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成り上がれ、最強の魔剣士〜失墜した冒険者は騎士としてリスタートします〜  作者: 銀雪
第六章 辛いことも、理不尽なことも乗り越えて その三 ハルック・リリー編
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『第百二十一話 シーマの過去 (シーマ視点)』

 師匠――ティッセさんたちが王城へ突入したころ。

 僕たちは、門で孤軍奮闘している第四騎士団の救援に向かっていた。


「なんで僕たちまで……」

「何か言いましたか? 言うわけないですよね? 操られていた冒険者さん?」

「はい、何にも!」


 半ば強制的に連れてこられた僕は思わずぼやくが、アリアさんの威圧に黙る。

 この人、何だか怖い。

 ギルドマスターみたいに、戦いとなったら黒い笑顔で敵に突進していきそう。

 なおも怒り心頭といった感じのアリアさんを、イリナさんが嗜めてくれた。


「まあまあ。アリアだって操られちゃったことだし、そこら辺にしておきなさい」

「むー、分かったわよ」


 頬を膨らませつつも追及を止めてくれたところで、べネックさんが止まった。

 近くの路地裏から一人の男が出てくる。


「王弟の領地ではよくもやってくれたな、べネック。借りは返させてもらうぜ」

「随分と面倒なタイミングで出てきてくれたもんだな、ハルック」

「そうだと思ったぜ。だから少々、無理してでもお前を狙った」


 べネックの言葉に、リーデン帝国の第一騎士団長であるハルック=モーズが嗤う。

 手には探知型の魔道具。

 師匠の能力でもある【気配察知】を疑似的に使える、使い捨ての魔道具である。


「そんな高価なものを使ってまで……」

「ハルック家の威信にかけて、今度こそ逃がさねぇ。死ぬまで戦ってやる」


 ハルックさんの瞳はどす黒い恨みで彩られていた。

 ギルドで糾弾されたときに師匠がしていた目にどこか似ているな、なんて思う。

 操られていたときの記憶は曖昧だが、あの時のことはよく覚えている。


 なぜだか無性に腹が立ってきて、酷い言葉をかけてしまった。

 きっとティッセ師匠にとっては、僕のあの言葉がトドメの一撃だったんだろうな。


 昔のことを思い出していると、べネック団長が僕たちに顔を向けて叫ぶ。


「月並みな言葉だが……お前たちは先に行け! 第四騎士団を助けるんだ!」

「べネック団長!?」

「早く行け! 最悪の事態に陥る前に!」


 べネックさんの鬼気迫る表情を見た僕は、最悪の事態とやらを思い浮かべる。

 あの男に足止めされている間に門が陥落、自分たちが敗北するといったところか。

 それはマズいよね。


 ここまで考えたとき、イリナさんが指示に従って勢いよく駆けだす。


「絶対に勝ってください! あの女と同じ結末を迎えるなんてありえませんから!」

「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!?」


 後を追うようにしてアリアさんや冒険者たち……というか仲間の集団が続いた。

 本来なら僕も逃げるべきなんだけど、ちょっとそれは出来ないかな。


「べネック団長、助太刀します」

「シーマとかいったか? 馬鹿なことを言ってないで、お前も早く……」

「恨みがあるんですよ」


 自分でも驚くほどドスのきいた声を出しながら、僕は手に持っていた剣を構えた。

 目は真っすぐにハルックを射貫く。


「多分、僕たちを退けた後は王都に火でも放つつもりでしょう。五年前みたいにね」

「五年前……?」


 ハルックが首を傾げる。

 五年前といえば、こいつは第一騎士団の副団長になったばかりだった。

 だから驕っていたんでしょう?


