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成り上がれ、最強の魔剣士〜失墜した冒険者は騎士としてリスタートします〜  作者: 銀雪
第六章 辛いことも、理不尽なことも乗り越えて その三 ハルック・リリー編
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『第百二十四話 禁忌の蠍(べネック視点)』

 抱き留められてキョトンとするシーマを視界に入れながら、ハルックを見据えた。

 ハルックは目を大きく見開いている。


「どうして出ることができたのか分からないって顔だな。解説してやろう」

「ふっ、ぜひご拝聴させていただきたいもんだな!」


 ハルックが足元に転がっていた剣を握りしめ、こちらに突進してきた。

 突進を避けつつ、私は【立冬の天蝎】に囚われていたときのことを思い出す。


「あの技は強力だ。ゆえに何らかの制限があると考えた」

「当然だな。あれだけの技が何の制限もなしで放てるわけがない。それがどうした」

「私が【立冬の天蝎】の制限に気づいたのは、剣が足にぶつかったときだ」


 もう一度確認するが、私が剣を離したのは【立冬の天蝎】に呑み込まれたときだ。

 それから私は流れる水の中で翻弄されていた。

 すなわち、本来なら剣は私と同じように水の中で回転してなければおかしい。


「さらに剣の柄に使われている金属は鎧と同じだったが、なぜか溶けていなかった」

「そりゃ、今も使っているもんな!」

「この二つの事例から、【立冬の天蝎】は一つのものしか溶かせないと分かった」


 ハルックの剣筋がわずかに鈍った。

 そこを見逃さず、ハルックが着ている豪華な鎧を砕くイメージで重い一撃を放つ。


「ぐっ……」

「要するに、お前は私の鎧に【立冬の天蝎】をかけたんだ。鎧を着ている私ごとな」


 鎧に技の効果がかかっている間は、剣を溶かすことはできない。

 だから剣は溶けなかったし、鎧を着ていた私は回転に巻き込まれることになった。


「なるほど。その通りだな」

「つまり、鎧を脱いでしまえば【立冬の天蝎】の拘束から逃れられるという寸法だ」


 だから今の服装は鎧の下に着ていた下着だ。

 少し恥ずかしいが、こいつを倒すためには仕方がないと割り切っている。


「さて、ハルック=モーズ。あんな毒水の中に閉じ込めた罰を喰らってもらおう」

「家族の仇も取らせてもらいますよっ!」

「ククッ、フハハ! まさかここまで粘られるとは思ってもいなかった。面白い!」


 ハルックが狂気のこもった瞳でこちらを見る。

 戦いに敗れ、奴隷契約を結ばされたエリーナとは違った狂気がそこにはあった。


「ここからは俺も全力で相手してやるよ。リーデン式剣術の捌、【穀雨の白羊】」

「望むところだ。リーデン式剣術の伍、【氷柱雨】」


 ハルックが羊に乗って突進してくるのを、私は氷属性の剣の連続突き攻撃で防ぐ。

 しかし羊が吠えると同時に氷が穀物に変化してしまった。


「なっ……!」

「えっ……穀物に変わった!?」


 せっかく付与した氷属性が失われてしまったので、このままではただの刺突だ。

 しかも穀物を羊が食べることで巨大化してしまった。


「なんて滅茶苦茶な能力なんですか……」

「というか、これは剣術なのか? もはや召喚術の類だと思うんだが……」


 世の中には【召喚】という能力を持つ者もいるのだ。

 特別な能力を持った動物を召喚して戦う職業で、子供たちには一定の人気がある。


「いや、ギリギリ剣術ですよ! あいつが持っている剣が変わっています!」

「これが制約か。恐らく羊を倒せば剣も壊れるぞ!」


 穀物を貪り、巨大化している羊を前にして私たちはこの能力の制約を看破した。

 しかし、逆にいえばそれだけだ。

 羊の能力は剣の品質に依存しているだろうし、高い能力を保有しているだろう。

 どうやって倒せばいいのか見当もつかない。


