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『第十二話 戦い、終結』

2020.12.30 加筆しました!

 自分のターンになったと分かった途端、ハルックは目を輝かせ始めた。

 さっきまで死んだ魚のような目をしていたくせに。


「私は先日、第一騎士団の団長に就任したハルック=モーズというものです。この町へはティッセ=レッバロン、ダイマス=イエールの両名。及び皇都からの脱出を手引きしたヘルシミ王国の騎士を捕縛するよう、皇帝に命じられて来ました」


 なるほど、イリナは無関係だったわけだ。

 家出した娘――イリナを連れ戻したかったホルダームと、利害が一致している。

 だから一緒に行動していたんだな。


「罪状は、両者ともに横領。ヘルシミ王国の騎士は罪人援助罪に当たります」

「しばし待て。ヘルシミ王国には連絡を取ったのか?」


 エーキンス皇弟殿下が尋ねた。

 本来であれば、他国に籍を置く罪人を捕らえる際に連絡を入れる必要はない。

 しかし騎士だけは例外である。


 それというのも、騎士は他国で不当な扱いを受けている国民を救済できるのだ。

 もちろん、後でその国の法律で裁かなければならないが。

 

 そのため、騎士を所属国の知らぬところで捕縛したとなってはその国の品性を疑われるし、勝手に裁こうものなら戦争の引き金になってもおかしくない。


 彼の心配も、最もなことなのだが……。


「現在、フーナ宰相がヘルシミ王国に渡航し、捕縛を知らせているところです」

「つまり、まだ相手国は知らないかもしれないのだな」

「まあ……そういうことになります」


 ハルックの歯切れが悪くなった。

 俺たちを囲んでいる見物客たちがざわめき、エーキンス皇弟殿下が項垂れる。

 ちょっと、知らせたという確信がない状態で動くのはマズいでしょう。


 ――まあ、デールさんがここにいる時点で、大筋は知っていると思うが。


 彼は、べネック団長についてた隠密が本国に一報を入れたことで来たんだからな。

 ヘルシミ国王も騎士たちに追われていることは知っているのだろう。

 そして当然、捕らえるなんて論外だと思っているはずだ。


「口を挟むようで申し訳ないのですが、一言よろしいでしょうか?」

「ああ、何だ?」

「この度の出来事、ヘルシミ国王は一部始終を存じています」


 デールさんが言うと、エーキンス皇弟殿下とハルックが目を見開く。

 特にハルックの狼狽ぶりは凄まじく、冷や汗を垂らしながら視線を逸らしていた。


「元々、リーデン帝国所属のSランク冒険者、宰相を引き抜くということで、ひと悶着あることは予想しておりました。そこで、使者のべネックには隠密部隊の者をつけておりました。その者が通信石を利用して本国に一報を入れたことで国王陛下の知るところとなり、護衛戦力として勅命を受けた私が送られたのでございます」


 デールさんは話し終えると、ハルックを鋭い目で射貫く。

 反撃材料を失ったのか、ハルックの目は泳ぎ切っていて、騎士の威厳は既にない。

 そこにべネック団長が止めを刺した。


「リーデン帝国第一騎士団長殿? 我々の迎えに応じたその時――つまりドラゴン討伐記念パーティーが終了した直後から、彼らはヘルシミ王国の民だ。よって、不当な扱いをされる危険のある国民ということで救済の対象になる」


 帝国は、俺たちを捕縛したら『捜査』を行うと公言しているからな。

 これは裏を返せば、自白させるためならば拷問も辞さないということである。

 無罪の俺たちに対して拷問――十分に不当な扱いである。


「詭弁だっ! そもそも二週間前から貴国と通じていた証拠がどこにある。ドラゴン討伐記念パーティーで彼らを見初めたのだとしたら、救済の適応外だろ!?」


 ハルックが声も枯れよとばかりに叫ぶ。

 真実を言い当てられ、べネック団長とデールさんの顔に一抹の緊張が走った。

 それもそのはず、この作戦の一番の問題はここにあるのだから。


 ――自国の民の救済は、罪人が一週間前からその国の国民である場合に限る。


 これは、罪人の権利を保障するための一文だ。

 このような一文がないと、罪を犯してしまった人を保護する代わりに無給で働け。

 条件を呑まないと捕まるだけだぞ、などという脅しが成立してしまう。


 脅しを防止するためには最も効果的だが、俺たちにとっては運命を決める一文。

 ここが山場だな。


 べネック団長が俺たちと同じように険しい表情をする一方で、デールさんは飄々とした態度のまま、ゆっくりと手を挙げた。


「デール殿、何か?」

「これが二週間前に発行された書類です。ここにヘルシミ国王の印があるでしょう」

「おお、確かに。うーむ……本物だな……」


 デールさんは胸元から三枚の書類を差し出した。

 まさか……騎士の名前や所属団などを書くという、王国特有の騎士簿?


「それは我が国特有の制度である騎士簿の一部です。その書類には名前や所属している団の他に、騎士になった年月日が記載されているでしょう。さらに国王の印が入っているため、公文書扱いとなります」


 暗に、改竄は不可能だと言っているのだ。

 ハルックが怒りに満ちた表情で話そうとした瞬間、デールさんが紙を指で示す。

 そのまま口だけで何かを呟くと、ハルックは顔を青ざめさせた。


「エーキンス皇弟殿下、沙汰をお願いいたします」

「うむ。デール殿が持つ騎士簿に不審な点は見当たらず、国王の印も本物であった。よって救済が適用されるゆえ、リーデン帝国側は手出し無用である」

「……はっ」


 エーキンス皇弟殿下が鷹揚に言うと、ハルックが肩を震わせながら了承した。

 デールさんも無言で頷く。

 こうして、不毛な市街地戦は幕を閉じたのであった。

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