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成り上がれ、最強の魔剣士〜失墜した冒険者は騎士としてリスタートします〜  作者: 銀雪
第五章 エリーナ=パー二という女
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『第百一話 聖都イルマ脱出作戦(Ⅲ)』

 テイルが静止の合図を出したということは罠があるということだ。

 俺は念のため【気配察知】を使って辺りを探るが、人と思われる気配はない。


「あそこに罠がありますぜ」


 カルロスが指で示したところを凝視するが、何の変哲もない道にしか見えない。

 それは他の人も同じだったようで、みんなが一様に首を傾げている。


 いや、一人だけ。

【支配者の分析】を発動させたダイマスだけが、納得したように何度も頷いていた。


「ダイマス、何か違うのか?」

「明らかに魔力の流れが他と違う。罠かどうかは分からないけど確実に何かあるね」

「これは……拘束紋?」


 テイルが怪訝な顔をした。

 拘束紋はその名の通りに手を拘束するときに使うが、その威力は罠の中でも低い。

 俺たち相手だとせいぜいが足止め程度だろう。

 

 この道を使うと予測したレイラの読みは当たっているが、なぜ拘束紋なのか。

 もっと威力が高い罠などいくらでもあるはずなのに。


「誰だ!?」


 妙な気配を感じて振り返ると、道の真ん中に黒い外套を着た女が立っていた。

 ローザンよりも強いと分かる圧倒的な魔力量や、橙色の髪は隠しきれていない。

 リーデン帝国第四騎士団長、レイラ=モーズが悠然と佇んでいる。


「カルロスとテイル。やっぱりあなたたちが裏切ったのね」


 低い声が闇夜に響き渡った。

 その声からは感情は感じられず、冷たい口調だが怒りを抱いている様子もない。

 カルロスが震えながらも何とか言葉を絞り出す。


「レイラ団長、どうしてここに」

「あら、裏切り者が出ることを予測してないとでも思っていたの?」


 暗殺者の手口を知り尽くしているカルロスのような裏切り者が、大通りを選ぶ確率は極めて低い。


 つまり細い道に罠を仕掛けておけばいいというわけだ。

 俺でも思いつく簡単な迎撃方法である。


「うーん……今すぐ殺してやりたいけど、私だけで勝てるかどうかは怪しいわねー」


 レイラはわざとらしく首を傾げた。

 顔は見えないが、瀕死の魔物を前にした冒険者のような顔をしているのだろう。


「いいわ。罠は全て外してあげる。だから魔法陣のところまで来なさい」

「何だと?」

「さすがにヘルシミの第一騎士団長と第三騎士団長を一人で相手するのは不可能よ」


 レイラは呆れたように言う。

 俺たちが束になってかかっても、エリーナとべネック団長のペアには勝てない。

 一人だけのレイラは推して知るべしである。


「だから魔法陣のところで決着をつけるのよ。選りすぐりを二人用意しておくわ」

「二人……?」

「騎士団長という肩書きがない連中はいらないわ。さっさと祖国に帰りなさい」

「完全になめてますね」


 額に青筋を浮かべたダイマスが剣を抜いて、レイラと正面から対峙する。

 場の緊張感が否応なしに高まった。


「あなたは魔法攻撃が主体のようだ。魔力の流れを読める僕に勝てますかね?」

「ふふっ、戦ってみます?」


 不敵な笑みを浮かべたレイラが剣を構えた。

 これだけ魔力が高ければ主な攻撃方法は魔法で、近接戦は不得手だと考えたのか。

 しかし、相手は既に勇者を倒していることを忘れてはいけない。


 さらに言っておくとダイマスは体力面で不安が残るし、勝負の行方はほぼ決まっているも同然だな。


「氷の精霊よ、僕の求めに応じて氷を突き刺せ。【大雪山】」

「火の精霊よ、私の求めに応じて氷を溶かせ。【炎海】」


