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KIDS! ~小学生達の道草異世界冒険譚~  作者: あぎょう
クエスト3 ビンチの冒険
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其の八 妖精現る


「いやちゅうか! 『始まりだ!』やないわ、このどあほ!!」


 我に返ったナニワは、ジュウに向けて開口一番にそうツッコンだ。


「なに考えてるんだおまえは! 無関係な奴を連れてきて! ここがどんなに危険な場所か分かってるだろ!」

「ナハハハ! まあ気にすんな!」


 ナニワとデカチョーが交互にツッコみ、ジュウは楽天的に笑う。

 なおガミガミと責め立てる二人。その横で、当事者たる飛羽場は、かなり不機嫌な様子だった。


「……いい加減説明してくれないか? さすがの僕も、今の状況は理解不能だ」


 眼鏡の奥でひどく睨みつけながら言う。

 ナニワは深いため息をついて、口下手なジュウの代わりに、虚想世界(ガルニディア)の存在を説明し始めた。



「………ありえない。と言いたいところだが、体感してしまっている以上、認めざるを得ないな」


 説明を聞き終えて、飛羽場は困惑しながらも、今の状況を理解した。


「つまりここは……異世界。おまえらは想具(アテラ)という道具を探すためにここまで来た。あのマンホールはこの世界へと通じる唯一の入口だったということか」

「そういうこと。もう一度、あの穴に入れば帰れるから、心配しなくていいよ」


 デカチョーは樹洞を指してそう言う。(ゲート)は入るのは難しいのだが、無条件で出ることができるのだ。


「……………」


 飛羽場は険しい顔でその穴をじっと見る。

 そこで、何かを察したのか。


「ええ~!! 帰るなよ~ビンチ!」


 まるでだだをこねる子供のように、ジュウは引き留めようとする。


「オレ達と冒険しようぜ~! 想具(アテラ)探し手伝ってくれよ~!!」

「ええかげんにせえっちゅうねん! 俺達はともかく、いきなりこんなとこ連れられて、帰らへん奴が―――」

「いいだろう」


 飛羽場は言った。

 ナニワの声を遮る形で、そう答えた。


「……………へ?」


 思わず、聞き返すナニワ。デカチョーも耳を疑った。

 続いて彼ははっきりと言葉を紡ぐ。


「面白い。興味が湧いてきた。僕をおまえらの『冒険』とやらに同行させろ」

「「…………!!」」


 ナニワとデカチョーは驚き言葉を失う。ジュウは満面の笑みを返した。


「だろだろ!? 面白そうだろ!? ナハハ! 連れてきて良かったな~!!」

「勘違いするな。タコスケ。無意味な宝探しなどには興味無い」


 飛羽場は冷たい言葉で返す。


「僕が興味あるのは、この世界そのものだ。理解できないことは、理解できるまで追求するのが僕の性分でね。この世界を回って、少し考察してみたい。おまえらはその手伝いだ。僕の盾になれ」


 眼鏡を掛けなおしながら、クールにそう言った。

 絶え間ない知識欲。それが彼の原点だった。

 父からの英才教育に加え、東西万物の書物を読み漁る。次第に、知識を吸収する癖がついてしまっていた故の、彼の絶対個性だった。

 全く知らない世界に投げ出されて、帰る意思を見せるどころか、居続ける意欲を見せる。さすが『三変人』の一人といったところだが、デカチョーとナニワにそんな感心はさほどもない。

 額には青筋が浮かび上がっていた。


「な、なんちゅう自分勝手な奴や……!! 見下すのも大概にしぃや!」

「いい加減にしろよ飛羽場! ここがどんだけ危険な場所か、分かってないからそんなことが言えるんだ!」


 二人の激しい怒りに対して、飛羽場は「フン」と一言。蔑んだ目で応える。

 その時だった。


「あれあれ? こんなところに、ドワーフがいるぞ? もしかして、コーリッヒ?」


 一際甲高い声が、森の方から聞こえた。それに反応して一同が振り返る。

 同時に、驚いた。


 そこにいたのは、体長15センチほどの小さな妖精だった。


 紫色のショートドレス。花びらのカチューシャとサイドテイル。透き通った小さな羽が二枚、背中についていて、金色の鱗粉がわずかに舞っていた。

 だれが見ても明らかな、妖精少女。彼女が空中を飛びながら、不思議そうな顔をして近づいてきた。


「? おやおや? よくみたら違うや。少し大きすぎるし、かといってエルフでもないなぁ?」

「! よ、妖精……?」


 最初に口を開いたのはデカチョーだった。

 目を見開き凝視。その妖精は、デカチョーの面食らった表情に愉悦を感じたのか、ニヤリと笑って言った。


「そうともそうとも! ミラクルキュートフェアリー! 森の女王ミルファとは私のことさ!」


 くるりと宙返りして胸を張る。金粉がキラキラと輝いた。


「よっ! オレは天元じゆう! ジュウって呼んでくれ!」


 ジュウは警戒心皆無でそう返した。

 ナニワ達も続けて、


「俺はナニワや。よろしゅう」

「アタシは武町愛誠。みんなにはデカチョーと言われている」


 と、あいさつする。


「そしてこいつは、飛羽場識人だ」


 と、デカチョーが飛羽場を指す。童話の世界にしか居るはずのない存在を観察すべく、飛羽場はじっとミルファを凝視していた。

 その眼差しにひるみつつ


「と、ところでところで。あんた達何族? 見たことない肌の色だね?」


 と訊ねる。


「俺たちは人間だぞ」

「ニンゲン? 聞いたことない種族だなぁ」


 ジュウの答えに、妖精は空中であぐらをかいて首をかしげる。

 そこで、


「それより聞きたいことがあんねんけど……ここいらでなんか、集落みたいなのあらへんか?」


 ナニワがそう訊ねた。

 想具(アテラ)虚人(ガルディス)を惹きつける力がある。故に、大抵の冒険者は人の集まる集落を狙うのがセオリーということを思い出したのだ。

 実際。二か月ほど前の『熱帯の領域(エリア)』においても、集落の中に想具(アテラ)は存在していた。

 ナニワのその問に対し、妖精ミルファは笑い返した。


「あるよあるよ! なになに、そこに行きたいの?」

「ああ。訳あってなぁ」

「いいともいいとも! 案内してあげる!」


 ミルファは元気いっぱいに言い放つ。ジュウとデカチョーも笑い返した。

 しかし、ここで、飛羽場が眉をひそめて言った。


「待ておまえら。何かあやし―――」

「すっごくすっごく! 優しい人達だよ~!」


 だが、ミルファの陽気な声で遮られてしまった。そして、妖精はどんどんと森の奥へと進み、飛羽場を除く三人がそれに続く。


「? なにやってんだビンチ! 行くぞ!」


 ジュウが振り返り呼ぶ。飛羽場は眉間に皺を寄せながらも、渋々と後をついていくことにした。

 そして裏腹に、彼は思う。


(……まあいい。今に分かる。無知がどれほど愚かな事かをな)



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