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成り上がれ、最強の魔剣士〜失墜した冒険者は騎士としてリスタートします〜  作者: 銀雪
第六章 辛いことも、理不尽なことも乗り越えて その二 ハンル・皇帝編
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『第百二十話 レイラの暗躍』

 ハンルの過去を聞いた俺は、思わず頭を抱えた。

 

 べネック団長を操ったのがレイラだとしたら、俺の親しい人が四人操られていることになるが、あいつは何の目的で……。


「ギルドマスター。シーマという冒険者を知っていますね?」

「ええ。ティッセに教育係を任せました。どうして任せたのかは分かりませんが」

「確証はないですが、とんでもなく強力な【精神操作】をかけられたせいでしょう」


 レイラが恐ろしいのは、お茶一口分だけでSSランクのハンルを操ったことだ。

 あの大量の魔力は見掛け倒しじゃないってわけだな。


「皇帝陛下、ご無事ですか?」

「遅いわっ!」


 一方、気絶中の皇帝に向かってダン騎士総長が率いる騎士の生き残りが駆け寄る。

 父上の言う通り、遅いんだよな。

 戦闘が終わってから乱入してきても何の意味もないんだよ。

 介抱してくれる人が来たという点では、皇帝にとっては僥倖かもしれないが。


「……話を戻しますが、そのシーマもお茶会の依頼で操られていました」

「同一人物ですか?」

「恐らくは同一人物でしょう。それにしても……的確に弱点を突かれましたね」

「本当ですよ。どこから俺の情報を仕入れたのやら」


 ハンルが項垂れる。

 ちょっと待て、ハンルに弱点があるっていうのか?


「弱点?」

「まさか知らなかったのか? ギルマスの能力は攻撃を意図した魔法しか弾かない」

「なるほど……」


 ずっと不思議に思っていたことがある。

 魔法が効かないはずのハンルが、どうして闇魔法の【精神操作】を喰らったのか。

 能力が弾いてくれるのではないかと。


「そんな弱点があったのか……」

「情報共有は大切ですよ? どうして一番の仲間が弱点を知らないんですか」

「相手の術師が俺に闇魔法をかけようとしても、【気配察知】で察してくれるんだ」


 能力で弾かれるとはいえ、魔法をかけられるというのは気持ちいいものではない。

 だから俺がついでに弾いていたのだが、結果的にハンルを守っていたとは。


「ティッセに甘え続けて、久しぶりに一人で依頼を受けた結果がこれとは」

「反省しております」

「後は……帝国法で禁止されている奴隷売買についての証言をもらおうか」


 ダイマスが黒い笑みを浮かべたとき、俺のスボンのポケットが鈍い光を発した。

 全員の視線が俺に集まるが、そんなものは気にならない。

 通信石が光ったということは……。


「ティッセです。ハリーさん、レイラに関する情報が集まったんですか?」

『ああ、だが……』

『それについては僕から話すよ』


 落ち着いているが、威厳のある声が通信石の向こうから聞こえてきた。

 おいおい、大物の登場じゃないか。


「でしたら、この場にいる全員に聞かせてもよろしいですか、オリバー皇太子殿下」

「……っ!?」


 通信石の向こうにいるのは、リーデン帝国の皇太子であるオリバー=リーデンだ。

 今年で十九歳になるオリバー殿下は父とは反対の政策を打ち出している。

 民重視の政策は中央の貴族からは疎まれているものの、地方からの人気は高い。


 ――そして、ダイマスの実の兄でもあった。


『構わないよ』

「寛大なお心、感謝いたします」

 

 通信石に強い魔力を込めて、全員にオリバー殿下の言葉が聞こえるようにした。

 ダイマスの顔が強張る。


『それじゃ。まずは魔法大学の件だけど、魔力器官を五回も増強した人はいない』

「いなかった?」

『ああ。公式の記録ではそうなっている。過去の卒業者にもいないそうだ』


 それは妙だな。

 ダイマスの分析が間違っていたとは思えないし、意図的に隠しているのか?

 何のために?


『それから、父上――皇帝と謎の女が中庭で密会しているのが目撃されている』

「まさか!」

『そのまさかだ。相手は黒い外套を着ていて、茶会をしていたそうだ』

「俺が操られた時と一緒だな」


 ハンルさんが唸る。

 これでハンルさん、皇帝、シーマの三人はお茶を飲んで操られたと分かった。

 だけど、べネック団長は?


