第1話 ぶちのめします
シリアスすぎるファンタジーにシリアスなロボを投入したら爆発した作品です。
「悪があれば悪を喰らい
正義があれば正義を喰らう
命の理ここにあり」
その言葉に合わせて合われる4メートルほどある“鉄鬼”。剣と魔法のファンタジーの異世界において、場違いなSFに登場しそうなロボットだ。
綺麗な紋様が何もないところから顕現し、それがゲートとしてロボが現れる。
私の前に立つのは、勇者御一行。正義を掲げる者たちである。同じ世界からやってきた勇者に加え、周囲に立つのは美女。ようはハーレムパーティだ。
それに対して、私は仲間と呼べるのは鉄鬼である。
「……今日こそお前を倒す」
勇者は剣を抜く。今日も正義を掲げて、大義名分を掲げて私を殺そうとやってくる。
それに対して、私は悪として戦うだけである。
私は、鉄鬼に乗り込むと、鉄鬼に宿る命“エコー”が話しかけてくる。
「おはようございます。今日も死を始めます」
この鉄鬼は呪われた存在といわれている。お互いに喰らい、殺し合うことを世に示すために作られた存在である。あまりの禍々しい存在は人に生きることの醜さと平和が何なのかを示したといわれている。
そして、異界に封印されていたのを私が見つけ、生き残るために漬かっている。
「敵は勇者御一行。準備はいい?」
「はい、大丈夫です」
エコーの声の返事を聞くと横へとスライド移動しながら、右手に持っているエネルギーライフルを撃つ。1マガジンに入った40発の弾が勇者に襲い掛かる。
しかし、その攻撃を勇者は剣ではじく。それ以外は、障壁や回避行動をして避ける。
40発の弾を撃ち尽くすと、マガジンを外して左腰にある充電装置に接続して弾の補給。弾が補給される間、別のマガジンを手にとり、エネルギーライフルに弾を装填する。
「装填完了、魔導士に攻撃をしかけるのがおススメです」
「諒解」
エコーの提案に否定する理由はない。魔導士の使う魔法の火力は危険だ。だから、攻撃させないために、障壁を展開させつづけさせ、魔力を奪う必要がある。
それに対して、勇者は仲間である美少女の戦士と共に横からの挟撃という手にでる。
「……左右から挟撃がきます。回避してください」
エコーの提案に従う。回避行動に入り、ターン。左手にある戦士に対して、左手に装着したパイルバンカーで戦士の持つ巨大な両手剣を破壊。
「なっ」
言葉を出す暇もなく、串刺し。あまりの衝撃に鎧も砕き。お腹に風穴を開け吹き飛ぶ。
「エルメラぁああああああああ」
勇者が叫ぶが、私は容赦なく。攻撃の手を緩めない。クイックブーストを起動して、瞬間的に立ち位置をずらして、勇者の攻撃も回避行動。
勇者は自身のパワーに頼った戦いなので避けやすい。それに対して、技術面に加え、経験豊富な戦士を潰せたのは大きかった。これで、前衛の要を潰せた。
「魔導士にミサイル」
私が叫ぶと、エコーは左肩に付いたミサイルを展開。すぐに魔導士をロックして、発射をする。
6発のエネルギーミサイルが発射される。
「そのまま、接敵して一気にいって喰らう」
私はブーストダッシュを使って、魔導士へ近づく。
「させるかよぉおおお」
勇者が強力な魔法も威力が高いだけのもの。範囲も広いが、その程度である。タイミングを合わせてエネルギーシールドを展開して防御すればいいだけである。
生と死を何度も繰り返した私には、簡単なことだ。できなければ死であり、できれば生である。
魔導士の元に近寄ると、まだ息をしていた。服はぼろぼろで 白い肌が見え隠れ、かすり傷がみえる。また、体形から女性だというのがわかった。でも、そんなことどうでもよかった。戦いの場に性別も人種も年齢も関係ない。
「エコー、喰らえ」
「諒解」
何もない空間から魔法陣が展開。紫色の獣が現れて、うら若き魔導士の四肢を喰らい、ばりばりむしゃむしゃとう音が鳴り響く。
ただ、生きるため戦うだけである。
「そ、そんな……」
勇者が絶望した表情で私を見ていた。棒立ちだったので、私は右手もっているエネルギーライフルを両手で構え狙う。
「させません」
