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ダンジョンの歌姫  作者: アン
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二十九曲目 調査隊

観客の姿が見えた。

心友がよくしていたテレビゲームのキャラクターのような格好をしている者達だな。


狩人のような、騎士のような。

二つを両立させたような格好だ。

それが3人。

なぜか、その場で座り込んでいるな。

その背後は闇が広がっていた。

周囲には本物の影で覆われて暗いのだが、その闇の濃度というべき言葉が脳裏に浮かぶ。


光を一切、反射しない底の見えない闇。

まるであの谷底のような物を見ている気分だ。


立体化した闇、もしくは影の壁というべき存在。

咲夜の【闇魔法やみまほう】で私の言葉通りに足止めをしてくれていたのだろう。

座り込んでいるのも咲夜が何かをしたのかもな。


その3人の背後には一方にしか逃げられないように円状の壁があった。


当の咲夜はその座り込んでいる3人の前で私の方を見ている。

咲夜、観客が逃げないようにそちらを見ていて欲しいのだが。

逃げられないと確信しているのだろうか。


私よりも先に玩具の巨人兵がその場に着いていた。

歩幅が明らかに違うから当然の摂理だ。

彼らの一歩は私の数倍はあるだろう事は確かめなくとも分かる事。


その巨人兵が15体が周りを取り囲んでいる。

その巨体で取り囲めば、それはそれは周囲も暗くなるのも同義である


その巨体さに怯えて座り込んでいるのだろうか。


咲夜の【闇魔法やみまほう】の後にダメ押しで15体の巨人兵が自分達を取り囲む。


絶望と恐怖という言葉では足りないほどの感情を味わっているかもしれないな。


観客に怯えられて来なくなってしまうのは困る。


敵意が無い事と歓迎の印に勇気の湧く歌でも歌おうか。


まだまだ距離はあるが【絶叫ぜっきょう】で声が届く範囲だろう。


SPの残量からして【ウィスパー】で観客と会話する事ができる程度には残る。

足りなければDPでSPを回復してしまえば良い。


そうと決まれば歌おうか、蛮勇なる戦士の歌を!


➕➕➕➕➕➕➕➕➕➕➕➕➕➕


あぁ、父さん、母さん。

二人から頂いた、この貴重な命を無駄使いした愚かな娘をお許し下さい。


田舎でお隣のロニーおじさんと結婚させられそうになって家を飛び出した娘ですが、冒険者となって日々を生きる為にギルドが発行してくれるお使いクエストで生きながらえていました。


しかし、しょせんは街の人のお手伝い。

大半は宿屋や食費に消え、貯めることもできませんでした。


魔物を倒せる度胸も技量も無いアタシには冒険者は向いていなかったようです。


しかも、次々と新たな冒険者が現れる為、私がこなせるクエストも他の新人冒険者(ルーキー)に取られてしまいお金が稼げなくなってきました。


宿屋では支払うべきお金を滞納し、最近ではまともに食事もできない始末。


低レベルの冒険者上がりのポンコツが働けるとしたら水商売しか残らないという悲惨な結果しか残っていませんでした。


イチかバチかで討伐クエストでお金を得ようとしたアタシはギルドに向かいました。


するとその時は幸運にも、そして今となっては死神の手引きによってあるものを発見したのです。


ギルドが発令していたミッション。

《亡者の森の異変調査》


亡者の森は父さんも母さんもご存知の通り、死者を呼び寄せる森です。

その為、アンデットがわんさか居て不気味な森です。


アンデットを倒すには教会の人が使う神聖魔法か光属性の魔法で浄化、もしくは跡形も無く燃やすしか方法の無い魔物の総称です。


倒しても何も手に入らない魔物がわんさか居る森に誰が好き好んで飛び込んで行くのでしょうか?


さらに言えばあの絵本にも出てくる伝説の死神も存在する魔の森です。


苦労と疲労しか得られません。


しかし、最近になってある異変が起きたのです。

亡者の森で光の柱が立ち、数日後には天をも突かんとする槍のような物が生えたのです。


ここまで話せば分かりますね?

ギルドは亡者の森で起こった異変の調査に乗り出したのです。


それも大金をばら撒くような手法で。

えぇ、見事にアタシも引っかかりましたとも。


しかし、内容は太っ腹としか言えません。


森に入るだけで銀貨1枚。

森の中の情報を1つにつき銀貨5枚。

異変が起こった場所の情報は銀貨10枚。

異変を解決できれば金貨1枚!


破格にも程があります。

銀貨1枚だけで宿屋への滞納は払えますし、節約に節約を重ねれば三ヶ月は働かなくとも生きていけます。


しかも、銀貨が1000枚で金貨1枚。

下手を起こさなければ一生働かずに生きていけます。


しかも、お供に教会の人が付いてきてくれる事が明記されていました。

えぇ、上手くいけば稼げると思ったんですよ。


大金に目のくらんだアタシ達、多くの冒険者は亡者の森へと立ち入りました。


しかし、どこからとも無く現れるゾンビの群れ。

伝説の死神が現れないか緊張と警戒の連続。


多くの冒険者はその命を惜しみリタイヤしていきました。


アタシはお供の教会の人からご飯が貰えるので必死に付いて行きました。


久しぶりのご飯、美味しかったです。


そしてアタシと教会の人だけになってしまいましたが、ようやく異変が起きたであろう場所に辿り着きました。


人間、必死になれば死線を越えられる物だとアタシは学びましたよ。


森の中とは思えない荒れ果てた土地。

槍のような物は近付いて見るとまだまだ遠いはずなのに近くに感じます。


それにお供の教会の人達が浮ついていました。

何やら邪気を感じないのだとか。

代わりに全く別の気配を感じると。


アタシも1つだけ気になる事があったんです。


昔、運び屋(ポーター)としてダンジョンに入った時と同じ感覚があったのです。


それから教会の人が何やら調べようとしていた時です。


背後に闇が出たのです。

まるでアタシ達を逃さないようにしたそれはれっきとした魔法。


それと同時に教会の1人が突然叫び出したのです。

死神が出たと。


アタシの目にも写りました。

ボロを纏ったような子供の姿を、絵本の中に出てくる死神と同じ姿の何かを。


そして続けざまに足元が揺れました。

それも巨大な何かが近付いてくるようなそんな揺れを感じました。


遠くで人が歩いてくるのが見えました。

でもおかしな事に、遠くに居るはずのその者達はまるで目の前にいるかのようにはっきりと見えます。

目の前に居るかのように。


近くに歩くそれは次第に姿を大きくしていきました。

いえ、元々巨大だったのでしょう。


アタシは途中で腰が抜けて立ってはいられなくなりました。


それは巨大な人の姿をした、巨人。

そんな大型の魔物なんてアタシには倒せない、逃げられない。

死神からもきっと逃げられない。


教会の人もそれが分かったのでしょう。

叫ぶ事も無くドサリと倒れてしまいました。


父さん、母さん、命を無駄に散らすバカ娘をお許し下さい。



何処からとも無く、声が聞こえます。

あれ、意識が………

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