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ダンジョンの歌姫  作者: アン
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十七曲目 桃狩りに招待

(まよ)わしの(こえ)】を練習なしに使うには不安があるが仕方がない。


まずは自己紹介からだな。


(ルシフェル)甲斐甲斐(かいがい)しく勇者の世話をしているがそれは無視しよう。

桃の皮を剥いては勇者の口に突っ込んでいる。

うん、甲斐甲斐(かいがい)しいのか?


『聞こえるか?』


桃を頬張る勇者が顔を振って何かを探している。

そして目の前の私をじっと見つめて口を開けようと………


『喋るな、食い終わってから話せ。

私の名は姫川 (ひめかわ) 早苗(さなえ)、早苗と呼べ。

お前は魔王を倒した勇者のアルケットで合っているな?』


桃を口いっぱいに頬張ったまま話すとは礼儀がなってないな。

甘い桃の果汁が溢れてもったいないじゃないか。

食べれない私の前でするとはふざけた事をする奴だな。

当てつけか、食べられない私に対する当てつけなのか。


勇者への怒りはこれぐらいにするか。

話が進まないしな。


それに口の中の物を飲み込めばすぐに(ルシフェル)が新しく皮を剥いた桃を突っ込むのだから致し方なしか。


勇者は驚いた様子で首を縦に振った。

それは肯定の意としてとってもいいんだよな。


『今後はお前の事をアルケットと呼ぶからな。

まず、私はお前達の言語を知らない。

だから心に直接、語りかけているスキルを使っている。

他にも状態異常にする効果もあるがアルケットには無意味だと知っているから構わないな』


勇者、アルケットは今度は首を横に振っている。

それは否定の意を表しているのか。

しかし、アルケットには効かないのだから良いだろう。

桃を美味そうに食う奴の言う事は無視だ、無視。


『死に損ないのアルケットを私が助けたのだ。

そう、恩を受けたのだ。

ならば命の恩人である私に恩で返すのが道義だ。

違わないな?』


そこは首を縦に振るアルケット。

うむ、真面(まとも)な神経をしているらしいな。


『そう、ならば、だ。

私の願いを聞く義務があると言えるな。

あぁ、拒否は許さんぞ。

逃げるなよ、逃しはしないぞ』


顔が強張り桃を頬張るアルケット。

本当に逃さないからな。

この広場、今は桃の果樹園だがここから出ればすぐに森の開拓を開始して捕まえてやる。


『なに、私の願いとはそんなに多くないぞ。

まずは言葉だ。

私にお前達の言語を教えろ。

それと文字もだ。

アルケットに素養がないなら諦めるがそんな訳はないよな?

勇者に文字も教えない輩は居ないだろうからな』


口をポカンと開けるアルケット。

グチャグチャに咀嚼された桃や果汁が見えたが無慈悲な(ルシフェル)の手によって新たな桃を突っ込まれた。

ふん、いい気味だ。


『あとは………歌だ。

アルケットの知っている歌を全て教えろ。

そして私の前で歌え。

そうすれば、まぁ、ここから解放してやっても良いぞ』


この世界の歌を知りたい。

どんな歌があるだろうか。

どんな調べがあるのだろうか。

あぁ、今にも早く聴きたい。

早く知って歌いたい。


その為には言葉を知らなければならないからな!

文字も知っていれば楽譜も読めるだろうしな!


………なんだその呆れたような顔は。

永遠と桃を食わせてもいいんだぞ?

飽きても同じ物を食わされる状況は苦痛だぞ。

流石に好物であっても永遠と食わなければならないのは御免だろうからな。


む、視界が赤く染まったか。

すでに(サタン)も動き出したな。


『アルケット、敵が入って来た。

多分、低級ゾンビだろう。

私は離れるが逃げるなよ。

低級ゾンビを潰したらすぐにここに戻るからな』


走って行く方に居たのは………おい、大きいぞ。

ソウルイーターほどではないが地球の物よりも一回り大きいゴリラが居た。

しかし、ゾンビだ。

能力値は私よりも低いし、腐った身体では(サタン)の猛攻には勝てないだろう。


実際に(サタン)の徒手空拳には勝てないようで熟した果実のように潰れていった。

うむ、私はこの光景にも慣れたがアルケットは大丈夫だろうか。

いや、仮にも勇者なのだ。

魔王を倒した存在がこの程度の光景で狼狽えるはずもないか。


いつもより、大きい為か少し時間が掛かるな。

視野はゴリラゾンビしか写らない。

くそ、脳筋な(サタン)め。

アルケットが逃げないように見張りたいというのに。


腐肉を押し潰す感触にも慣れたな。

ますますもって化け物だな、私は。


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