「リーデン帝国の南側はもともと別の国だったでしょう? もう忘れたんですか?」

「ああ、リルム王国のことか」

「僕はその国の王都に住んでいたんです。家はあなたの火魔法で灰になりましたが」


 五年前、リーデン帝国は空前の絶頂期を迎えていた。

 周りにある国を次々と侵略していた帝国の最後のターゲットが、リルム王国だ。

 当時の僕は商人の息子として生まれた十歳の少年に過ぎない。

 門を破って、王都に侵入してくる鎧の集団をただ見ていることしかできなかった。


「そして王城に進軍する途中、あなたは一組の夫婦に目をつけた」

「……………」


 他の民衆が当時の第一騎士団長を見ている中、夫婦だけはハルックを見ていた。

 結果的にはそれが仇となったわけだが。


「どんな理由があったのかは言わなかったけど、あなたはその夫婦を斬り捨てた」

「……………」

「配達から戻らない両親を心配して出た僕が見たのは、血で濡れたあなたの顔だ」

 

 今でも覚えている。

 全身が真っ赤に染まった両親の遺体を踏みにじる、銀色に光る鎧を着た男。

 すなわちハルックを。


「両親を踏みにじったあなたは続いて僕の家に火を放った。思い出も灰にした!」

「そんなの……」

「ああ、それが戦争ってもんだ。それだけなら僕だって何の恨みも抱かないさ!」


 たとえ納得はいかなくても、諦めることはできた。

 これが戦争という理不尽なんだと。


「でも、僕が許せなかったのが、あんたがうちの店の元従業員だったってことだ」

「……どうしてそれを!」

「あんたはバカか。僕は帝国で冒険者をしていたんだぞ。当然、支店にも行った」


 廃業を伝えた僕に、従業員の一人が見せてくれた名簿。

 そこにハルック=モーズの名があった。


「火をつけたことは流石に咎められたみたいだな。大声で名前を呼ばれていた」

「それで俺の名を」

「その通り。さらに帳簿を調べた結果、あんたが横領していたことが分かった」


 ティッセに苛立ってしまったのはこれが原因でもあるだろう。

 慕っていた冒険者の先輩が、自分が最も嫌いな人と同じことをしたと思ったから。


「あんたは僕の両親の顔を知っていたんだ。そして両親もあんたの顔を覚えていた」

「…………」


 だから他の人とは違い、ハルックの顔を見ていたのだろう。

 そしてハルックは横領している店のオーナーが民衆に混じっていると分かった。


「つまり、あんたがうちの両親を殺した理由は横領の証拠隠滅だったのさ」

「待て、家に火を放ったのは帳簿の写しを灰にするためか!?」

「今までの帳簿が家に保管されていると思ったんでしょう」


 実際、ほとんどの店は自分の家――オーナー宅に帳簿を保管する。

 防犯という観点からもそれの方が安全だから。

 だが、うちの店の場合は情勢が不安定な王国よりも帝国に保管した方が安全だ。


「支店長は兄で、帳簿の管理者も兄でした」

「その兄は……」

「両親が死ぬ少し前に行方不明になっています。こいつに殺されたんでしょう」


 目の前に佇むハルックを指で示す。

 ただ、兄も誰かが横領していることには気づいてたようで、帳簿は隠されていた。


「帳簿は墓の中にあったそうです。まさか殺人者が墓に入れるわけありませんから」

「墓の中に自分の遺体を入れてくれる人は信用できるということだな」

「ええ。それをもとにこうやって真実に辿り着いたんですよ」


 もし帳簿が発見されてなければ、戦争の被害の一つとして真実は闇に葬られていただろうから、つくづく兄に感謝である。


「両親と兄を横領の口封じに殺害し、僕を天涯孤独の身にしたお前は許さない!」

「やってもいない罪を被せ、私を殺そうとしたお前をここで倒す!」


 べネックさん、そんなことをされていたんですか。

 二人から剣を向けられたハルックはしばらく沈黙し、無言で剣を構えた。

 恨みを晴らす戦いが今、始まる。

昨日は申し訳ありませんでした。

パソコンが不調で、小説を投稿することができませんでした。

(小説のデータはパソコンにしか保存していなかった)

埋め合わせといたしまして、今日と明日、二日連続の投稿といたします。


少しでも面白いと思ってくださったら。

また、連載頑張れ!と思ってくださったら、ぜひ感想や評価をお願いします!

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