 氷魔法で地面を凍らせようと目論んだダイマスだが、レイラは飛び跳ねることで回避する。空中で詠唱された火魔法によって氷は溶かされてしまった。


「舞い踊れ、【演舞ノ一・火炎】」


 続いて剣に魔力を注入して、落下の勢いも併用しながら技の威力を上げていく。

 華麗な連続攻撃を決められたダイマスは防御に徹するしかない。


「氷の精霊よ、僕の求めに応じて氷の壁を作れ。【アイス・ウォール】」

「闇の精霊よ、私の求めに応じて術者を拘束せよ。【スネーク・バインド】」


 慌てて氷の壁を張ったダイマスに対し、レイラは驚くべき行動に出た。

 なんと技を発動させている剣を上に放ったのである。


 技が一旦解除された隙を突いて【スネーク・バインド】を発動させ、落ちてきた剣をキャッチ。ダイマスが固まったことを確認して剣を振りかぶり……。


「【煉獄烈火・無】・再展開」

「――っ!?」


 俺を狙ってきたが、前もって発動させていた魔剣で技を強引に解除して、力を込めることで一気に押し返す。

 

 一つ一つの技がどれだけ強くともレイラは女性だ。筋力強化をしていない状態の女性に純粋な力勝負で負けるほど、俺は非力ではない。


「ぐっ……」

 

 壁に勢いよく激突したレイラが立ち上がったところで、俺は魔剣の切っ先を突きつける。さっさと王都に帰らせてもらおう。


「レイラ=モーズ騎士団長。これ以上戦うというのなら俺たち総出で相手になるぞ」

「赤髪の騎士がっ……」


 これだけ激しく動いたというのに、レイラの外套はなおも彼女の顔を見ることを許さない。どうやら魔道具みたいだな。元々踊り子だった人が持つには分不相応な品だが、皇帝が買い与えたのだろうか。


「お……赤髪の騎士さんは随分と強いのね。ますます気に入ったわ」

「そりゃどうも」

「気に入っている人に殺されたくないし、今回は引くわ。また魔法陣の前でね?」


 最後に可愛らしく首を傾げたレイラの姿が消える。

 いっそ暴力的ともいえる圧倒的な魔力の気配もなくなり、ダイマスが崩れ落ちた。

 緊張の糸が切れたのだろう。


「ダイマス! 貴様はなんて危ないことをするんだ!」

「間違いない。奴はリーデン帝国の魔法大学に通う現役学生、あるいは卒業生だ」

「はっ?」


 べネック団長が間抜けな声を上げた。


 ダイマスは勇者を倒したというレイラの正体を何とかして暴こうと、【支配者の分析】で調べたらしい。


「その結果、彼女から魔法大学の授業の跡が見受けられた」

「帝国の魔法大学は特別な方法を使って、魔力量を大きく底上げするらしいのよ」


 氷魔法で道を塞いでいたアリアが近づいてきた。

 横にはヒナタもいる。


「体の中にある魔力を作り出す器官を増強するとか何とかだったかしら」

「合ってるよ。奴の魔力器官は無茶だと断言できるほどの増強操作が施されていた」

「きっと苦しかったでしょうね」


 イリナが同情するように、レイラが消えた先を眺める。

 魔力器官の増強は一回が基本で、二回以上の増強は激しい頭痛と倦怠感を伴う。

 当然、回数が上がるほど頭痛と倦怠感も強くなっていく。


 かくいうアリアが二回の増強を行ったらしいが、尋常ではない痛みと倦怠感が襲ってきて、三日間は動けなかったという。


 一方のレイラはどうなのか。

 ダイマスによると、彼女は五回も魔力器官を増強しているようだ。

 対峙した人に恐怖を与えるほどの魔力は、死と隣り合わせの増強で得たのだろう。


「レイラ=モーズか……」


 どうして死を恐れずに五回も魔力器官を増強したのだろう。

 彼女の目的は何だろう。


 ヘルシミ王国の王都が占領されるまで、あと十三時間。

 レイラがティッセたちに与えた疑問は少なくはなかったようだ。

少しでも面白いと思ってくださったら。

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