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KIDS! ~小学生達の道草異世界冒険譚~  作者: あぎょう
クエスト3 ビンチの冒険
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其の十五 謎の女子高生


「もしもし。ジュウか?」


 エルフの里。ナニワは普通の電話のように、縄跳びの取手の中に向けて言う。


《おお! ナニワ! ちょうどよかった。オレもおまえに連絡しようと思ってたんだ!》


超縄線(ハイパーリンク)】が発動したのは、ジュウが例の女子高生。高宮つくしを救出した直後だった。


《女子高生のねえちゃん。見つけたぞ! なんか捕まってたけど、今助けたところだ》

「お! そうか! 俺たちもさっき見つけたんや。ちゅうか、あっちから現れたんやけどな」

《ふ~ん。じゃあ、これで、女子高生の方はいいんだな?》

「ああ! あとは想具(アテラ)だけや!」


 予想以上の展開の速さに、ナニワは嬉しそうに言う。この分ならば、すぐに想具(アテラ)を見つけられそうな気がした。


「ところで、そっちの様子はどうや? 想具(アテラ)の目星とかついたんか?」

《いや~全然。つーか、ビンチが捕まっちまったんだよな》

「!? 飛羽場が!?」


 デカチョーが驚く。【超縄線(ハイパーリンク)】の声はスピーカーのように、周囲の人間まで届くようになっている。


「なんやあいつ。偉そうなこと言って、結局大したことないやんか。ええ気味や」


 元々、飛羽場を快く思っていないナニワは、そう吐き捨てた。


「しかし、ひどく物騒な所らしいな。ドワーフの国という所。いくら見慣れない『人間』だからって、いきなり捕まえることはないだろうに……」


 デカチョーは憤慨するように言う。


《そーだなぁ……なんか、すげー警戒してるっつーか。怖がってたような気がしたなぁ》

「そっちもそないな感じなんか。実はやな、エレフ達も、俺たちのこと怖がってんねや。特に何もしてへんのにな」

《ふ~ん……そっか》

「とにかく、ほっとく訳にもいかへんやろし、飛羽場助けてやってくれ。しんどそうなら、力貸すで? デカチョーが」

「人任せか!!」


 盛大にツッコむデカチョー。


《いや、オレ一人で大丈夫だ。ビンチは必ず助けるから、そっちはそっちで、想具(アテラ)探しがんばってくれ》


 ドワーフとジュウでは身体能力に大きな差がある。救出も難なく行えるだろうという確信がジュウにはあった。


「分かった。ほな、想具(アテラ)見つけたら連絡するさかい、そっちもあんま無茶せんといてな」

《おお!………!! うわっ! 見つかった! ナハハ! じゃあなナニワ! オレもなんかあったら連絡する!》


 と、ジュウは急いで、しかしどこか楽しげな声を残して、【超縄線(ハイパーリンク)】の通話を切った。


「……相変わらず、どんな時でも楽しそうやなぁ、アイツは。ホンマ、得な性格しとるで」


 やれやれと、ナニワは肩をすくめるしかなかった。

 そこで


「……えーと……何、今の? 電話? 何の話?」


 暢気者の女子高生。楓野陽菜が、頭の上にクエスチョンマークを浮べて問う。


「あ。うっかりしとった。あっちでも見つけたゆうんなら、通話、代わってあげてもよかったなあ」


 少し申し訳なさそうに、ナニワが答えた。


「あなたのお仲間さん、つかまってたみたいでしたけど、もう助け出したらしいので、安心してください」

「それにしてもそのねーちゃん、いくら想具(アテラ)探しのためとはいえ、国の中に一人で乗り込んでくなんて、ええ度胸やなぁ」


