水仙
『水仙』
水辺に咲く黄色い水仙を見ると、僕は祖母の葬儀があった日の事を思い出す。
葬儀に参列した人達は、皆悲しそうな顔をしていたが、祖母は大往生と言っても良いくらいの年で亡くなったから、実のところそれほど悲しい事ではないのかも知れない。
葬儀が終わり一段落着いた時、しんみりとした空気を嫌った僕は、新鮮な外の空気を吸おうと思い、祖母の家の周りを散策し始める。
田園の畦道を目的も無く歩いていると、古びた井戸が視界の中に入ってきた。その井戸は幼少期によく遊んだ場所だ。
葬儀の後のせいか季節のせいかはわからないが、鮮やかなはずの景色は、何故か色を失った灰色に見えた。
古びた井戸を中心に、どこまでも続く灰色の世界を眺めていると、そこに刺す様な明るい黄色が僕の目を刺激した。水仙だ。
水仙の花言葉はエゴイズム。灰色の世界が余程お気に召さなかったのだろう。彼女は一人で自らを主張する。
祖母の笑った声が聞こえた気がした。そう言えば祖母の好きな花も水仙だった。