シーマが言葉を濁す。

 その対応は非常に気になるが、今はこの巨大な蠍を討伐するのが最優先事項か。

 強化が終わって、こちらに突っ込んできた。


 足元に置いておいた大槌を握りしめて、動きを止めるべく右の前脚に思いっきりぶつける。


「GYAAAA!?」

「脚を攻撃して蠍を転倒させる。弓で援護しろ。くれぐれも尻尾には注意しろよ!」

「わ、分かりました」


 なぜかシーマが動揺しているが、どうしたのだろう。

 心配になった私は右の真ん中の脚を大槌で叩きつつ、シーマに意識を向けていた。

 結果的にそれがいけなかったのだろう。

 背後から迫りくる尻尾に気づかず、反応が遅れてしまったのだ。


「――っ!?」

「べネックさん、伏せてください! リムル式弓術、【ホーリー・アロ―】!」


 地面に伏せると、頭上を光る矢が猛スピードで通過し、蠍の尻尾に打撃を与えた。

 それだけでなく、尻尾を近くにあった民家の壁に固定した。


「はぁ……すまない。助かった」

「いえいえ。こちらこそご心配をおかけしました。仕切り直しましょう」


 シーマはそう言って、さらに【ホーリー・アロ―】を何回か放った。

 矢はすべて蠍の尻尾に突き刺さり、民家の壁に固定していく。

 それと、やっぱり光属性は効果があるみたいだな。


「今のうちに脚を潰してしまいましょう。【ホーリー・ライト・グラント】」

「……? リーデン式剣術の陸、【大暑の獅子】!」


 特に効果がないようだが、シーマが放った技は何だ?

 まあ、考えても分からないので置いておくとしよう。

 リーデン式剣術の陸から捌まで、上位の技を使えるのはハルックだけじゃない。


 私が使った【大暑の獅子】は研ぎたての剣と同様の切れ味を再現する技である。

 結果、右の真ん中の脚が切り刻まれた。


「GYAAAAAAAA!」


 一つの脚を失った蠍は当然暴れるが、最大の武器である尻尾は固定されたまま。

 それにしてもバランスを崩さないのか。

 普通の蠍であれば脚を一本失っただけでも倒れてしまうが、これは頑張っている。

 するとシーマが弓を構えた。


「今度は僕の番です! リムル式弓術、【ホーリー・アロー・レイン】」

「うわっ!?」


 シーマが矢を放つと一本だった矢が増えて、左の前脚と真ん中の脚を同時に貫く。

 それはいいのだが、流れ矢が私の方にも飛んできた。


「うおっ!? おい、危ないじゃないか!」

「……すみません」


 わずか三発で脚を貫いてしまう矢をまともに喰らったらどうなるか……。

 考えたくもない。

 

 これで破った脚は三つとなった。

 真ん中の足を左右とも失った蠍は、固定されている家を崩しながら前に倒れた。

 まあ、左の前脚も潰しているからな。


 すると家の瓦礫が甲羅に直撃すると、甲羅が溶けていることに気づいた。

 あの硬い甲羅を溶かす……だと?


「なっ……」

「これが【ホーリー・ライト・グラント】。物に光属性を付与する魔法ですね」


 さっきの効果がなかった技か。

 硬い甲羅を傷つけるにはこれしかなかったのだろうが、まさか民家を使うとは。

 ティッセの入れ知恵か?


「さあ、締めといこうか。リーデン式剣術の伍、【透過斬撃】!」

「はいっ! リムル式剣術の肆、【宝石たちの舞踏会】」


 まずは私の【透過斬撃】、鎧などの装甲を無視して攻撃出来る技で一撃を放つ。

 蠍が皮膚を斬られた痛みに口を開けたところで、シーマが宝石を口内に投げた。


「これで終わりです。大人しく死んでください。リムル式剣術の伍、【七光乱舞】」

「GYAAAAAAAAAAA!!」


 体内から七色の光が飛び出してきた蠍は、跡形もなく消滅した。

 シーマによると【宝石たちの舞踏会】と【七光乱舞】はとある技の上位版らしい。

 何の技の上位版なのかは教えてくれなかった。


「……それにしても、最後までやってくれましたね。あのハルックとかいう人」

「……ああ、最後は私たちの手で葬りたかったが」


 今回の戦いは王都防衛戦という一面だけでなく、復讐という一面も持っていた。

 しかしハルックの死因は禁忌によるもの。

 蠍の討伐によってハルックは死んだが、復讐を達成したという気持ちは湧かない。

 ハルックならそれも見越していたんだろうな。


「……イリナたちと合流するか」

「……そうですね。最後にちょっとだけ祈らせてください」


 シーマはそう言うと、その場でしゃがんで首にかけていたロザリオを握りしめる。

 ゆっくりと目を閉じること一分ほど。

 立ち上がったシーマの顔は、今までにないほど晴れ晴れとした顔をしていた。


「行きましょう」

「ああ」


 こうして私たちの戦いは終了を迎えた。

 ちなみにシーマの幻惑だが、大槌を持った私が襲い掛かってきたらしい。


「襲い掛かってくるときの言葉がお嬢様みたいだったんですよ。さすがに変です」


 これが幻惑に対するシーマの評価である。

 ハルックは令嬢だったころの私はよく知っているが、騎士の私を知らない。

 シーマは逆だったからこそ、このようなおかしい事態になったのだろう

少しでも面白いと思ってくださったら。

また、連載頑張れ!と思ってくださったら、ぜひ感想や評価をお願いします!

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