 なごやかにデカチョーとナニワが笑う。

 彼女らも自分達と同じく、ドワーフとエルフの二手に分かれて、想具(アテラ)探しをしていたと予測したのである。

 しかし


「? は? ………?」


 彼女の反応は鈍く、首を傾げた。


「? いやだから……今、あなたが一緒にこの世界に来た仲間を、アタシ達の仲間の一人が助け出したってことですよ。二手に分かれていたんですよね?」


 デカチョーは分かりやすく説明し直した。しかし、未だ彼女は首をかしげるばかりだった。


「二手にって………そんな訳ないよ。中城寺のおじさんから、聞いてたんじゃないの?」

「? 一体、さっきから何言ってんねん? ねえちゃん」


 話が全くかみ合わなかった。

 そして、衝撃の言葉を口にする。



「だってヒナ。一人でここに来たんだよ?」




「とりあえず。逃げるぞ! ねーちゃん!」


超縄線(ハイパーリンク)】の向こう側。ドワーフの国の中央の柱の中。

 螺旋階段を下っていくドワーフ達を見上げながら、ジュウは叫んだ。多くのエレベーターがどんどん下がってきているのが見える。

 その兵士の数、ざっと50。さすがのジュウも、一人の人間をかばいながらその中を突っ切るのは至難の業だった。


「に、逃げるって……どこへ……?」


 お嬢様女子高生。高宮つくしは、オロオロしながら辺りを見回す。

 ここは最下層。出口へたどり着くには、螺旋階段を上っていくしかない。

 しかし、ドワーフ兵達がそうはさせないだろう。まさに袋の鼠である。

 ジュウは他に逃げ道はないか、懸命に周囲を見渡すと、


「! あれだ!! 水の中だ!!」


 と、中央の滝から4つに分岐した水流を指す。外側から見た限り、その水流は塔の外へと通じているはずである。


「いくぞ! ねーちゃん!」

「え!? キャッ!!」


 間もなく、ジュウはつくしの手を引いて、近くの水路の中へ飛び込んだ。


「!! 逃げたぞ! 三番水路だ! 外側に回れ!!」


 兵士の一人がそう叫び、全員が螺旋階段を上り始めた。

 水路の中は、凄まじい激流だった。

 二人の体は転がるように動き、上か下かも分からない状態だった。

 しかし、ものの数秒すると、水面から顔を出すことができた。


「「ぷはっ!」」


 息を吸う二人。周囲に見えたのは街並みだった。

 思惑通り、塔の外側へ脱出することに成功したようだった。


「はぁ……はぁ……さて、これからどうすっかな」


 ジュウは流れに身を任せて、ラッコのように浮かびながら、顎に手を添え考える。

 このままつくしを連れて飛羽場を助けるのは、いささかリスクの伴うものだった。ジュウはともかく、つくしが再び連れられる危険がある。それに、他人に注意を払いながら先へ進むのは、ジュウの得意とするものでは無かった。

 故に、


「よし! ひとまず、ねーちゃんを外に連れ出す! それからビンチを助けにいくか!」


 そう結論した。


「この川、出口の近くまで続いてるかもな……このまま泳いでいくぞ!」

「え? ちょ……!」


 と、ジュウは強引につくしの手を引き、そして勢いよくバタ足で泳ぎ始めた。

 型も何もない、滅茶苦茶な泳ぎ方だが、その速さは自動車並。バタ足の飛沫が勢いよく空中へと舞い上がり、周辺の家屋を水浸しにさせるほどである。

 つくしは「あわわわ」と戸惑いながらも、水の上を高速で移動していく。

 やがて、国の外周付近。出口が視界に入ると、水の上を勢いよく飛び出て路上に出た。その時点で、水に強く打ちつけられ、つくしは半分気絶しかけていたので、ジュウは彼女を背負い走り出した。

