二十四曲目 勇者の名を騙る者
「それで、あんたが勇者様の名を騙っている者か?
立派な鎧に頭の上にあるのは何かのマジックアイテムか?
勇者って名乗りたいなら聖剣の偽物を持って来れば良いのにな」
厳つい強面の大男が少女に詰め寄った。
男の表情からは面倒な奴が来たと書いてあるが。
「ぅぅ、信じてください。
本当に勇者のアルケットなんです!
聖剣は魔王との戦いでポッキリと折れちゃったんです!」
男に詰め寄られて涙を目に浮かべているのは銀白の鎧を纏い、頭上になぜか浮かんでいるティーセットがある少女。
そう、広場型ダンジョンのダンジョンマスターから色々と授かったアルケット本人である。
「分かった、分かった。
とりあえず、本名を名乗れ。
話はそれからだ」
分かったと言いつつも全く信じていない男であった。
そこは国に入る者で怪しい者を取り調べる部屋であった。
門を通る際にアルケットは自分は勇者だと説明はしたものの証明ができずに門番に捕まっていたのだ。
そしてアルケットの前に居る者は門番が捕らえた者から情報を絞り出す事に長けた者であった。
アルケットの見た目が少女であるから手を出さずに情報を出そうとしている。
手を出しても無意味ではあるだろうが。
「だから、あたしがアルケットなんですってぇ!
信じてくださいよぉ。
それか水晶を持ってきてください!」
偽物と断言されたのも同然の扱いを受けてショックを隠しきれないアルケット。
水晶を持ってきてほしいと逆に男に詰め寄るアルケットであった。
「おぉ、おぉ。
落ち着け、な。
お前が勇者様が大好きなのは分かったから。
しかし、力は強いな。
騎士でも目指していたのか?」
いきなり、詰め寄られて胸元を握られガクガクと揺すられる男。
その少女の怪力さに驚きつつ、銀白の鎧を見て騎士を目指していたという予想を立てる男。
「騎士じゃなくて勇者なんです!
それよりも、『真偽の水晶』を持ってきてあたしを確かめてください!」
「そんな大層なもんが門の近くに置かれる訳がないだろ。
………ほんとに今頃勇者様の名を騙っても意味が無いのにご苦労な事だな」
男はぼそりと言ったのだろう。
それは無意識に出た独り言。
しかし、その小声でも近距離から聞いたアルケットにはしっかりと届いた。
「それ、どういう意味ですか?」
「なんだ、知らないのか?
教会の奴らが勇者は魔王と相討ちになったと女神様からお告げがあったと騒いでたんだよ。
それも数年前にな。」
「………え?」
男から発せられた言葉に動きを止めるアルケット。
アルケットの頭の中ではなぜという言葉で埋め尽くしていった。
「その様子じゃ本当に知らなかったようだな。
この国には知れ渡ってはいるが他国にはまだまだ伝わりきってないのかもしれないな」
「そんな…」
「だから分かったろ。
勇者の名前を騙ってもこの国じゃ意味が無いんだ」
アルケットは顔を下に向けた。
何が起こっているのか分からない。
これから何をすれば良いのかも分からなかった。
魔王を討伐した事を国に伝えようにも既に女神様から伝わっていた。
自分は数年前に死んでいる事になっていた。
ならば、そうだろう。
家族に会いに行こう。
もう勇者というしがらみも消えたのだ。
家族に会って、そして幸せに生きよう。
そう、アルケットは決心した。
「こちらですか、勇者アルケット様の名前を騙っていた方が………」
そこに新たな人物が入って来た。
入りながら言ってた言葉もアルケットの顔を見ると驚愕の表情で固まってしまった。
「………オートモートさん」
「あ、あ、アルケット様!?」
知り合いに出会った。




