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成り上がれ、最強の魔剣士〜失墜した冒険者は騎士としてリスタートします〜  作者: 銀雪
第六章 辛いことも、理不尽なことも乗り越えて その一 シーマ編
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『第百十話 戦いの前夜』

これで1月の更新、および第六章その一は終了です。

2月は偶数日(2日、4日……)の更新となります!

 ふと思い出したのだが、ここはイルマス教の教会である。

 これだけ派手に戦っていたのに誰も見に来ていないが、一応は敵の拠点だ。

 いつまでも留まっているわけにはいかない。


「シーマ、冒険者ギルドに案内して。俺の推測通りなら準備を整える必要がある」

「ティッセ師匠の頼みとあらば」

「俺も手伝うが、情報操作も頼むぞ。他の奴らに匿ったことを突かれると面倒だ」


 オーランが辺りを見回す。

 王都では、準備なしで王城に突撃させようとする輩が俺たちを探しているからな。

 見つからないように十分注意する必要がある。


「そうだな。いざというときは俺が盾になる。なーに、俺の評判など元々底辺だ」

「マッデンは味方にすると頼もしいタイプだな。敵に回すとうざったいが」


 オーランがニヤリと笑った。

 マッデンは他人の獲物を横取りしたりするせいで冒険者に嫌われている。

 ところが実際には情に厚い男で、一度仲良く会った相手には協力を惜しまない。

 だからこそ、シーマたちも付き合っているのだろうが。


「うるせえよ。他人の評価なんぞ知るか。俺は自分がしたいことをしているだけだ」

「だからって獲物を横取りするのはどうかと思うけどな」

「それは……」


 俺の言葉にマッデンが押し黙った。

 かくいう俺も、一度だけ彼に獲物を横取りされたことがあるのだ。

 それを見た周囲の冒険者が驚いたような顔で、俺とマッデンを交互に見つめる。


「どうした?」

「いや、ギルマスでも卸せないマッデンを抑えることができる人がいると聞いて」

「それは間違いなくティッセ師匠のことですね」


 いやいや、シーマよ。俺はリーデン帝国を脱出するときにマッデンと戦っているし、まったく抑えられてないぞ。

 

 そんな感じで談笑しながら三分ほど歩く。

 すっかり気が緩みかけていたところで、先頭のオーランが路地裏に入っていく。

 視線だけで前方を確認すると、第二騎士団所属の男が歩いていた。

 

