表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンの歌姫  作者: アン
16/32

十五曲目 極楽浄土

鬱蒼とした森の中、私が外に出られなかった広場。

その場所は今や桃の樹が乱立し、中央には澄み切った泉と大きなハスの花がいくつも咲いている。


なぜこうなったか。

理由は簡単だ。

私がスキルを使って歌を歌ったからだ。

それも仏教の天国、極楽浄土に関する歌を声高らかに。


動機は、まぁ、勇者が起きたら食事でも与えないと死ぬだろうという考えに至り、死人も同然だった者に固形物を食わせるのは酷だろうという優しい私が思ったから桃の果実が実る歌を歌ったまで。


実際には私が桃を好きなんだけどな。


私も風邪を引いた時は桃のシャーベットを姉から作ってもらったからか、病気の時は桃に限ると思うのだ。

それに甘くて美味しいし。

至高の果物だと断言したい。

うん、心友も桃は神様の果物だとか言ってたし、間違いじゃなかろう。


勇者の場合は病気ではなく、致死の大怪我だろうが。


荒地から桃の林になったのは私の経験と知識から予想に近い風景となった。

荒地の広場から桃の林ができる様は見ものだった。


なんせ、タネがなくとも生えて生長して枝葉を広げ歌い終わる頃には美味しそうな果実を実らせていたからな。

しかも、(ラファエル)の意思なのか、いくつかの桃をもいでいた。

手で握り絞り、気絶している勇者の口に垂らしていた。


すると驚いた事に欠けていた身体の部位が見る見るうちに回復していった事には驚いた。

しかも私の【回復(かいふく)魔法(まほう)】よりも回復が早い。

まるでCGで合成した映像のような、再生するという言葉が脳裏に浮かんだほどだ。


むぅ、確かに地球では樹を生やした所で終わって果実の効果の検証はやっていなかったな。

しかし、この世界には魔力というエネルギーが存在するのだ。

果実にかなりの変質が起きた可能性も否めないな。


ちなみに絞った桃のカスはDPに変換済みである。

むぅ、小さなゾンビよりも多くDPを得られるのはどうなのか。

明らかに質量を無視したエネルギーの差だ。


一個の桃の果汁によって勇者の身体は五体満足まで再生した。

一見して怪我のないように見える。

内臓までは知らないが【真実しんじつ(ひとみ)】ではHPは全快していた。

SPは少しだけ回復していたが治療代として微収済みだぞ。

桃の果実にしては驚きの効果だが、新たに私の歌の影響力を知る事ができ、良かったとしよう。


あとは勇者が気絶から目を覚ませばこの世界の言葉を教えて貰えるだろう。

ふふ、身体を治してやったのだ。

それぐらいの恩返しは期待しても良いだろう。


逃しはしない。


しかし、この世界で効果が変わってしまった、あるいは、強化された歌は他にもあるのだろうか。

これも検証を積まなければな。

さしたっては歌を歌う為のSPの補充に時間がかかることか。


こう、のど飴やポーションのような副作用無しにSPを回復するアイテムはないのか。


心友とのゲームならば必ずと言っていいほど存在していたのだが。

やはり、人との交流、物流に頼る他ないな。


だが、それにはダンジョンを広げ、人の住む町の近くまで行かなければ。

私はこの空間からは出られないのだから。

いっそのごと、町をもダンジョンに組みこもうか。

いや、森の開拓と同じ現象が起きるため、無理だろう。


ならば、中に町を作るしかないのか。

しかし、そのための人も道具もない。


あぁ、歌を歌いたい。

スキルを頼らずに自分の口で好きなだけ歌いたい。


………口に関するパーツを見つけられればこの悩みも解決するのだろうか。

できれば人と同じ発音ができる口が良いな。

昆虫系統や水中生物の口では発音すら難しそうだ。


お、勇者のまぶたがピクリと動き出したな。

そろそろ目覚めるのだろう。

ならば、私も勇者に意思を伝える準備をしなければな。


魔王を倒したんだ。

助けてやった私の見た目に驚いてくれるなよ、勇者アルケット?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