二十八曲目 巨人とサタン
ヘビ人間のゾンビは私が綺麗に方を付けた。
能力値は全て私が奪い、その死骸は全てDPに変換した。
しかし、さらなる問題が生まれた。
私が玩具の兵隊を襲い始めたのだ。
玩具と言っても人よりも大き過ぎるその姿はもはや巨人と言っても差し支えないだろう。
しかも、玩具の兵隊の材料となっている物質は手触りからして何かの金属だと思われる。
私が勝手に私の拳で思いっきり殴りつけたから分かった事だ。
痛みが無いのは【無敵】や【完全耐性】のおかげだろう。
その謎物質の巨人には傷1つ付けられていないが。
この世界では私の歌が地球よりも強力に影響を与えるとは分かっていたがここまで効果が上がるとは。
地球では、普通の玩具と同じくらいの大きさで電柱を投げるほどの力強さ、銃弾も軽々と避ける身軽さ、新幹線と並ぶ素早さ、数を揃えれば世界をおとせる身体能力だ。
暴力団を壊滅させたのは伊達ではない。
この世界では巨体で現れたがその身体能力はいかほどか。
図体だけ大きくなったのであれば、それはそれで脅威になるか。
魔法があったとしても倒すには時間がかかりそうだ。
地球ではミサイルとかで退治されてしまいそうだ。
咲夜に聴かせていた『もりのくまさん』や『桃太郎』などの童謡で私が私の歌で現れた者を敵認定する事は分かってはいたが、忘れていた。
倒す、倒す、倒す!
硬い、大きい、強い!
倒せば、もっと、強くなる!
張り切っている所を悪いがそいつは敵じゃないぞ、私。
しかし、私の思いも届かず際限なく拳を振るう私。
ゾンビを多く倒してもようやくATKが3桁に届きそうな所まできた。
だが、巨人兵隊には無意味なようだ。
化けヘビ状態のソウルイーターと同等の硬さではなかろうか。
違いはあるだろうが、私には分からん。
まぁ、制御する練習をしようか。
倒す、倒す、倒す!
私、そいつは仲間だ。
もっと、力を!
もっと、力を!!
もっと、力を!!!
聞く耳を持たないか。
心友が居ればこのような強くなりたい願望が強い奴を『のーきん』と呼んでいただろうな。
いや、二重人格に耳も聴覚もないか。
それでは、私の思いをぶつけようか。
『のーきん』な私に私の歌う事を邪魔されたくはないからな。
黙れ。
この身体は私の物だ。
私の物じゃない。
私が歌う為の身体だ。
強くなりたい?
ゾンビを倒して着々と強くなってる。
まだ、足りないのだろう。
もっと強くなりたいと唱えているものな。
だから私は敵を求めている。
だから強敵に執着する。
しかし、私の邪魔をするな。
この身体は私の物だ。
私の意思が優先されてしかるべきなのだ。
私のような新米の人格が私の身体を好き勝手に使うな。
私は私を否定はしない。
強くなければ殺される。
前世は私が弱くて殺された。
確かに誰にも邪魔されない力は欲しいさ。
だが、私から人前で歌う機会を奪うな!
私は一人で歌うだけじゃ足りないんだ!
観客も欲しい、舞台も欲しい、自由に歌えるパーツも欲しい!
私の意思をいくらぶつけても私は止まらなかった。
巨人兵への攻撃、強くなりたいという言葉。
根底が同じ私達だ。
言葉だけじゃ止まらない強情者だとは分かっているさ。
私は私、私は私なのだから。
ふと、脳裏にある言葉が浮かんだ。
眷属化だ。
なぜ、私は咲夜を攻撃しない。
それは咲夜が敵ではないと分かっているから。
なぜ、分かる?
それは咲夜がダンジョンの一部、私の眷属となっているからだ。
しかし、私の歌で現れた者は?
それはダンジョンの一部ではない。
DPに変換できる事が何よりの証明だ。
ならば、この巨人兵を眷属に変えればいい。
眷属化のやり方なら脳裏に浮かんでいる。
いや、すでに実行している。
巨人兵、全てを眷属化するのに、そう時間はかからなかった。
私の視界は赤から青へと変化していった。
巨人兵に攻撃をしていた身体は巨人兵の歩みに遅れながら同じ方角へと歩き始めた。
私から私に変わったらしい。
相変わらず、私の意思は無視か。
しかし、多重人格の制御は早くどうにかしなければならない。
自由に歌えこそはするが、私の意思を無視した行動は気分の良いものではないからな。
この際、スキルやアビリティで使えそうな物を探してみるか。
森の開拓、ダンジョン領域を広げる為にDPを消費してスキルやアビリティを得る事を我慢してはいたが、これは早急に解決すべきだろう。
もう、人の姿が見えて来たな。
何やら騒がしい。
何かあったか。
急ごうにも私が私の意思に反してゆっくり歩くものだから苛立つな。
ほんとに不便な身体である。