「べネックさん、そこに鍛冶屋がありますよね? 大剣とか大槌はありませんか?」

「……何をする気だ?」

「先ほどの刺突です。氷は穀物になりましたが、剣は穀物になっていません」

「なるほど。つまり魔法しか無効化できないということか」


 さらに付け足すならば、羊は巨大化しているだけで傷は癒えていないだろう。

 所詮は見かけ倒しというわけだ。


「そうです。ですが、僕たちの剣ではあの巨大な羊に対抗するには不安が残ります」

「ああ、剣が折れてしまいそうだ」


 こいつを倒した後は、イリナたちの救援に向かわなくてはならない。

 武器がなくなるという事態は避けたいな。


「分かった。物色してこよう」

「お願いします。さて……時間稼ぎをしましょうかね」


 少し低くなったシーマの声を聞きながら、近くにあった鍛冶屋の扉を蹴破った。

 騎士としては褒められた行為ではないが、緊急事態だから許してくれるはず。

 壁に飾られていた大剣と、カウンターの奥にあった大槌を掴んで、外に出る。


「はっ……?」


 目の前に広がっていた光景は、この世のものとは思えないものだった。

 まず、シーマが大きな蠍の尾に貫かれている。


 シーマを貫いた蠍は王都の南の地区をすべて覆い尽してしまうほど巨大で、妖しく光る赤い瞳がこちらを見ていた。


「な、なんだこれは」

「やっと出てきたか。愚かな騎士さん。お前が目を離したから、こいつは死んだ」


 蠍の上にはハルックが堂々と座っている。

 私の攻撃が届かないことを知っているかのように、余裕の態度を見せていた。


「……こんな」

「おいおい、お前らしくないなぁ。さっきまでの威勢のよさはどこに行ったんだ?」


 ハルックが顔を歪める。

 この世界で威勢よく罵ったところで意味がないことが分かっているからだ。

 無駄な体力を消耗するつもりはない。


「幻惑で私を騙せると思ったら大間違いだ。【立冬の天蝎】の上位技はこの程度か」

「ちっ」


 ハルックの舌打ちとともに世界が崩壊する。

 目が覚めると、巨大な蠍の瞳に矢を命中させるシーマの姿が見えた。

 巨大といってもせいぜいが一軒家くらいの姿で、幻惑ほどの威圧感は見られない。


「悪い、遅くなった」

「僕は大丈夫ですが……ハルックが」

「……?」


 改めて蠍を見てみると、ハルックと思われる男が尻尾に貫かれているのが見えた。

 あれが幻惑ではシーマに変わっていたんだな。


「べネックよ、幻惑を破ったか」

「お前は何をしているのだ? どうして羊がこのわずかな時間で蠍に変わっている」

「そいつは坊主に聞くんだな。俺からは一つ。絶対に貴様らは潰す」


 いや、尻尾に貫かれた状態で言われても。

 すると次の瞬間、蠍は自分の尻尾に貫かれているハルックを口元に持ってきた。


「まさか!」

「禁忌の技、【小雪の天蝎】で貴様らを潰す! お前らに完璧な死をっ!」


 ハルックは狂った笑みを浮かべたまま蠍の体内に消えていき、蠍が赤く発光する。

 何かしらが強化されたと見るべきだろうな。


「………あれは」

「リーデン式剣術の捌、【小雪の天蝎】。剣を変化させた蠍を命で動かす技です」

「……三番目の禁忌か」


 リーデン式剣術には使ってはいけないと言われている技が三つある。

 その中でも【小雪の天蝎】は最下位に位置する技ではあるが、その力は強大だ。

 

 特に厄介なのは幻惑。

 

 幻惑によって作られた偽物の世界で死んでしまうと、現実の世界でも死んでしまうという非常に恐ろしい能力を持つ蠍である。

 

 こうして、私たちと蠍の最後の戦いが幕を開けた。

2月最後の更新です。

3月も2月と同様に、偶数日の投稿となりますので、よろしくお願いします。


少しでも面白いと思ってくださったら。

また、連載頑張れ!と思ってくださったら、ぜひ感想や評価をお願いします!

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