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D51を魔改造したのは、敦賀機関区だった。

今回は、D51のお話です。

 以前の投稿で指摘した、D51「肥薩スペシャル」という謎の蒸気機関車ですが、肥薩線に戦後D51が投入された際に、肥薩線の運用に適するように独自の改造がされました。


 それが、D51肥薩線仕様です。

 (D51投入以前は、動輪五軸の4110形が運用されていました)


 基本はD51山線仕様なのですが、外観上の違いからD51山線仕様の中でも際だった存在です。

 

 特徴として、

 ・集煙装置が巨大であること(鹿児島工場製?)

 ・右側(機関助士側)ランボード上に200リットル入りの補助重油タンクの追加。

 (メインタンクは主にボイラー上に設置)

 ・サンドパイプ上とピストンバルブコンロッドの(すす)よけの覆い

  などがあります。

 

 特に補助重油タンクとサンドパイプ覆いは肥薩線仕様だけに設置されていたことから、「肥薩スペシャル」などいう正体不明なD51が走っていたという伝説が生まれたのでしょう。


 ところで、D51の出力増大に最も貢献したのは重油併燃ですが、この装備をつけることになったきっかけは太平洋戦争後の深刻な石炭不足の影響だったのです。


 戦後、国鉄は営業経費のうち燃料費(石炭購入費)が占める割合が十二%前後から二十%に急上昇したため、石炭消費量の五%削減を目指してさまざまな計画を実施しました。


 しかし、戦後復興による輸送量の増大と石炭の品質悪化、炭鉱ストライキが頻発するなど悪条件が重なったため、節約計画の遂行が困難になり、重油を代替燃料と使用する案が浮上しました。


 国鉄は昭和27年に重油タンクの設置と火室内に重油の噴射装置を設置して北陸本線と土讃本線で試験を開始しました。

 

 試験の結果、石炭節約の効果が確認され、全国に改造指示が出ましたが、当初設置された重油併燃装置は、問題がいくつかありました。


 主なものとして

 ・噴射ノズルが伸縮式のため重油が隙間から漏れる。

 ・ノズルが詰まりやすい。

 ・ノズルの焼損が起きやすい。


  などなどです。

  主なトラブルは「本庁式」と呼ばれる重油噴射ノズルが原因だったようです。


 そこで、機関区単位で重油噴射ノズルの改良が行われました。


 さまざまな機関区が改造に取り組む中で、福井県にある敦賀機関区が特に熱心に改良に取り組んでいました。


 なぜ、敦賀機関区がそこまで熱心に重油併燃に意欲を燃やしたかというと、当時日本一過酷ともいわれる機関車の運用が行われていたからです。


 敦賀機関区は日本海縦貫線の一部である北陸本線の列車のけん引を担当していましたが、重量貨物、重量旅客列車の運用が多数あり、さらに南に柳ヶ瀬越え、北の山中越えに25‰の急勾配とトンネルが連なる難所に囲まれているため、勾配途中での空転による停止などのトラブルがよく起こりました。

 

 そして、それが原因で煙に巻かれた乗務員が殉職するという事故もたびたび起きていました。


 戦前は、新鋭機のD51 1号機を受け入れたものの2年後に転出させた後、勾配でD50にくらべて空転しやすいD51の受け入れをかたくなに拒み続けたほどです。

 

 そのような苦労をしている敦賀機関区が、乗務員の労務改善につながる重油併燃装置をものにしようとするのは当然の流れともいえるのです。

 (ほぼ同時期に敦賀機関区で集煙装置が開発された)


 そして「敦賀式無煙バーナー」は完成しました。


 昭和28年、奈良、長野、名古屋など各機関区でででも改良された重油噴射装置と比較審査の結果、敦賀式が最良と判定されました。


 敦賀式バーナーを使うことによって、本来の目的の石炭の節約だけでなく、蒸気機関車の出力はほぼ一割増しになり、重油が石炭の燃焼を促進するため、煤煙(ばいえん)減少という効果もおまけで付いてきました。

 

 そして、全国の急勾配区間や重量貨物列車や高速旅客列車の運用がある機関区に、重油併燃装置付きの機関車が配属され、ボイラー上にある重油タンクと集煙装置が付いた通称「山線仕様」の蒸気機関車が全国のあちらこちらで見られるようになりました。


 ちなみに、重油タンクは通常ボイラー上に650リットル入りのものを設置している機関車が多いのですが、東日本でロングランを行う機関車は、炭水車上に1500リットルまたは3000リットルの重油タンクをつけている機関車が多いようです。

 (残された写真から推測しました)


 こうして、九州の急勾配区間の肥薩線にも「山線仕様」のD51が投入されましたが、九州の他の地区では20‰以上の急勾配区間でも山線仕様は使われなかったため、誰かが勘違いして「肥薩スペシャル」なる謎機関車ができたようです。


 余談ですが、重油併燃装置は機関助士など乗務員から歓迎されたものの、鉄道ファンにとっては「原型が損なわれる」と不評だったそうです。


 いつの時代でも、「撮り鉄」ははた迷惑な存在ですね。

 


小説の考証とストーリーのバランスってむずかしいですね。


次回は、内燃機関の話にするか、それとも鋼の話にするか考え中です。

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