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成り上がれ、最強の魔剣士〜失墜した冒険者は騎士としてリスタートします〜  作者: 銀雪
第五章 エリーナ=パー二という女
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『第九十六話 蛇を倒せ!』

 アリアの体から紫色の煙が出てきて、しばらく経ってから蛇の形に変化する。

 べネック団長の時と同じだ。


「今度は誰も噛まれないように気をつけるのよ! 特に誰かに強い恨みを抱いている人!」

「………」


 ヒナタの言葉に、無表情のダイマスが少し後ろに下がった。

 やがて完全に蛇の形になった紫色の煙はイリナに向かって猛スピードで突進していく。


「イリナ、下がれ!」

「氷の精霊よ、我の求めに応じて氷の壁を作り出せ。【アイス・ウォール】」


 慌てたように叫ぶハリーの横を、アリアが放った氷魔法が飛んでいった。

 先ほどの失敗からか完全には閉じ込めなかったが、壁が迷路状に張り巡らされている。

 ここをかいくぐってイリナに噛みつくのは難しいだろう。


「何をそこでボーっとしているのよ! イリナお姉ちゃんは狙われてんだから二階に!」

「アリアの言う通りだ。棒立ちになっていても意味がない」


 俺は剣を構えつつ、イリナを二階に避難させるべく行動を開始する。

 唯一の心配事はべネック団長に呪いをかけた人物だが、一連の騒動で客は避難している。

 残っている可能性は低いだろう。


「それにしても、どうして聖騎士が来ないのかしら」

「確かにそうだな。客が全員避難するほどだ。おまけに得体の知れない騎士が暗躍してる」


 条件だけ見れば来ない方が異常だ。

 そんな俺たちの疑問に答えたのは紫色の蛇を注視していたエリーナだった。


「さっき新教皇が誕生したと発表されたみたいで……全隊員が本部に集まっているのよ」

「全隊員が本部に!?」

「ええ。さっき私が殺した隊員の通信石から聞こえてきた情報だから間違いないわね」


 そう言ってエリーナが二つの通信石を掲げる。

 呪いのせいで有耶無耶になっているが、本当はあいつらを殺した理由を知りたいのだが。

 今回ばかりは隊員を殺したのが良い方向に働いた。


「つまり増員は期待できないと」

「その代わりとして敵がいる確率も低くなっているけれど。紛れる人がいないのだから」


 エリーナはそう言うと、氷の壁を軽く突く。

 アリアが魔力を供給している限りは崩れないはずの氷の壁は、なぜか溶け始めていた。


「溶けてるわよ」

「分かっています。でも魔力が足りないっ……」


 苦悶の表情を浮かべるアリア。

 紫の蛇に操られていたときのアリアは何度も何度も氷の剣を作っていたからな。


「他に壁を作れる者は……」

「氷の精霊よ、僕の求めに応じて氷の壁を補強せよ。【アイス・ウォール】」


 べネック団長が最後まで言い切る前に、未だ無表情のダイマスが青色の髪を揺らした。

 氷の壁は的確に補強されている。


「ダイマス……感謝するわ」

「それよりも、紫の蛇を殺すには光魔法が必要なのでは? 誰か持っているんですか?」


 紫の蛇――呪いは闇魔法の一種である。

 そのため完全に効果を消滅させるには、強力な光魔法が必要なのだ。


「問題はないわ。私の能力で全て解決する」

「だったら早く解呪してくださいよ! このままじゃ僕まで魔力がなくなってしまいます!」

「だから観察しているんじゃない。呪いを構成する根幹を探しているのよ」


 よく見ると、エリーナの右目は赤く光っていた。

 呪いを構成する根幹を探すって……エリーナさんの能力は【能力解体】か。

 人の能力を分析して構造を理解した能力を、名前の通りに解体することができる能力だ。


「あの呪い……恐っろしく複雑なのよ」

「エリーナ様でも苦戦する複雑さ……もし本当なら我が国の宮廷魔術師を超えているやも」


 今までずっと黙っていた部下の男がポツリと呟いた。

 どうやら彼は厨房などの裏の部分を回り、逃げ遅れた人たちを逃がしていたらしい。

 あくまで俺が指示したのは表の部分だけだったもんな。


 いや、それよりも今は呪いだ。


 リーデン帝国の宮廷魔術師――あの人を超える魔法の使い手って……そいつは人間か?

