間4
御供市。その真夜中。
電信柱の電灯がほのかに照らす道を、それは歩いていた。
頭から足先まで、すっぽりと被った黒いフード。その右手には、木製の薙刀が握られて、肩に掛けるように持っている。
そして、その顔は、般若の面で隠していた。
御供市七大不思議のひとつ。『般若の袖引き』。
ズリ、ズリリ、と足の裾を引きずりながら、それは歩き続ける。
すると突然。それの前に一人の男が、街角から現れた。
「……やっと、見つけたぞ……!」
男は、恨みのこもったような表情で、それを睨みつける。
右手には、ナイフが握られていた。
「……まさか、こんな近くにいたとはな。灯台下暗しとはこの事だ。くそっ。ふざけた格好しやがって。なんのつもりだ!」
声を荒げて、彼はナイフを目の前に構えた。
「…………」
般若は、答えない。
すこし、俯いた。
「悪いが、大人しく捕まってもらうぜ。俺の命が、かかってるんでなあ!」
そう言うや否や、男はナイフを構え、飛び掛る。
しかし、般若面の反応は速かった。
彼が踏み出すと同時、般若面は薙刀を両手に構えると、それを鋭く、横なぎに払った。
目測はすね。公式試合でも有効打とされる、必殺の一撃である。
「が、ああ!」
男は顔をしかめて、すねをおさえる。必然的に、動きを止めた。般若面はその隙を見逃さず、払った返しで、薙刀の先を真上へ。
男の顎を下から上へと、かち上げた。
ガンッという骨の音が、聞こえた。
「…………… !!」
ドサッ。
男はそのまま、仰向けに倒れた。
脳を縦に揺さぶられた衝撃で脳震盪を起こした彼は、白目を剥いて、そのまま動かなかった。
「…………」
般若面は、ただ無言だった。
無言のまま、彼のもとへと歩みを進めて、立ち止まった。
彼の姿を、じっと見下ろす。
そして、
その般若面へ左手を伸ばし、外した。
般若面の裏に一筋、キラリと光るものがあった。
涙。
一筋、頬を伝う。
そして、悲痛に満ちた声で、つぶやいた。
「………いつまで………」
そいつは、
彼女は、
その男を見ながら、つぶやいた。
「……いつまで、こんなことを続ければいいの……?」
女教師。雨下花瑠羽が、泣いていた。