 塔から出口までの最短コースを進んだことによって、幸い追手の姿は見えなかった。

 立ちふさがる門番すら、一秒かからず撃破して、彼らはドワーフの国を脱出することに成功した。



「ナハハハ! いやー面白かったなー!! たまには泳ぐのもいいなー!!」


 ドワーフの国の外。洞窟を出てから、ジュウは元気よくそう言った。入った時とは別の洞窟である。


「はぁ…………はぁ………」


 高宮つくしは何も言えず、めまぐるしい状況の変化に、目を回し、息切れを起こしていた。膝をついて、立ち上がれない状態である。


「ま、ここまで来れば安心だろ! ねーちゃんは友達の所に行ってろよ。オレ、もう一人助けなきゃなんねえヤツがいるからさ。もう一度行ってくる!」

「? ま、待ってください!」


 背中を向けるジュウに対し、つくしは呼び止めた。


「友達の所とは……どういうことですか?」

「? どういうことって……?? エルフの里ってとこに、ねーちゃんの友達がいるんだろ?」

「……私、ここに友人はいません」

「? 何言ってんだ? ねーちゃん?」

「あの……何か話がこじれてるようですので……説明して頂けませんか?」


 と提案。ジュウはたどたどしい言葉で説明し始める。

 自分はとあることから、ここに宝物を探しに来たということ。そのついでに、二人の女子高生を探していたことを。


「はぁ……なるほど……なんとなく、分かりました」


 支離滅裂な説明だったが、なんとか伝わったようだった。


「しかし、残念ですが、私はその二人の女子高生にはあてはまりません。私はおそらく……事故でこの世界に来たのです」

「? 事故?」

「はい……うっかり開きっぱなしのマンホールに落ちてしまって、気づいたらここに……」


 と、つくしは悲しげに顔をうつむかせる。

 あまりにも、不運としか言いようが無かった。

 おっとりした性格のためか、普段から抜けている所があったのか、下水道の整備でマンホールが開けっ放しになっていることに気づかず、そこに落ちてしまったのだという。

 もしただのマンホールならば大けがで済んだ。

 しかし、よりによって彼女は、20歳未満の『子供』だった。

 そして、そのマンホールは、妖精の領域(エリア)(ゲート)だった。

 条件は揃い、この虚想世界(ガルニディア)に迷い込んでしまったのである。

 さらに不幸なことに、彼女はマンホールを落ちて、樹洞から地面に叩き落ちたとき、当たり所が悪く気絶してしまった。

 だから、気絶から目覚めた時、すぐそこに元の世界に戻る出口があるにもかかわらず、彼女は迷い、この世界をさまよってしまったのだ。


「幸い、森の中に食べ物はたくさん実っていましたから、食料には困りませんでしたが、かれこれ………二か月程、この森で生活していました」

「変なねーちゃんだなぁ。えるふとかとろーるとかってヤツラんとこに行けばよかったのに」

「それは……大きな方や耳のとんがった方達のことですか? そんな……無理です。とても怖くて……」


 つくしは涙目を浮べて言う。

 たった一人で見知らぬ世界に迷い、心細い状態では、無理もなかったかもしれない。彼女は決して逞しい性格ではなかった。


「そして、一か月前。このあたりであの小さい方達と遭遇しまして、捕まってしまったのです」


 辛そうな表情で、語るつくし。


「……ここは、一体どこなんですか……? なんで、こんなことに………!」


 辛く、苦しそうに、彼女は嘆く。

 その姿は、ひとりの男と酷似していた。


「…………そうか。デカチョーの兄ちゃんと、同じか」

「……?」


 ジュウはそう呟くも、彼女にその真意は分からない。

 デカチョーの兄。武町正義もまた、不遇の事故で、虚想世界(ガルニディア)に迷い込んだ犠牲者である。直に接触したのはほんのわずかな間ではあるが、その心情は、デカチョーを通して理解していた。