「背面に敵。張り付かれました」
その言葉に背筋が凍り付く。
「よせぇええええ」
勇者が叫ぶ。
それと同時に、大きな爆発。大きな衝撃を受ける。
「致命的な損傷。動けません」
私は這いながら、鉄鬼から降りる。
「はぁはぁ」
周囲を見回すと肉片になったものが見える。自爆技でも使ったのだろうか、白い手や首や足が飛び散っている。
「……」
綺麗な手だった。たぶん、戦いをしなければ、美しき存在として扱われたのだろう。ただ、そんなことどうでもいい。
勇者とか英雄とか、嫌いだ。あいつらがいるから、この世界での問題が解決しない。正義を掲げることで、人はそれに憧れ、追従して戦う。
本当に大変だった。無関係な人を巻き込みたくなかったから、誰も殺さずに、逃げて今の現状を作ったのだ。誰でもいいから誉めてほしい。
「……絶対に負けない」
それに対して、勇者は立ち上がる。まだやる気なのか、手に持つ聖剣が光り輝く。それに対して、私は腰に吊るした銃を構える。
私が装着しているゴーグルには、礼節モードと表示。UIには残弾と自分の命の残量が表示されていた。
「……」
私は礼節モードを解除して、最大出力で勇者を迎え討つ。おそらく、無意味だろう。それでも、私は撃つ。
どん
銃声と共に向かう漆黒の弾丸。それはまっすぐに進み勇者に当たる。
「きくかよぉおおおおお」
私ができる最大の攻撃は、簡単に弾かれてしまった。
「……無理か」
迫りくる勇者の本気の一撃。スピード、威力を含めて、鉄鬼に乗ってない私では勝ち目はない。反撃の一撃を行えば、私の体はばらばらになるだろう。
では……どうする。
答えは簡単である。
「ぐっ」
右腕を犠牲にして、致命傷をさけることである。
「があぁあああああああああ」
私は声を上げる。左手で血が噴き出す右腕を抑えながら、地面にのたうち回う。
痛い、痛い、痛い。
その痛みから逃れたいと願う。けれど、逃れることはできない。
「とどめだ」
勇者は剣を振り上げる。
「うぐっ……っ……」
私は歯を食いしばって、勇者を見る。
「……どうして、同じなのに。どうして、世界を滅ぼそうとするんだ」
「……」
私はその問いに答えない。答える必要なんてないのだ。
「なっ……」
勇者の腹を大きな杭が貫いていた。エコーのパイルバンカーだ。私が操縦しなくても自立して動くことができる。
さきほどまで致命傷をおっていたが、自己再生機能によって、ある程度動けるようになっていた。
つまり、エコーが動くまで耐えきり、その射程まで勇者を誘導すれば勝ちである。
「ごふっ」
口から大量の血を吐き出す勇者。私はゆっくりと立ち上がる。
「おやすみなさい」
エコーの声とともに、勇者を地面に押さえつけ、エネルギーライフルをゼロ距離から撃つ。
勇者は、死んだ。これで、一時的であれ……問題はクリアである。
私は腕を抑えながら、
「……エコー。腕はどれくらいで治る」
と問いかける。
「すぐに治ります。魔導士から得たエネルギーですぐに回復かのうです」
その言葉通りに私の右腕は再生、着ている服も再生される。
「……エコー」
「はい、なんですか」
「あと、どれだけ勇者と英雄を殺せばおわるかな?」
私の問いにエコーは、
「人が勇者と英雄になり続けることに終わることはありません。命の理が喰らうことにあるならば、人がいなくなるか、喰らわない命がでた時だと思います」
と事務的に淡々とこたえる。
だとしても、私はエコーの言うことに否定しない。それも1つの答えだ。
「でも……私は喰らい続けても、穏やかで美しい命の循環が訪れる日がくるかもしれません。命は未熟です。長い時の中で……新しい可能性があると思います」
エコーは、わずかな可能性を残っていることを感じたのだろうか。この過酷な世界に希望を信じているのかもしれない。
私はエコーに
「……信じるよ」
と私は死んだ目で答える。
それに対して、エコーは鉄鬼で表情はわからない。でも、どこか微笑んでいるような気がするのであった。
読んでいただき、ありがとうございます。第1部は本日中に投稿されます。