僕とお師匠たち
僕の師匠は4人いる。
「はい、こちらニトロ……あ、師匠ですか?」
そのどれもが命の恩人で、僕に生きる術を教えてくれた。
今の僕があるのは、師匠たちのおかげであるといっても、過言ではないだろう。
「え? 今からですか? いや、無理ではないですけど、いきなりはちょっと……ってもう着く!?」
ただ、感謝していることと、尊敬できていることは別であり、僕が後者のほうへ悟りを開けるには、まだ少し歳が足りないようだ。
「久しぶりですね、ニトロ。元気にしていましたか?」
「ニトロー、おっひさー」
「よう」
「げ、元気……?」
尊敬が難しい理由は、たいてい何か厄介ごとを持ち込まれるからであり、その難易度はだいたい来た人数によって比例する。
そして、今回の人数は、
「お久しぶりです……朱雀師匠、青龍師匠、白虎師匠、玄武師匠」
最大人数(最高難易度)である4人。
ここまでくると、面倒なことになったと思うより、清々しい気持ちになったのが不思議だ。
たぶん諦めたともいうのだろうけど……
幕間
「お飲み物です。どうぞ」
突然の来訪ではあったが、師匠たちは客人の立場である。
ひとまずそれぞれを家に入るように促し、丸い机を囲むように座らせる。
「あら、ありがとう」
「さすがニトロ、気が利くー」
「ふむ、すまんな」
「あ、ありがとう……あっ、」
「ん? どうかしたの? 何か変なものでも入ってた?」
青龍師匠が玄武師匠のコップを覗く。もちろん変なものを入れる勇気なんて僕にはない。
「そうじゃなくて、これ……」
「ふむ、火口草の葉でつくられた茶か。なかなかのものだな」
「火口草? なんだっけ、それ?」
「玄武の土地にある火山でのみ取れる薬草ですね。それより青龍、行儀悪いから覗くの止めなさい」
朱雀師匠は、4人の中では一番常識がある方である。
ただ、常識と良識は別物なので、明らかに無理な厄介事も「誰かがやらないといけないこと」と言って僕に平気でやらせようとする。
「はーい」
嗜められて元の位置に戻った青龍師匠は4人の中で一番人当たりのいい方である。
ただ、自他共に認めるほどいい加減なので、厄介事の大半である本人自身の雑用を「誰にでもできること」と言って僕に押し付ける。
「だが玄武の土地でも火口草はそれなりの高値で取引されていると聞いたが?」
白虎師匠は、4人の中で一番のきっぱりとした方である。
ただ、きっぱりしすぎているため、交渉事での裏表が通じず、「誰かに頼る必要があること」と言って厄介事も僕が仲介に入る。
「これはこの間、玄武師匠と一緒に取ってきたものなんです。ね、玄武師匠?」
「そ、そうなの。だから私、ニトロ君がちゃんと持っていてくれた事が嬉しくて……」
玄武師匠は、4人の中で一番の優しい方である。
ただ、甘くはないので、「誰かのためになること」と言って厄介事の多くで僕の命は危険にさらされる。
「へえ、ニトロとデートしたんだ」
「そ、そんなデートだなんて……」
青龍師匠のからかいに顔を赤くしてうつむく玄武師匠。
初々しいその反応も、火口で火だるまになりかけた記憶さえなければ、素直に可愛いと思えたのだろうか。
「……おっほん、青龍、玄武。私たちはおしゃべりに来たわけではないんですよ?」
「わ、わかってるよ……」
「す、すみません……」
あわてて居住まいを直す二人。
朱雀師匠が咳払いをするときは、怒っている状態の一歩手前なので、僕も反射的に背筋をのばした。
「それでニトロ、今日私たちが来た理由なのですが」
「は、はい」
鬼が出るか、蛇が出るか。
どっちが出てもいいから命の保証があることを切に願っていた僕だけれど、
「あなたには明日、魔王様に会ってもらいます」
「……へ?」
願い虚しく、どうやら出てくるのは魔王のようだった。