 初めて寮に足を踏み入れたとき、俺たちに色々なことを教えてくれた人である。

 話しかけたい衝動に駆られるが、レイラに操られている第二騎士団は敵側だ。


「また今度会いましょう」


 小声で呟くと、俺も路地裏へと足を踏み入れた。

 路地裏は一人がギリギリ歩けるかといった狭さで、日が当たらないせいか薄暗い。

 吹き抜けていく風も、どこか湿っているように思える。


「あと五分くらいで冒険者ギルドに到着する。女子にはきついだろうが耐えてくれ」

「私たちは大丈夫です!」


 イリナの大きな声が路地裏に響く。

 オーランは「それなら大丈夫だな」と答えながらも、やけに周囲を気にしていた。

【気配察知】で周囲を探ってみると、明らかにこちら側に向かっている気配が一つ。


「マズい、見つかったかもしれない」

「気配は一つ。強さはBランク相当だな。悪いが武装しているかまでは分からない」

「剣を持っているみたいです。種類は普通の剣ですね」


 俺の後ろを歩いていたダイマスが、【支配者の分析】で得られた情報を伝える。

 オーランは無言で剣を抜いた。


 こんなに狭いところで剣は振れないだろうが、最悪の場合は脅す必要がある。

 穏健派のオーランとしては苦渋の決断だっただろう。

 やがて気配の主がその姿を現す。


「お久しぶりですね。オーランさん。僕を覚えていますか?」

「……今度は何を企んでいるんだ」


 気配の主は、俺たち第三騎士団のメンバーとそう変わらないくらいの少年だ。

 背は俺より低いものの、どこか威圧感のある見た目には既視感があった


 短く切り揃えられた金髪は先端が緩やかにカーブしていて、鋭い瞳は緑金色に輝いている。


「嫌ですねぇ、今回はサポート役に徹しようと思っているだけですって」

「誰をサポートするんだ。いい加減、言葉を省略する癖を直せ」

「ティッセっていう元Sランク冒険者がいますよね? 僕から依頼を出します!」

「は? お前は何を言っているんだ!?」


 俺たちは路地裏を縦一列で進んできたので、俺の姿はオーランに隠れていた。

 少年は先ほどまでの軽い口調から一転、真剣な口調で言葉を紡ぐ。


「父、ハンル=ブルーダルの調査を依頼したいんです。二ヶ月前から父は変わった」

「おい、いい加減にしろ」

「このままではギルドが潰れる。豹変した父は冒険者を駒としか思っていない!」


 その叫びは、少年――ラルフ=ブルーダルの魂の叫びのようだった。

 まあ、真の目的は自分が継ぐ前にギルドが潰れないようにするためだろう。

 たとえそうだとしても、俺に断る理由はない。 


 それに、もともと解決するつもりだったのだ。

 もともと、ハンルが操られているだろうということは薄々感づいていた。


「いいだろう。しかし条件がある」

「ティッセさん!?」

「はい、僕に出来ることなら何でも。父は最近、母さんに暴力を振るっていて……」


 ハンルは自分の子供の年齢を俺より一歳下だと言っていたな。

 つまるところ、ラルフは十四歳という若さで家庭崩壊の危機に直面していたのか。


「人身売買の証拠をくれ。信じられないだろうが、君の父は人身売買をしていた!」

「そうなんですか……分かりました。絶対に見つけ出します」

 

 ラルフが重々しい口調で宣言した。

 これで後には引けなくなったな。


 その後、ラルフの手助けもあってギルドに到着した俺たちは準備を整えた。

 準備が長引いて夜になってしまったので、ギルドに一泊することに決定。

 ギルドに併設された酒場で夕食をとることになる。


「ティッセ、ダイマス。お前たちは王城に向かうんだろう。くれぐれも気をつけろ」

「分かっています。それにラルフとの約束もありますし」

「ティッセの顔を見たときのラルフくんの顔……絶対に憧れの存在になってるよ」


 ダイマスが微笑を浮かべる。

 憧れの存在になるのは構わないが、強くなりたいからと無理はしないでほしいな。

 それで死んだら元も子もない。


 少しでも憧れの高ランク冒険者に近づこうとして、死んだ奴を何人も見てきた。

 ラルフはそこまで馬鹿ではないと信じているが、冒険者は何があるか分からない。

 せめてギルドマスターになれるくらいまでは生き残ってほしいものである。


「べネック団長たちはどうするんです?」

「現在、ヒナタを教会の制圧に回している。彼女の強さは一人でこそ発揮できる」


 あの人は剣士タイプに見えて、優秀な光魔法の使い手だもんね。

 棒くらいの太さの光を当てただけで岩が砕けたときは、何が起きたのかと思った。


「彼女が戻り次第、レイラ以外の騎士団長たちの制圧に動く」

「レイラは、エリーナさんはどうなったんでしょう」


 アリアが窓の外に視線を向けたまま呟く。

 それは全員が結論を出すのを避けていた問題だった。


「必ず、来るさ」

「……そうですね」


 あれだけエリーナを恨んでいたべネック団長も、完全な結論を口には出せない。

 アリアも気まずそうに席を立つ。


「ティッセさん、ダイマスさん、頑張ってくださいね」

「ああ、必ず決着をつける。……さて、俺は明日に備えてそろそろ寝るかな」

「僕も寝よう」


 俺とダイマスはみんなに挨拶をしてから酒場を出て、数部屋ある仮眠室に向かう。

 無言のまま別れて、それぞれ自分の部屋へと入っていく。

 歯磨きをしてベッドに転がると、今までの疲れからかすぐに寝入ってしまった。

 

 翌朝、俺たちは王城に向けて出発する。


少しでも面白いと思ってくださったら。

また、連載頑張れ!と思ってくださったら、ぜひ感想や評価をお願いします!

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