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成り上がれ、最強の魔剣士〜失墜した冒険者は騎士としてリスタートします〜  作者: 銀雪
第六章 辛いことも、理不尽なことも乗り越えて その二 ハンル・皇帝編
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『第百十二話 状況把握』

 四人の人物が一斉にこちらを見る。

 俺たちから見て左側のソファーの手前に座っていた男性が、驚いたように言った。


「君たち……どうしてここに!?」

「デールさんこそ、どうしてこんなところにいるんですか!?」


 べネック団長とともに俺たちをヘルシミ王国に導いてくれたデールさんだ。

 王城で模擬戦をする前に別れたままだったけど……。


「僕が所属している組織は王族を裏から守るのが仕事だ。彼らを表の護衛にしてな」

「所属している組織って……。あなたが団長でしょうが」


 呆れたような顔をしているのは、ヘルシミ王国近衛騎士団の団長であるルイザだ。

 以前、謁見の間での模擬戦でイリナの肩を壊しかけた張本人である。


「それで君たちはどうしてここに?」

「王都を守りに帰ってきたんですよ。もっとも、遅きに失したようですが」

「ちょうど依頼も終わったんでね」


 デールさん、ルイザとは反対側のソファーに座るホルック宰相に視線を向ける。

 ホルックは小さく頷いてから話し出す。


「依頼完了はアマ村からの通信で知っている。よくやってくれた」

「ありがとうございます。それでホルックさん、敵を切り崩せるかもしれませんよ」

「いきなりどうした」


 何の脈略もないし、唐突であることも理解しているが時間がないのだ。

 幼いころから見知った人物がこちらに向かってくるのを【気配察知】で感じる。


「俺たちはここに来る途中にラルフというギルマスを父に持つ少年に出会いました」

「ハンルとかいう奴の息子ってことか?」

「はい。その少年の証言によるとハンルはどうやら操られているようなのです」

「話が見えてこないな」


 ホルック宰相が怪訝な表情で首を傾げる。

 敵を切り崩せるかもしれないという言葉と、ハンルの豹変が繋がらないのだろう。


「どうして僕たちが牢獄に入っていたのか、ということです」

「まさか……確かめたのか!?」


 そのまさかである。

 俺たちは二人で謁見の間に入り、聖水が入った瓶を空中で爆発させて散布した。

 するとハンルさんだけでなく、皇帝からも紫色の煙が現れた。


 二人とも【精神操作】の使い手であるレイラと会ったことがある。

 ゆえにレイラに操られたことは間違いないだろう。


「ほぅ……あの皇帝やギルドマスターが一介の騎士団長ごときに操られていると?」

「間違いないと思います。ここに来るまでの過程で、同質の魔力を確認しています」


 聖都イルマではべネック団長やアリア、この王都ではシーマに皇帝にハンル。

 紫の煙は俺たちの前に幾度となく立ちふさがってきた。

 レイラに対しての怒りを募らせていると、静かだがよく通る声が思考を中断した。


「ちょっといい? それって能力によるもの?」

「ええ、【精神操作】という能力によるものではないかと。紫の煙が出ましたから」

「それなら間違いない。紫の煙は【精神操作】でないと生まれないもの」


 ホラック宰相の隣に座っていた宮廷魔術師のリゼさんが大きく頷く。

 もともと部屋にいた四人はデールさん、ルイザ、ホラック宰相、リゼさんである。

 そこに俺たち二人とミックザムを加えた七人が現在、この部屋に集まっていた。


「問題はそいつが誰なのかということなんですが……」

「犯人が分かっていないのか?」

「一応、レイラ=モーズという名は分かっていますが、偽名でしょう」


 周囲には何と言っているのか分からないが、彼女は魔法大学の出身だ。

 さらに魔力器官を五回も増強し、【精神操作】という珍しい能力まで持っている。

 それなのに誰もその名を知らない。


 最近は優秀な人材が少なくなっているから、魔法大学卒業というだけで有名になるのに、明らかに首席卒業だったであろう彼女の名前をどうして誰も知らないのか。


「……誰だ!?」

「捕らえた罪人が脱獄したという情報があったから来れば……まさか会議中とはな」

「――っ!」


 ミックザムの鋭い声につられて後ろを振り向くと、そこに一人の男が立っていた。

 さっき確認したときは反対方向に進んでいたのに!