 痛いほど理解していた。だからジュウは思う。

 目の前の人も、同じ目に合わしてはいけないと。


「……分かった! オレが必ず、もとの世界に戻してやる! 心配すんな!」


 ジュウはどんと胸を叩いて言う。正義のケースとは異なり、今度は(ゲート)が明確に分かる。帰るのはそう難しくないはずである。


「あ……ありがとうございます!」


 つくしは涙目ながら、深く頭を垂れる。ジュウは「へへっ」と照れ隠しに笑う。


「じゃ、その辺に隠れてろよ! すぐ戻ってくるからさ!」

「あ、あの……もうひとつ伺いたいことが……」

「? なんだ?」

「現実世界では今……何年の何月何日なんでしょうか?」

「………?」


 おかしな質問にジュウは首を傾げるが、正確に答える。


「たしか……6月2日だぞ。2012年の」

「え? 私がここに来てから、二週間しか経っていないのですか?」

「ん? ああ。あっちの一日はこっちだと五日くらいらしいぜ。だから……ええ~と……」

「……よかった……じゃあ、三か月で合ってるんですね……」


 森での生活二か月と牢獄生活の一か月を合わせて三か月。二週間の五倍で約三か月の計算となる。

 つくしはややほっとしたような顔を浮べる。


「? どういうことだ?」


 その言葉に、首をかしげるジュウ。

 つくしは両手を胸に寄せて、


「実は私……この森で彷徨っている間、二回ほど記憶が途絶えていたみたいなんです」


 不安に表情を曇らせて、そう言った。


「突然気を失って……気が付いたら、辺りにたくさん木が散乱している場所―――そう、初めてこの世界に来た場所にいるんです。それが二回、繰り返しで……」

「ああ。あのでっかい樹がある場所か?」


 そこは(ゲート)。ジュウは数時間前のその光景を思い出す。


「服はボロボロだし、全身疲労感で倒れそうになるし……記憶の無かった間、どのくらいの期間、何をしていたのかわからず、不安でしょうがなかったんです」

「? 何も覚えてねえのか?」

「はい……あ。唯一覚えてるのが……確か突然、顔に入れ墨を入れた男の方が現れて……それだけなんですけど……」

「? 入れ墨の男……?」


 心当たりがないジュウは首を傾げる。この領域(エリア)に人間はいないはずである。

 そこで、つくしは不安に涙目を浮べて、体を震わせる。


「……………私……何かの病気なのでしょうか……? 私、怖くて……!」


 か細い声で、そう呟いた。

 およそ、深刻な問題だった。

 この領域に来たとき、頭を強打したつくし。それがきっかけで、記憶障害を引き起こしている可能性もある。

 襲い来る不安につぶされそうだった。胸によせる両手をぎゅっと握りしめる。

 しかし、そんな不安をかき消すかのように


「ふ~ん……ま、大丈夫だろ! 気のせいだって!」


 ジュウは肩を叩いて笑い飛ばした。


「病気なら治せばいいし、忘れたことは思い出せばいい! とにかく、オレ達が帰り道を知ってんだから、なんにも不安になることはねえよ!」


 そう、元気づけた。

 つくしは少し呆気にとられると、小さく微笑み返したのだった。


「じゃ。今度こそ行くからな。待ってろよ!」

「はい!」


 ジュウの言葉に、元気を取り戻すつくし。ジュウは踵を返し、再び洞窟の入り口へ身を乗り出した。

 その時だった。


 ギャギャァアアアアアアアアアアンンン!!


 突然、暴力的な音が大気を劈くと同時、ジュウの背後で何かが激しく光輝いた。

 視界が突然真っ白になる。それを認識する間もなく、ジュウは背後からの衝撃によって吹き飛ばされ、洞窟の中へと放り出された。


「!? うわあああ!!」


 洞窟は下斜め方向に続いている。硬い岩肌を転げ落ちてゆくジュウ。

 彼は咄嗟の事で受け身が取れなかった。ひどく体を打ち付けながら十メートル以上も転がり落ちる。

 そうして停止した時、激痛からか、彼は気絶してしまった。


 洞窟の入り口手前。

 そこには、半径5メートルに渡って、放射状に広がる焼け跡があった。周囲の木々に火の粉が燃え移っている。

 それはまさしく、雷が落ちた後の光景だった。雲ひとつ無いピンク色の空であるにもかかわらず、ジュウのすぐ背後で、突然、落雷が起こったのである。

 そして、その中心地。雷が落ちたその地点に、つくしはいた。

 否。高宮つくしであって、高宮つくしではない、なにかがいた。

 その時、時刻は昼と夜の境目。この領域(エリア)特有の現象なのか、ピンク色の空が、まるで部屋を消灯したかのように、一瞬のうちに暗くなり、輝く星空が空にまたたいた。

 そして、そいつは体中から焦げ臭い煙を掃出しながら、ニヤリと笑う。


「さあて……お遊びの時間だ……!!」


 まばゆい月光を浴びながら、極めて邪悪に、そいつは微笑んだ。


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