三首め あしびきの山鳥の尾のしだり尾の
[あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の]
とある山の夜、キツネが一匹住処で横になっていた。
外を見てみれば、暗くてロクに目も見えないクセに未だ元気に夜空を飛ぶ数羽の山鳥の姿が見える。そんな光景を見ながら、キツネは大きな欠伸を一つ着いた。
「ふぁ……あぁ、眠れねぇなぁ」
一匹のキツネは呟くが、当然返事は返ってこない。
さて、欠伸こそ先程からよく出ているのだが、肝心の眠気が一向に現れない。
すっかり夜も更けて、寝るには充分な時間なのにコレではいずれ夜も明けてしまう。なんて事を俺はぼんやりと考えていた、暇だから。
同時に少し疑問を感じていた。
どうして自分はこんなにも寂しい思いをしているのだろう、と。何せ住処で一匹、寝付けずにゴロゴロしたりブツブツ益体のない事を呟いたり、考えたり、寂しいにも程がある。
どうして、どうしてだったか………。
「そうだ……アレからだったか……」
俺が思い出したのはつい数日前の事、それまでは多くの動物に囲まれて楽しく、そして平和に暮らしていたんだ。
勿論その中心に居るのは自分、皆、俺の事を尊敬の眼差しで見ていた。「キツネさんは賢いね!」、だとか「キツネさんはやっぱり凄いや!」、なんて来る日も来る日も神輿の上だった。そして俺は図に乗っていた。当時はそういう風には考えていなかった、考える事が出来なかったが、過ぎた今となってはよく分かる。あの時の自分はとても「ヤな奴」であった
そして或る日、事件は起きんだ。
何と人間が山に攻めてきた。沢山の銃を持ち、目に付いた動物を片っ端から撃ち殺していきやがった。
勿論、仲間の奴らは俺に助けを求めてきたさ。キツネさん、キツネさんの知恵で人間達を懲らしめてよ。ってな?
けど、その時俺はどうしたと思うよ?
────簡単だよな。逃げたんだ
奴らが助けを求めてきて、それに快諾して早速向かった……様に見せかけて俺は人間らが居る方とは真逆の、絶対に見つからない秘密の場所に逃げ込んだ。それから何回か日が昇ったり降りたりしたくらいで、俺はやっとこさ自分の住処に帰ってきた。何せそんくらいの時はもう銃声も聞こえてこなくなってたからな、人間が帰ったか、はたまた仲間が皆撃ち殺されたのか……そんな、どっちとも区別がつかない中噂で聞いたのは
仲間の動物たちは、どうにもならない現状を嘆くのではなく、逆に奮い上がって人間を追い返したらしい。素晴らしい話だ、それを聞いた俺は早速皆の元に出向いた。
「…………痛てぇなぁ」
鼻のキズは、その時つけられた物だ。
爪が肌と毛を引き裂く感触と共に投げ掛けられた言葉は、「この薄汚い裏切り者め! よくも僕達の前に出てこれたな!」。という物だ、一言一句違わず憶えている。忘れたくても毎度毎度夢に出てくるから忘れれないってもんだ。
どうやら、誰にも見つからないよう逃げたはずだったのに、山の動物……誰かは分からないが、逃げる俺を見かけたらしい。俺とした事が、とんだヘマをしたとトコトン悔いたさ。
でも、その後悔はまるっきり間違っていたんだ。何せ、自分の為に悔いていたんだから。ここに至っても、俺は自分の保身の為に動いていたんだ
そして、勿論最初の方は仲の修復の為に動いたさ。プライドなんかは一部捨てて、一向に振り向いてくれない皆の為に色々したんだ。
でも、全部は遅かった。彼女にも捨てられた
────んで今に至るって訳だ。どうよ、ココ最近で一番面白い笑い話なんだが、皮肉が効いててよくないか?ダメか? ……そうか、まぁ色々考え方はあるよな。聞いてくれてありがとよ
「さて……んじゃ、卑怯者は一匹寂しく寝るとするかね……」
また、虚空へ無意味に呟いて俺は横になる。目を瞑れば、かの日のお祭り騒ぎが蘇るようだ。酒を飲み、飯を食い、皆で笑い、夜通し話していたあの時間はもう二度と帰ってこない、去った彼女ももう他の男とくっ付いた所だろう。
そんな事を考えると、辛くて辛くて思わずまた目を開けてしまう。ちょうど視界に居たのはさっきまで飛んでいた山鳥だった
きっと、この夜はアイツの尾っぽみたく長い夜になるんだろうな。
全く、笑えない話だ
[ながながし夜を ひとりかも寝む]




