其の十一 エルフの里
ナニワ&デカチョーペアの行く道は、思ったより困難な道のりだった。
先刻、境からトロールの谷に向かった場合と異なり、道らしい道は無かった。茂みや、沼地や、森の中を流れる小川を越えていく。それが彼らの体力を奪っていた。
当然、小学生にはきつすぎるハイキングだった。途中でへばったナニワは、デカチョーにおぶさる嵌めになってしまうのだった。
「少しはシャンとしろよ、全く。それでも男か!」
デカチョーはさすがに鍛えてるだけあって、さほど堪えてないようだった。
「うっさいわ。おまえがおかしすぎんねん。男女!……いで!!」
ドスン! という音は、デカチョーがナニワを背中から落とした音だった。もちろん、わざとである。
その時
「ん?……おい、あれじゃないか?」
と、デカチョーが目の前を指差す。
木々の向こうの隙間から、家や畑が垣間見えていた。ナニワは立ち上がり、手をかざして遠くを見つめる。
「おお! きっとあれや! やっと着いたで!!」
意気揚々という感じで、ナニワはなけなしの体力で走り出した。トロールの前例から、手厚くもてなしてくれるという希望があるのだろう。迫害されるという考えはさほど無いようだった。
デカチョーは「やれやれ」とため息をもらし、後に続いた。
そして、街の入口。
『エルフの里』という言葉どおり。そこには田舎町のようなのどかな雰囲気があった。小川が流れ、農場が広がる広い土地。街の中心地は煉瓦積みの建物が見えるが、それも立派な高層建物というものでもなかった。川には水車、とんがり屋根の上に小さな風車があるのが見える。
道行く人々はもちろん、空想上の種族、エルフである。水色の肌にとんがり耳。それ以外は普通の人間となんら変わらない外見だった。
「とりあえずロープレの基本。町長さんのとこに行って休ませてもらおか。腹減ったし、ごっつう疲れたわ」
うんざりといった感じでナニワはそう言い、デカチョーはそれに賛成。街の中へと二人は進んだ。
小さな煉瓦橋を渡り、中心街へと入っていく。
そして、すぐに異変に気づいた。
ナニワ達は、この世界において異形の存在。したがって、奇怪な眼差しを受けるのは仕方ないことではあるが、街のエルフ達の彼らを見る目は、明らかに度を越えた恐怖のまなざしだった。
ナニワ達が大通りに姿を現すと、ある者は恐怖の叫びをあげて家に逃げ込み、もしくは散回し逃げ回り、戸を厳重に閉めて最大限の警戒態勢を敷いたのである。
ものの数秒で、多くの街人で賑わっていた大通りは、物陰ひとつなくなった。
「な……なんやねん」
ナニワが動揺し、そして続けざま
ガランガランガランガラン!!
里の片隅。鐘がぶら下がる高塔から、激しい鐘の音が鳴り響いた。おそらくは警報サイレンのようなものだろう。
そしてしばらく経たないうちに、街の八方から警備団と思われるエルフ達がぞろぞろと姿を現した。いびつな形をした、薄っぺらい鎧と盾。身の丈の2倍はあるだろう、極端に長い槍を装備している。
それは、彼らの恐怖心を表しているようだった。
見てくれは戦士。しかしながら、体つきは至って貧弱なもので、とても屈強の戦士とは思えない。
誰もが闘志のかけらさえ無く、ただ怯えた顔で槍を構える。目の見える所まで近づいて、ブルブルと震えてるばかりだった。
「ちょ、ちょっと! 何を怖がっているんだ!? アタシ達が何かしたかよ!?」
デカチョーが叫ぶも、彼らの恐怖の眼差しは変わらない。
やがて、その群れの奥から大きな馬車が姿を現した。
荘厳な雰囲気のあるヨーロピアンデザインの彫刻があるが、それを台無しにするようなピンク色が全体に塗装されていた。
エルフ達はモーゼの十戒のごとく、一斉に道をあける。その馬車に対しても、彼らは恐怖しているようだった。
「? なんなんや一体?」
ナニワが首をかしげる。
馬車はナニワ達の前で止まると、エルフ達はそれに対して地面に膝をつき、頭を垂れた。馬車の中に、相当位の高い人物がいることが分かった。
そして、馬車の中からその人物は現れた。
初めに見えたのはガラスのハイヒール。ふわりとした印象の薄紅色のドレススカート。首や手首にちりばめられた宝石。
まさしくそれは、童話の世界から抜け出してきたような、お姫様のような格好をした女性だった。軽く外側に巻かれた髪型で、登頂から一本飛び出た毛がチャームポイントの、若々しい女性だった。
若々しい、人間の女性だった。
「「…………!!」」
ナニワとデカチョーは呆然とする。
この領域に人間はいないと、ドボデは明言している。
つまり、ナニワ達以外の人間は、先に送られた例の女子高生に他ならない。
ナニワ達が驚く中、その女は馬車から降りるや否や、能天気に言い放つ。
「やっほー。初めまして! 『挑戦者』さん!」