 燃えるような赤髪をオールバックにまとめ、黒いローブを着た宮廷魔術師の男。

 俺の父親であるレイム=レッドスが、ガラス細工のような目で部屋を見ていた。


「油断したな、ティッセ。【気配察知】は闇魔法で簡単に逃れることができるんだ」

「…………」

「お前がこれから対峙する敵は俺よりも才能に溢れた魔術師だろう。覚えておけ」


 レイムは抑揚のない口調で言うと、続いてミックザムに視線を向けた。

 ミックザムは未だに事態が呑み込めていないのか、呆然としている。


「今の話は本当なのか」

「えっと……今の話というのは何でしょうか」

「我が国の皇帝陛下と冒険者ギルドのマスターが何者かに操られているという話だ」

「本当です」


 はっきりと断言したミックザムに、レイムは苦々しい表情を浮かべた。

 レイムは操られていないようだが……先ほどの言葉といい、何かが引っかかる。

 こいつもレイラの正体を感づいているのか?


「第一王子。信じてもらえるかは分からないが、私は今回の戦争には反対だった」

「………」

「だから、私と同じように戦争反対派の貴族を集めていたんだが……遅かった」


 レイムが唇を噛む。

 俺が幼かった頃はいつも冷静沈着というイメージだったから、違和感がある。

 この十年で彼もまた、変わったのだろうか。


 レッドス家ではいつも敗北する側だった俺が、レッバロン家で勝利する側に回ることが出来たように。


「要するに反対派の貴族も操られていたんですね。つまり犯人は戦争賛成派だ」

「お恥ずかしながら」

「それがなぜ僕たちと共闘することに繋がる。あなたは我が国にとっての敵だぞ」

「承知しております。しかし上が操られていると分かった以上、放置はできません」


 それはそうだろう。

 いつから操られていたのかは知らないが、皇帝たちは正常な判断力を失っている。

 このまま国に帰すわけにもいかない。

 リーデン帝国は今の俺たちにとっても敵だが、家族が住んでいる場所でもある。


「私たちだけでは火力が足りません。特に皇帝陛下を相手するのは不可能です」

「あの二人はいつも一緒にいるんだもんな」


 ダイマスが苛立たしげに吐き捨てる。

 被害を少なくするためには、皇帝とハンルを分断して個別に撃破すればいい。

 しかし二人は離れないのだ。

 

 明らかに主従関係を逸脱し、新婚の夫婦のようにいつも一緒に行動している。

 特に、ハンルに冷遇されるようになったころからその傾向が顕著だった。

 これが事態の解決を遅らせているのは間違いない。


「だから今は少しでも戦力が欲しい。無論、解呪に成功したら撤退すると約束する」

「あなたに出来るの?」

「皇帝陛下は感情的な人物ですし、自分を操った相手への復讐を優先するかと」


 我がまま皇帝であることが功を奏した形だな。

 帝国に自分を操った相手がいると吹聴してあげれば、簡単に撤退してくれそうだ。

 皇帝の実の息子であるダイマスもそう思ったのか、苦笑を浮かべている。


「……いいだろう。ただし、こちらの戦力はここにいる七人だけだ」

「分かった。こちらの都合で振り回してしまって、本当に申し訳ないと思っている」


 レイムが深々と頭を下げた。

 そうと決まれば、俺たちが知る限りの情報をみんなに教えてあげなくちゃ。


「皆さん、ちょっといいですか? 一応、俺たちが戦ったときのことを伝えます」


 あの激戦の記憶を、もう一度呼び覚ます。

 彼らの裏にいるレイラを倒すためにも、俺たちは負けるわけにはいかない。


少しでも面白いと思ってくださったら。

また、連載頑張れ!と思ってくださったら、ぜひ感想や評価をお願いします!

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