六曲目【死者の呻き】はヴォカリーズ
私は今、広場の中央に戻り鎮魂歌を歌っている。
【死者の呻き】を使ってハミングしているのだ。
「ァーーー」
音程はどうやっても一定しか出せない。
音量も聞こえるか聞こえないか曖昧だけど、でも確実に存在する。
蚊の羽音みたいなものかな。
高い音ではなく低い音だけど。
コーラスなんかにある歌詞が母音だけの部分をヴォカリーズと言われているのだがそのヴォカリーズの時には有効そうだ。
まともには歌えそうにはない。
出せる音は母音だけだからだ。
しかし、私は歌う。
なんでかって?
ゾンビが度々この広場に寄ってくる。
私の視界が真っ赤に染まって身体が勝手にゾンビに向かう。
ゾンビが動かなくなるまで何度も踏み潰す。
私が鎮魂歌を歌う。
これが繰り返されているのである。
私の歌声に惹かれてこの広場に来ているかもしれないが。
歌う事は止められない。
もう死んでいるとはいえ、私がとどめを刺している。
だからせめてもの供養、そして私が歌う理由を見逃す訳がない!
そうだ。
歌う必要性があるから歌うのだ。
私がただ歌いたいだけという事もあるがな。
広場も私の歌によって環境が変わっていく。
今の歌っている鎮魂歌は魂が天に召される事を祈るというものを表現したもの。
そのため、何も生えていない大地から曇天に向かって光や風が昇っていくような演出がある。
真上へとライトアップされる事と小さな上昇気流を生み出す効果がある。
魂が天に召されているか知らない。
魂なんて私には見えないしな。
そろそろ、【死者の呻き】の使い心地も分かってきたから、【絶叫】に切り替えてみるか。
SPは、6か。
あまり、長くは使えないか。
聴く事に集中しよう。
「ア゛!!!」
あ、切れた。
ふむ、【死者の呻き】よりもSPを多く消費するようだ。
音量は、そうだな。
デスメタルのシャウトのような感じか。
音程を変えられると良いのだが。
オペラやミュージカルで活用が出来そうだ。
心友ならば燃費が悪いと例えるのだろうな。
SPを使い切ってしまったため暇になった。
こういう時にゾンビが広場に来て欲しいものだ。
貯まったDPは109か。
あれだけ私がとどめを刺したからおかしくはないか。
後になるにつれ力強く踏んでいたから能力も大分、奪えたのだろう。
しかし、ただ踏みつけるだけでは芸がないな。
私の兄が格闘技を習っていたから真似事ならばできるのだがな。
護身術を習っていれば、狂信者に捕まらずにすんだのだろうか。
………今はどうでも良いか。
暇だ。
貯まったDPで何かできないか確かめてみるとしよう。
………能力値の増大やスキルやアビリティの取得、ダンジョン領域の拡大やダンジョンの構造を組み替える、などか。
モンスターやアイテムなども出せるようだが今は必要ないだろう。
能力値、SPに全部変換するとしよう。
ゾンビをいくら倒してもHPとSPは上がらないからな。
【真実の瞳】でも確認したが、ゾンビにはHPとSPの欄に数値が表記されていないのは能力値を持っていないためだろう。
持っていないものを奪う事は出来ないから【勝者の理】でも上がらないのだろう。
よし、SPの右の欄の数値が610になった。
うん?
森が騒がしいな。
木々が揺れている。
どんどん近づいて来ているな。
姿は、森が鬱蒼としているため確認できない。
大型のゾンビのお出ましか。
戦闘は私に任せるか。
ソイツが広場に侵入すると視界が真っ赤に染まり私の身体が勝手に動き始めた。