『ハンルがいるのか。ちょうどいい。お前はあの女と何回会ったか覚えているか?』

「いえ、はっきりとは」

『君たちはこれからレイラと戦うんだろうが……気をつけた方がいいかもしれない』


 オリバー殿下の声が険しくなる。

 そして俺もオリバー殿下が言いたいことが分かってしまった。


『彼女の能力は恐らく……【精神操作】じゃない』

「話を聞く限りでは同感……」

「【精神操作】では操られている間の記憶を奪うのは不可能ですしね」


 オリバー殿下に、リゼさんと父上という魔法の専門家が賛成の意を示した。

 それにしても、今までの前提が全てひっくり返ってしまったな。


「では兄上の意見を教えてくださいよ」

『ダイマス……?』

「いっつもそうだっ! 自分の推測を話すだけで、本当のことは教えてくれない!」


 ダイマスが憤怒の表情で通信石に向かって叫ぶ。

 基本的に冷静沈着な姿勢を崩さないダイマスが、感情を露わにするのは珍しい。


「それで僕たちがどれだけ苦労したか……あなたは分かっているんですか!?」

『…………』

「最後には涼しい顔をして、成果を横取りして! すべて分かっていたくせに!」

『分かった。そこまで言うなら全て話そう』


 オリバー殿下は憎たらしいほどに動揺を見せなかった。

 一方のダイマスは歯噛みするしかない。


『犯人であるレイラのターゲットは恐らくティッセ=レッバロンだ』

「……どういうことですか?」

『冒険者を辞めさせようとしていたんだよ。だから最初にハンルを操ったんだろう』


 ハンルを操れば、パーティーメンバーと後ろ盾を同時に失うことになる。

 ある意味では当然の選択といえた。


『しかしティッセは冒険者を辞めない。そこでレイラは偽の罪をでっちあげた』

「それが不正ってわけですね」

『正解。しかし、こうすると一つだけ問題がある。不正は罪に問われてしまう』


 レイラは決して俺を牢屋に入れたいわけではない。

 そんなレイラからすれば、罪に問われてしまうことほど不都合なことはない。


『だから皇帝を操った。罪を隠蔽してもらうつもりだったんだろうね』

「なるほど」

『皇帝の名で罪を告発することで、クビにしやすくするという目的もあったかも』


 なんて狡猾な。

 無差別に操っているわけではなく、ちゃんとした目的をもって操っているのか。


『最後にティッセを慕っていたシーマくんを操れば、無事に孤立するというわけだ』

「ええ、無事に孤立しましたよ」

『しかし、予想外のことが起きた。それはべネック氏による騎士団勧誘だ』

「あれがなければ、俺は故郷に帰っていましたもん」

『皇帝がまだ操られていたし、レイラの目的はそれだということは明らかだ』


 俺を故郷に戻すことがレイラの本当の目的だというのか?

 たったそれだけのために、こんな大掛かりな作戦を実行したというのか?


『予想外の事態に焦ったレイラはとある人物と手を組んだ』

「……?」

『リリー=グリード伯爵夫人だよ。彼女も家出した娘を取り戻したがっていた』


 オリバー殿下によると、現宰相のフーナもリリーの幼馴染みらしい。

 手を組んだ二人はついに政権の中枢に足を踏み入れる。


『皇帝を操っていた二人はヒナタとハリーを辞めさせ、彼女らの後任の地位を得た』

「ついに二人がある程度の権力を持ったわけですね」

『そういうことだね。こうやって今回のヘルシミ王国侵略が計画されたのさ』


 皇帝が二人の意見に異を唱えるわけがない。

 さらに宰相まで味方とくれば、操られていない人たちも反対しないだろう。


『僕が分かっているのはこのくらいかな? ダイマスも満足したかい?』

「……ずるいよ」

『んっ?』

「いつも落ち着いていて……酷いことを言った僕に対して怒りもしないで……」


 どこかいじけたようなダイマス。

 対するオリバー殿下は急に優しい口調になった。


「ダイマス、お前にしかできないことがあるだろ。例えば布石を打ったりね」

「……!」

「だからお前は自分なりの武器で戦って、みんなの役に立てばいいんだよ」

「うん……」


 ダイマスが頷いたとき、オリバー殿下がふと思い出したように口を開く。


『そういえば、もう一つ。魔法大学に聞いてみたら、夏休み中は一日も……』

『助けてください!!!!』


 オリバー殿下の声をかき消して、イリナの悲痛な声が謁見の間に響き渡った。

 全員の顔に緊張が走る。


「どうしたんだ!? 割り込み機能を使うなんて!」

『オロバス枢機卿とレイラがこっちに来たの! 私たちだけじゃ勝てないのよ!』

「分かった。すぐに向かう」


 俺はそう言うと、謁見の間を飛び出した。

 後ろから風魔法に乗った父上が追ってきて、なおも走ろうとする俺を捕まえた。


「みんなには皇帝とハンルを頼んだ。風魔法で送るぞ。お前も分かっているだろう」

「もちろんさ。この手で決着をつけにいく」


 それが俺の義務だから。

少しでも面白いと思ってくださったら。

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