 あの広い帝国で一番、魔力量が高かったから宮廷魔術師になったんだぞ?

 それを超える魔力の持ち主など、人間かどうかすら疑わしい。


「なっ!」


 ダイマスの声で思考が現実に戻る。

 どうやら蛇はこのままだと埒が明かないと感じたらしく、目の前で煙状態に変化していた。

 そして一直線に二階にいるイリナに迫っていく。


 しかし、そこは百戦錬磨のイリナである。

 風魔法で煙を吹き飛ばし、剣術で蛇を叩くことで徹底的に近づけないようにしていた。


「私が耐えている間に分析を!」

「分かっているわ。もう少しで解析が終わりそうだから、それまで頑張って」


 エリーナの額に一筋の汗が流れる。

 それにしても、べネック団長が呪われていると分かってから随分と積極的になったな。


 ――この女の目的はなんなのか。


 どれだけ考えても、それだけは答えが出ない。

 聖騎士を殺すように命じたのも、きっと俺が求めている答えに関係があるからなのだろう。


「よし、解析が終了したわ」


 そう言うとエリーナは圧倒的な殺気を振りまきながら、階段を一段づつ上がっていく。

 ちょうど蛇の状態になっていた呪いはエリーナにその首を掴まれた。


「【能力解体】」


 たった一言で、今まで俺たちを苦しめ続けた紫色の煙――呪いはその姿を消した。

 全員が大きなため息とともに地面に崩れ落ちる。


「ようやく終わった……」

「もう勘弁してくれ……」


 べネック団長が安堵の声を上げ、ハリーが弱々しく愚痴をこぼす。

 その横ではアリアが小瓶に入った液体を飲んでいた。

 あれは、ヘルシミ王国の冒険者ギルドで売っている魔力回復の効果があるポーションだな。


「……私にどれだけ魔力を使わせたのよ」

「氷の剣を百本以上は作っていたからね。かなり多くの魔力を使ったんじゃないかな」


 ダイマスは相変わらずの無表情。

 店を横断するように作られていた氷の迷路は姿を消し、後は戦いの跡が残るだけだった。


「とにかく店を片付けようぜ」

「これは何の騒ぎですか!? どうして店がこんなにめちゃくちゃに……」


 全員が事態の収束に動こうと立ち上がったとき。

 鎧で武装した男が三人ほど店内に入ってきて、素っ頓狂な声を上げた。


「マズッ……」

「あなたたちは冒険者ね? ランクカードを見せてごらんなさい」


 アリアの呟きをかき消すようにして、エリーナが二階から慌てたように降りてきた。

 彼女の姿を見た冒険者は素直にカードを提示する。


「オッケー、Aランクの冒険者グループね。“エリーナ”が始末するとマスターに伝えて頂戴」

「分かりました。ちなみにオロバス枢機卿は関わっていますか?」

「ちょっと待ちなさい」


 エリーナの声が途端に低くなり、三人の冒険者たちを力づくで建物の外に追い出した。

 彼女自身も建物外に出たところで、ダイマスがちらっと扉の方を見やる。


「オロバス枢機卿だと?」

「確かリーデン帝国と親しい一派だよね? 戦争中止に反対しているっていう」


 アリアも眉をひそめる。

 もしもエリーナがオロバス枢機卿とやらと関係を持っているとしたら……ちょっとマズいな。

 だってハリーが持ってきていたあの鍵は多分……。


 ヘルシミ王国の王都が占領されるまで、あと一日と四時間に迫ったころ。

 エリーナとの全面戦争が始まろうとしていた。

少しでも面白いと思ってくださったら。

また、連載頑張れ!と思ってくださったら、ぜひ感想や評価をお願いします!

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